038.旅立ちのとき(4)
この電車はエンジェルが用意した別の世界へ召喚するポイントがある時空に向かうための交通機関で、同時に別の世界で生活できるように身体を変換する装置だとイリスさんから聞いていた。
だから、これから起きる事を知らないのはタクヤだけだった。
電車は東に向けて出発した。この時間に走る電車は無い事に気付く人は殆どいないじょうたいだったので、問題にならなかった。たとえ気付いても、もうこの列車が個々に戻る事もないけど。
わたしを入れたゲージを荷物置き場において、ソファーに座ったタクヤは意識が遠くなってしまった様子だった。
「伊理さん、すいません。俺を眠らせてください。もし伊理さんが降りられる時に起こしてください。それとアサミになにか異常があったらいってください」
そういい残して眠ってしまった。電車内には静寂さの中に電動モーターの駆動音とレールの継ぎ目を車輪が踏みつけたときの振動が規則正しく感じていたが、それもやがて感じなくなっていった・・・
この瞬間、電車は偽装をやめてモーターの音をだすのをやめて、どこかの工場の引込み線に入ってから空を飛び始めた。すると、しばらくすると眩い光の雲の中を突き進み始めた。ついに別の世界に続くゲートに突入したのだ。
そのとき伊理さんの姿はイリスさんの姿へと変わり、ゲージの中からわたしを出した。
「アサミ様。いよいよ別の世界へと向かい始めました。通常ならほぼ一瞬で移動できますけど、これからタクヤさまにも変身していただきますが、その前にアサミ様に人間になっていただきます。
そういうとイリスさんはわたしの薄汚れた身体を美しい模様の入った布に包んだ。すると身体がドンドン巨大化していった。そして人間と同じぐらいのサイズになった。そしてわたしはしゃべれるようになった。
「イリスさん。まさか、このままの姿になるわけではないですのよね?」
「ええ、とりあえずそのサイズにしましたが、どういった身体にいたします。出来る限りのことをいたします。タクヤ様の好みに合わせることも出来ますし、絶世の美女にだって・・・そうそう、これから向かう世界ですが美的感覚は地球の日本と同じぐらいですから」
わたしはしばらく考えていた。絶世の美女というフレーズにもぐっときたけど、やはりタクヤに気に入られないと話にならない。そこで永川亜佐美の姿を基本にするようにといった。
「アサミ様。わかりました、永川亜佐美さまの生前の姿を基本にしますね。でもネコの年齢が若いので人間になったら地球で言うところの十九歳ぐらいの姿になりますよ」
十九歳? わたしはおもわず噴出してしまった。二十二歳で死んだ女が十九歳の少女として生まれ変わるのだから。