037.旅立ちのとき(3)
青シャツさんの挨拶の後、他のホームレスの人からも わたしたちが特別電車に乗るため備州大原駅にやってきたのは午後十一時半のことだった。
この時間は東に向かう最終電車が出たばかりだった。この駅は平屋建ての小さなところで夜間は完全に無人駅になるところで、いまは物凄く寂しい時間帯だった。
わたしがネコとして生まれたタクシーの営業所は、駅前の小さな広場に面していたけど、その営業所は灯りこそついているけど誰もいなかった。どうも最終電車に乗ってきた乗客を乗せていったようだった。
自動改札機に切符を通してプラットホーム入ったけど当然そこにはタクヤと伊理さん、そしてわたししかいなかった。
このプラットホームは日本の東西を結ぶ幹線にふさわしいと思うぐらい長い列車が止まれそうであったけど、もうそんな列車が停車することは無いと思えるぐらい駅の周囲には民家もまだらで、駅前にコンビニすらなかった。
この時、プラットホームには秋の虫の声が聞こえてきた。もうすぐ秋が訪れようとしているけど、わたしたちはもう日本いえ地球に戻ってくることはない運命だった。わたしは寂しい思いをしていたけど、それは死んでしまうよりもずっとましだった。永川亜佐美最期の瞬間、身体が四散し海の深い底に沈んでいくよりも・・・
そんな時、目の前に東に向かう貨物列車が通過していった。俺は鉄ちゃんではないけど、もう夜行の寝台特急というものはこの路線に走っていないのだなあと思った。むかし夜行列車に彼氏と二人で旅に行った妄想した事があったけど、今日は実現する時だ。
「伊理さん、寒くないですか? アサミの奴はスヤスヤと眠っていますけど、大丈夫かな電車に乗せても」
この時、わたしはゲージの中で眠っている振りをしていた。もうこの姿でいれるのもあとわずかだった。もう直ぐ肉体が復活し、タクヤと直接話せると思うとドキドキしていた。
「大丈夫だと思うよ。だって、こんなに良いネコだから・・・それに、あなたに一番なついていますし」
伊理さん、いえイリスさんはそういってタクヤに言ったけど、はやくタクヤに自分の気持ちを伝えたかった。でもタクヤはわたしを受け入れてくれるだろうか、それだけが気がかりだった。
そのとき西の方から電車がホームに滑り込んできた。その車両は今では首都圏や近畿圏でも見ることがなくなったような古い103系電車だった。しかも前後が先頭車の二両編成だった。その電車には乗客が誰もいなかったが、なかから車掌が降りてきた。
「お待たせいたしました。これから特別電車発車します、どうぞお乗りください」




