216.影の首魁
アサミとメイファンが念を込めるとものすごい勢いで進み始めた。そしてあっというまに先行するエヴァ・エリに追いついていた。彼女? はネコらしく急な斜面を駆け上がっていたが、寄る年波のせいか段々と遅くなっていた。
「おい、そこの女! こっちを助けてくれないか? このままじゃあ動物虐待だろ!」
ヴァークロウは叫んだが、どうすることも出来ない状況だった。下手に後ろから押すとバランスを崩して元の場所に真っ逆さまになりそうだった。すると上の方からエヴァ・エリの首を掴むものが現れた。それはギルド所属の巨大なデラル鷹だった。
「おそいじゃないのよ、あんたたち!」
メイファンは少しおかんむりな感じで言ったが、とりあえず最初のミッションの目的は果たせたので一安心だった。
それはしかし、魔導士研修生三人が死に、ダンジョンは崩壊し、その中にいた職人は虐殺され、その上にある町は壊滅的な被害を与えたのと引き換えだった。
「これから、どうなるのかな叔母様もわたしも、そしてアサミたちは・・・」メイファンは先の事を思うと暗くなってしまった。
同じころ、消滅爆雷を起爆させ逃亡したウィンギウム・チャガスは、その黒い闇の身体を宙に舞わせながら郊外へと逃げ出していた。途中ギルドの兵士達は誰一人気づくものはいなかった。
「雑魚兵ばかりでよかった。これが最高レベルの魔導士部隊だったらこの俺も無事でいらねかったよなあ、お前さん!」
ウィンギウム・チャガスが声をかけたのはジェムシームからアサミを尾行していた行商人に扮した者だった。奴は様々な貝殻を持っていてそれを売っているようにみせかけていたが、それらは全てカムフラージュだった。
「おうウィンギウム! なにもダンジョンの哀れな職工を皆殺しにすることはねえだろう。あれだけの面子をもう一度ギルドの警戒網を掻い潜ってそろえるのは難しいだろ。やつら自分たちの親方を助けるために仕方なくしていたんだからな」
「なんだ知っていたんか? でも、新しい魔道具の実験台になったんだから無駄はないさ! どうせ、おそかれはやかれ死ぬのに変わりはなかったんだからな」
「それもそうだな。ところであのネコ耳娘。黒き結界の呪魂の壺を本当に破壊したのか?」
「ああ、壊したさ。並みの魔道士だったら、あんな風にはならないだろ。やっぱ首魁様が見込まれている事だけの事はある。やはり、伝説の破壊の魔女の生まれ変わりに違いないようだ。でも、あいつの魂にはもう一つ別の魂が纏わりついでいるぞ! あんなの聞いてはいたけど、この世にあるもんだなあ本当に。
本当に破壊の魔女を復活させるには、その魂を分離させないといけないな。ところで、その方法を首魁様から聞いているか?」
「それか? 首魁様はおっしゃらないけど、何か策があるようだ。もっとも、簡単には教えてくれんけどさ」
「それよりもお前さん! お日様がもうすぐ登ってくるから俺は隠れるぞ! 明るくなったらかえって目立つからな俺の身体は! 取りあえずあの古井戸で休んでいるから、あいつらの見張りを頼むぞ! 次に会う時には、あのネコ耳娘を影に落とすから絶対に!」
そういってウィンギウムの身体が井戸に隠れたのと同じ時に、太陽が昇り始めていた。その貝の行商人は手に小さな貝殻を持っていじっていた。
「今回のうちの作戦はとりあえず成功だな。まあ、あいつを必要以上に虐殺を楽しませただけかもしれないな。とりあえずこっちも姿を隠そうか」
そう言い残して立ち去った丘の下ではおびただしい数のギルドの要塞馬車の大群が進んでいた。その先のサンミュアッツの町の至るところから、炎や煙が幾筋も登っていった。
今回で「ダンジョンの中で待つモノとは?」編は終了です。全四〇話でしたが、アサミが破壊の魔女の生まれ変わりというのを確かめるための罠でした。
次章はインターミッション的な話をはさんで、「影の魔導士」との関わり合いが増えていく予定ですの。もしご意見等などございましたら感想欄にてお願いいたします。




