029.グロヴァル・コスモリアン(4)
『オーシャニアン航空653便爆破事件』の報告書をパラパラめくった奈緒美は信じられないといった表情をしていた。
「お父さん、やっぱり実行犯はあの少女だったというの?」
「そうだよ。あの時世界各国で数百機に爆弾をつけて、そのうち八十四機が被害を受けたけど、成田空港で付けられた十五機の犯人はあの当時十歳の少女だったわけだ。自分では純真な気持ちでやったようだけど洗脳されたわけだな。まあ、国家が愛国者を騙すみたいなものだと思うよ」
「わたし最初信じられなかったけど、あの子超能力というか魔法というか判らないけど、空間を転移させる力があったとは」
二人の会話を聞いて意味が判らなかった。わたしが思っていたのは整備士か航空会社の職員が買収されたのではないかと疑っていたけど、どうも爆弾をなんかの力でつけたということらしかった。しかも少女が!
「ワシも最初聞いた時にはそんなの絵空事だとおもったよ。でもグロヴァル・コスモリアンの正体が超能力を持ち選民思想によって歪んでしまった者達だということを知ってワシは驚愕したよ。
しかも自分たちこそが生き残る人類だなんて思ってテロを実行していたのだから。だからといって人類同士を憎み合わせて世界大戦で共倒れさそうとしただなんて・・・」
「それにしてもお父さん。その女はどこにいるのよ? 報道では全く名前も年齢も言わないし」
「彼女は今は精神病棟に隔離されているそうだ。なんでも超能力で非常に多くの人を不幸にしたことを知ったために、精神が崩壊したそうだ。奈緒美もわかるだろ、そんな状態じゃ罰せられない事を。
それが彼女にとっての罪と罰ということなのかも知れない。せめて自らの罪を悔い改めるぐらいに回復してもらいたいものだ」
「姉さんもあの人も彼らからすれば害虫のひとつぐらいにしか認識されていなかったわけなのね、駆除されるだけの存在だったとは。
それにしてもグロヴァル・コスモリアンの指導者がどうして全ての罪を認めたのかな。そこんところ報道でもはっきりいわなかったけど、この書類には信じられないような事が書かれているわね。
エンジェルに全否定をされ能力も取上げられ人間以下の存在に陥れられて、服罪しなさいといわれた、と。一体何をいっているのかな、これって」
「ワシも判らない。もしかすると神による最後の審判よりも前に、審判を言い渡されたのかもしれない。そういうことかもしれない。まあ本当のところは永遠にわからないかもしれないけど」
この時、あたしはイリスさんが言っていたミームを取り除いたという意味がわかった。多くの人を不幸にしたのは、魔法使いによるものだということを。