024.戻らない日々そして今は
わたしはネコのアリスの身体に憑依して人間だった時の自分の部屋にいた。そういえばアリスを抱いてこのベットの上でよく寝ていた事を思い出した。いまはアリスの身体に意識があるから不思議ではあるけど。
ベットのうえに横になったわたしは部屋を眺めていた。親友の美保子と一緒に行ったアーティストのコンサートで買ったポスター、教育実習に行くために一生懸命勉強した際に使った参考書、就職活動のときに着ていたリクルートスーツ、家族旅行で行った時に買ったペナント・・・どれも、永遠に戻る事の無い日々の思い出だった。
わたし、永川亜佐美の時間はもう動く事はもう決してないのだ。ここにあるのは主を失った記憶遺産でしかなかった。しかし、今わたしの意識はこうして存在している・・・ということは、わたしってなんだろうか?
「イリスさん。わたし本当はこのまま永川の家にいたい! でも、それは無理な事なのはわかっている。だってタクヤと一緒に未来に行こうと決めたのだから。それにしてもアリスの魂っていまどうなっているの? もしかして寿命が短くなったりしないよね」
「ネコちゃんの魂は相当消耗していますけど、とりあえずあなたが憑依している間は残余寿命のカウントダウンは止まっていますから、大丈夫です。
そうそう、残された時間はあまりないのでアサミさまの家族に合わせてさしあげましょう。もうすぐ、あなたの妹さんが帰ってきますよ。そうそう、今日は彼女にとって特別な日ですから」
「特別な日? 奈緒美の?」
わたしは妹の奈緒美の事を思い出していた。奈緒美はわたしとは三歳違いで、わたしよりも勉強が出来て将来を父に嘱望されていた。
でも、わたしとは仲が良くて何でも話をしていたけど、さすがに彼女のほうに彼氏が出来た時は本気で嫉妬したけど。そのとき、開いていたドアからスーツを着た三十過ぎの女がドカドカと入ってきた。
「まあ、アリス。なんでお姉ちゃんの部屋に入っているのよ! いくらお前の命の恩人だといっても、勝手に入っちゃだめでしょ!」
顔は大人びていたけど、奈緒美だった。彼女の胸には弁護士バッジがついていたので、学生時代の夢が叶ったようだった。
「お姉ちゃんって、いまごろどこにいるんだろうね? 神様に早くして呼ばれたから天国で幸せに暮らしているのかな? それよりも、アリス! お前お姉ちゃんのところに早く行こうと思わないでよね。今日は私の結婚相手を父さんに紹介するんだから、彼と結婚するまで生きているんだぞ!」