019.タクヤとデート(前編)
イリさんにお願いして、あたしとタクヤを夢の世界で会わせるようにしてもらった。実際はタクヤの心とわたしの魂をリンクさせてもらう、いわゆる仮想現実の中でだったけど。
舞台は私が通っていた当時の大学構内にあるカフェテリアだった。ここは山の中にあって景色がよかったので人気のデートスポットだった。でも今はどうなっているかはわからなかった。
わたしは彼の姿を探していた。わたしの姿も二十二歳で散華する直前の姿にしてもらった。さすがにネコのアサミではデートではなく、ただ可愛がるだけになってしまうからだ。
服装も散華した時の服装ではなく、大学の卒業式の時に着るはずだった晴れ着にしてもらった。これは亡くなった母さんが卒業式の時に来ていた振袖だった。
タクヤはカフェテリアの端にある眺望が最もよい位置に座って待っていた。イリさんの計らいで、今の落ちぶれたホームレスの彼でなく、最も彼の人生の中でも良かったと思われる時期の姿になっていた。
そこに向かって私はあるいていたけど、こんな風に男の人とデートしたなんて事人間だった時になかったので、少し嬉しかった。でもこの状態って私は幽霊みたいなものよね。その姿を見て彼は少々驚いているような顔だった。
わたしは彼に向かい合うように座った。始めて会った時よりも彼は逞しいと思った。もちろん今の彼も中年の味わいがあっていいけど、こちらの方が断然よかった。
「永川さん。君って大学生なの?」
彼はなぜ名前がわかったのかが自分でも不思議な顔をしていた。彼と私が最後に会ったのは高校時代以来だけど、それってもう十八年も前の事よね? わたしからすれば八年でも。
「迫崎先生、お久しぶりです。わたし、女子大生と言われるのもあと少しですよ! もうすぐ卒業ですからね。でも、卒業したらと約束していたじゃないですか。私とお付き合いしてもいいと! そう今年の年賀状に書いていましたけど」
わたしはそう言ったが、これは私が最後に受け取った彼からの年賀状の返事に書いてあった一文だった。それで、わたしは社会人になったらタクヤに会いたいと思っていたけど、生きていたときに果たせなかった。
「そうか永川さん。そうすると就職ということよね? 決まっているのか? 俺の時も就職するのは難しかったけど」
「先生、わたしを苗字にさん付けで呼ぶのはおやめください。これからは亜佐美と呼び捨てでいいですよ。それに先生、わたしも先生をタクヤと呼び捨てで良いですよね? だって、これからわたしたちはずっと離れることなく一緒なんですから!」
わたしはそういった。これが私の望みであるし、いまここにいる目的だったからだ。