023.アリスの身体へ
わたしの意識は遠くなったと思ったら、見たことのあるソファーの上で横になっていた。そのソファーから見えたのは、わたしと母の大きな遺影だった!!なんとわたしは永川家のリビングにいたのだ。
「どういうことにゃの? わたしってどうなっちゃったのよ?」
そんな風に戸惑っていると目の前にイリスさんが現われた。しかもホームレスの伊理さんの姿で。
「アサミ様はいま、あなたの実家にいるのです。ただ、今回は条件がついていましてネコの身体に憑依していただいています。だから日が暮れるまでに元のネコの身体に戻らないと死んでしまいますから、手短に行動してください」
わたしはソファーをゆっくりと立ち上がり、洗面台の方に歩こうとすると、身体が鉛のように重い! それに毛の艶もない! なんて酷いネコなんだと思っていた。その時わたしは鏡をみるとそれはアリスだった!
アリスは教育実習生だったタクヤが里親を探していた子猫で、器量が悪く引き取り手が無かったのでわたしが引き取ったのだ。それにしても二十年も生きていることになるから、相当な年寄りなのだ!
「そのネコですが、もうすぐ寿命が終わるようですわ。ちょっと骨かもしれないですが、とりあえず現在のあなたのお父様と妹様のご様子だけでも見させてあげます。これは特別な事ですからね。
そうそう、もう二度とこの世界に戻ることはありませんので堪能してください」
わたしは動き辛いアリスの身体でゆっくりと家の中を歩いていた。永川亜佐美の人生最期の日に見た家の中と違うのは、家電が新しくなった事と祭壇(永川家はクリスチャンだった)の横にわたしと母の遺影が置かれていたことだ。
それはわたしが大学の入学式の時に母と一緒に写ったものだった。その写真の置き方でわたしはもうこの世の人間ではなくなっていたことを自覚せずにはいられなかった。
アリスの姿である部屋に入ろうとしたが、ドアノブをまわそうとしたがアリスの身体では届かなかった。するとイリスさんが開けてくれた。
そこは亜佐美の部屋だった。最初わたしは何も残っていないと思ったが驚いてしまった。あの日この家を出かけるときと様子が変わっていなかったからだ。
わたしが、あの日目覚めたベットも机も本棚もクローゼットも壁に貼っていたポスターもそのままになっていた。そう、わたしが帰ってくることを待っていたかのように! 唯一違うのは机の上に家族四人の写真とともに私が貰うはずだった大学の卒業証書とわたしの写真が綺麗に置かれていた事だった。
「アサミ様のお父様は、あなたが帰ってくるはずだと思ってずっとこのままにされていたようですわ。姿形こそ変わっていますけど、こうして帰ってこれたのですから・・・」
そういってイリスさんは少し悲しそうな表情をしていた。




