199.拾ってきた剣・・・
ルンファはひどい怪我をしていた。話によればゼイリオスをかばって負傷したとのことだった。エリン公はすぐに医師を呼んで治療させたが、そのままエリン公の官邸に留まるように指示した。いまのところ、二人がダンジョンからの唯一の脱出者だったからだ。
官邸の狭い部屋には続々と魔導士ギルドから派遣された者が行きかっていたが、誰もダンジョンに入ることが出来なくなっていた。ルンファが脱出した直後から結界が強化され、人体が耐えられないレベルに達していたからだ。
またダンジョン・デ・サンミュアッツの真上にあるサンミュアッツの町にも異変が起きており、地下から何とも言えないうめき声が聞こえだした。しかも絶え間ない振動が起きていたのだ。
「とにかくサンミュアッツの住民は3キラ・チャート(約9キロメートル)以上離れた地点まで避難する事! また、警察隊は市内にあるダンジョンの出入り口を警戒する事。ただし、危険だと判断したら逃げ出すことは許可する。また万が一にそなえ、公国政府はタラビュシュ村に即座に移転。もし私に万が一の事があれば、立法院議長が国家元首を代行する事・・・」
エリン公爵はいままでとは比べ物ないぐらい厳しい表情で各部署に指示を出していた。もうオオネコを探している事はどうでもよくなっていた。
「ルンファさんよね? 他のメンバーが閉じ込められたといっていたけど、フィルビーさんとアサミさんはどうなったの?」
メイファンは少し焦りをみせながら聞いていた。彼女は秘密組織”筆頭統領の夜食番”所属であったが、今回の本当の使命はアサミとタクヤを監視する事だった。しかし途中でそれもできなくなっていたが。
「私たちは、元来た道を戻っていたんです。しかし途中でうめき声が聞こえたのよ。それで行ってみるとそこには四人が倒れていたのです、しかもそのうちの二人は無残な死に方をしていたのです。その人たちは一緒にダンジョンに入った魔導士見習いでした」
「それって、ヴァークロウ・ラヴェルス班か? たしかあの班は今期最高の評価だったはずなのに、なぜ?」
メイファンは驚きを隠せなかった。魔導士の訓練にダンジョンを使う事はしばしばあるが、訓練で死者が出るなんてここ五十年はなかったことだった。しかもこのダンジョンはこの大陸でも無名なところだというのに。もっとも下見を一切していないという問題もあったが。
「わからないのは、そこからなのよ。ラヴェルさんの話では急に襲われたというのだけど、相手の姿が見えなかったそうなのよ。特にサクロスという人が剣で立ち向かったんだけど、生皮をはぎ取られて殺されたそうよ。彼の無残な遺体は思い出しても・・・まるで仕留めた獲物の皮をはぎ取ったようだった」
そういってルンファは「サクロス・エクサス」と柄に書かれた剣を差し出した。それは護身用として拾ってきたものだった。
「わたし護身用の武器といえば小さな弓しか持っていなかったのよ。だから悪いことだけど剣を拾ってきたのよ。それで結界の手前までラヴェルスさんと一緒に戻ったのだけど、途中でよくわからない奴から攻撃を不意に受けたのよ。それで彼を庇って大きなけがをしたのよ。そいつはアサミに撃退してもらったから助かったけど。
それであともう少しまでというところで結界が強くなり始めたので、フィルビーさんにお前だけでも脱出しろといわれ、駆け出したのよ。そして振り返ったら結界が完全に閉じていたのよ」
そこまでいったところでルンファは気を失った。彼女の手にはサクロスが持っていた剣があったが、その剣に付着した血糊をメイファンが嗅ぐと恐ろしいことを言いだした。
「叔母様、いやエリン公爵。これは公国警察隊では太刀受けできない相手ですわ! 一刻も早く全住民を脱出してください! 相手ははぐれ魔導士の妖怪ウィンギウム・チャガスの血を引いていますわ!」




