209.影のある太刀風
アサミが今持っている剣は物質よりも結界のように一種のエネルギー体に反応するのもだった。だが、いま目の前にある黒い結界の正体とは・・・
「さあ、来なさい! わたしが蹴散らせてあげるわよ」
アサミの表情が大きく変わっていた。それは何者かに憑依したかのようだった。アサミが放った剣の太刀風によって一瞬、黒き結界が後退したかと思ったのも束の間。今度はアサミに襲い掛かってきた。
「アサミ、一気にこんなに結界が襲ってきたらわたしだってそんなに持たないわよ。とりあえず引いて!」
「わかっているよ、甲冑はおとなしく私を守ればいいんだよ」
その言葉にキュリットロスは驚いていた。アサミがそんな風に自分を呼んだことはなかったからだ。
それはフィルビーも一緒で、温和なはずのアサミの顔に狂気が宿ったような雰囲気があった。もしかするとアサミの影が表に出てしまったようだ。その顔は阿修羅のような鬼気迫るものがあった。
「アサミ! その顔はいったいなんだ?」
アサミは振り返りもせず結界に飛び込んでいった、その結界は有機物など一瞬に消滅させるような強腐食性の性質を持っているものだったが、それにもかかわらずアサミは大丈夫だった。どうもアサミの身体から結界が生じているようだった。しかしその結界の色はわずかに色合いが違っていたが、黒いものだった。
「なんてこった! アサミもまさか向こう側の魔導士だったのか? そんな結界が出せるだなんて本当に研修生なのかよ!」
ヴァークロウは叫んでいた。彼も同じ研修生とはいえ幼い時から父親の魔導士の仕事ぶりをみていたから、魔導士の相手を幾度もみたことがあった。「敵方」である闇の魔導士も・・・いまのアサミの結界は闇の魔導士そのものだった。
アサミの太刀風が振るわれるたびに黒き結界は千切れていったが、そのたびにいくらでも襲ってくるのでキリがなかった。どうも黒き結界の正体は一種の生命体のようだった。
「おい甲冑! 黒い結界ってこんなゼラチンみたいなものかよ! どうすりゃいいんだよ!」
乱暴な口調になったアサミはキュリットロスに意見を求めてきた。余りの事に驚いている余裕はないのでアドバイスすることにした。
「アサミ、これは物理的な結界じゃなくて霊的物質による結界だ! だから太刀風で振るうだけでは止めることが出来ないわ!」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
「これから出す超光波の弓を使ってちょうだい。それを言うところに放って!」
アサミの腰に大きな黄金色の弓が出現した。その矢じりは三叉の鉾のようになっていた。




