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003.アサミとタクヤ(2)

 タクヤが突然クビになってしまったのだ。しかもある日突然の出来事だった、派遣先の工場が経営破綻したためで、生活していた寮も問答無用で追い出されてしまった。この時、世界恐慌の再来か? と思われるぐらいの経済危機が全世界に波及していたのが原因だった。


 社員寮を追い出された多くの派遣従業員は実家や親戚を頼っていったり、行政の緊急措置で別の住宅へ行く事ができたが、タクヤ自身に責任はないことであったが、その全てのセーフティーネットから漏れてしまった。


 タクヤには貯金も僅かながらあったが別のアパートを借りれるほどもなかった。原因は運が悪い事に病気で長期療養をしていたので、貯蓄の殆どを費消していたためだ。しかも両親も兄弟も全て死別していたので、頼れる家族もいない天涯孤独の身だった。


 さらに運が悪い事に、過去の病気が再発し働く事も出来なかったので、わすかな期間で終わるはずだからとガード下で野宿するようになっていた。そうホームレスになってしまったのだ。窮すれば貧するという言葉が当てはまる惨状だった。


 タクヤが流れ着いたガード下では同じような境遇の失業者がたむろしていた。その時いたのは地方都市であったが、行政の救済策から漏れたホームレスは少なくなかった。タクヤは四十を過ぎてここまで落ちぶれた自分が情けなかった。


 この頃、世間では国際的経済クラッシュとともに、グロヴァル・コスモリアンと自称していた国際的テロリストが突如自滅したという報道でもちきりだったが、このガード下の最下層の人々にとって関係ないことであった。とりあえず明日の朝が迎えられるかどうかすらわからなかったからだ。


 病気に苦しむタクヤは、ある日僅かな貯金をおろして買ったスーパーで半額値引きされた定価298円の弁当と、スーパーのトイレで汲んできた水で、晩御飯にありつこうとしていた。これがその日唯一の食事だった。


 そんなわびしい食事をしていると、若いときに結婚しておけばよかったのにと、後悔していた。たとえ失業しても彼女のためにもう一度起き上がろうという気概が起きていたかもしれないとおもったからだ。だが、もう遅すぎるのかもしれなかった。こんな貧した中年ホームレスが女性と結ばれるなんて未来を想像できなかったのだ。


 そんな荒んだ気持ちで箸を持っていると、目の前に汚れきっていたが見覚えあるミケネコがどこからともなく歩いてきた。いつも昼休憩のときにノミ取りをしたりご飯をやって可愛がっていたアサミと名づけたネコだった。


 「アサミ! お前どうしてここに!」思わずタクヤはアサミを抱き上げていた。それに反応するかのようにアサミもうっとりとした顔をしていた。でもアサミは弁当の中にあったチクワに手をかけようとしていた。


 「なんだお前も腹をすかしているのかよ! まあ、今日のところは再会記念としてお前にくれてやるぞ」そういってタクヤはチクワを手に乗せアサミの口元にやった。


 「なんだ、すぐペロリかよ? でも俺を追いかけてきた女はネコのお前が初めてって事かよ!」

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