210.超光波の弓
アサミは超光波の弓を手に持とうとしていた。通常ならこんな強大な結界の中にいるときにこんな一時的に無防備になるようなことをすれば、危険なはずだがアサミの身体から発せられる結界はさらに強大になっていた。それは黒い結界にも勝るとも劣らないものだった。
その結界に恐れをなしていたのは、その場にいたキュリットロスと他二人だった。アサミが味方でいてよかったと思っていたが、もし敵だったら・・・おそらく命は消えていただろう。
アサミが手にした三叉の黄金色の矢には恐ろしい黒い魔道力が渦を巻きながら強大化していた。それは一種の底なしの渦。地球の科学でいえばブラックホールみたいなものだった。そのためか猛烈な勢いで矢じり目がけて渦を作っていた。
「アサミ、結界の正面ではなく後ろの赤い点みたいなところに矢を放って! チャンスは一度しかないから!」
「どうして正面じゃないんかよ! ふざけるなよ!」
アサミは怒鳴ったが言われたとおりに背中を見た。すると結界の薄い所の先に赤い木の実のようなものが見えたので躊躇なく矢を放った。
放たれた超光波の矢は黒い光を強く放ちながら向かっていった。その矢は進むに従いどんどん太さを増していき赤い木の実を打ち抜こうとする間際には人間の胴体並みに巨大な矢になっていた。そして衝突した瞬間、ものすごいエネルギーの解放が起きた。
その瞬間、上下方向に衝撃波が生じダンジョンの天井と床を貫いでいった。その衝撃波は地上にも到達しており、市民の避難が終わったサンミュアッツの中央市場に巨大な穴を出現させていた。それを見た魔導士ギルドの特殊部隊の先遣隊が大騒ぎになったのは言うまでもなかった。
そのものすごい衝撃波にフィルビーもヴァークロウも吹き飛ばされており、全身粉塵まみれになっていた。瓦礫の中から顔を出したときには遥か頭上高い所に小さな星空が見えていた。
二人はアサミの姿を探していた。彼女は無事だろうかと心配になっていた。もしかすると闇の方に心が攫われているのではないかと憂慮していた。
「アサミ! どこにいるんか? 大丈夫か!」
フィルビーの呼びかけにアサミが返事をしていた。彼女は瓦礫の下に埋もれていた。それで二人で瓦礫をかき分けるとアサミの顔が見えた。その顔は先ほどまでの阿修羅のようなものではなく普段のアサミの温和なものに戻っていた。
「アサミ、よかったいつものアサミに戻って! でも、さっきの君はどうしたんだよ!」
するとアサミは泣き始めてしまった。どうも何かの緊張の糸が切れてしまったかのように。
「わ、分からないわよ。わたしなんであんな恐ろしいことをしたのか・・・あの結界は哀れな人たちの魂の集合体だったのにわたしは・・・」




