223.砂浜のアサミ
ルッチャ砦は海岸からそう離れていない崖の中腹にあったので、すぐ下りれば波打ち際に行くことが出来た。砦の下には小さな入り江の船着き場があって、アサミたちが使った魔法船とサランジャーが使っているものと思われる小さな船があった。
魔法船は魔導士だけが使える船で、永久炉よりも稼働機関が短い魔道炉が生み出す推進力で進むことが出来たけど、機械の原理を理解できないアサミには見当もつかないシステムのようだった。それはともかく、アサミは小さな入り江を超えて潮騒のする砂浜に腰かけて暗くなった海を見つめていた。
暗い海の先には。明日の朝向かう漁師の集落と思われる明かりがともっていた。サランジャーによれば集落の本体は海底に沈んだ巨大な金属球であるが、海面に空気の取り入れ口と船着き場と何軒かの水上住宅が浮島の上にあるということだった。
アサミは、熱い空気がまだ残っていたので、薄い布で出来た服を羽織っていたので、自分の腰から伸びるネコの尻尾を見つめていた。それはネコ耳娘になる前のネコだったときの名残だった。その尻尾を見ているとネコだった時の事を思い出していた。再会したときは工員でそのあとホームレスになったタクヤの事を。
本当なら、こんな中途半端な姿でこの世界に召喚されたくなかったとアサミは思っていた。意識は人間だった時のものが復活したといっても、完全ではなかったからだ。
その時、相談しようにもキュリットロスは沈黙したままだった。彼女は何日かに一回、夜全く反応を示さない時があって、たまたまこの日があたっていたからだ。だからタクヤとケンカしたことを相談することが出来なかった。
打ち寄せる夜の波を見つめていたアサミが目線を上にやると、満点の星空が広がっていた。それを見ていると、その星のどこかに地球があるような気がしたので寂しくなった。もう二度と生きて戻ることのない星の事を思い涙を流していた。
父も妹も元気でいるだろうか? そう考えているとさらに寂しさが胸に積もって切なくなっていた。この世界に来てからの心の支えだったタクヤとつまらないことで喧嘩して後悔していた。ああ、タクヤに謝りたい、でも謝ることが出来ない・・・そんなことを思いアサミは気が遠くなってしまった。




