182.ダンジョンへの入り口
ダンジョン・デ・サンミュアッツはサンミュアッツ市内の地下を縦横に広がっているが、人間が通れる入り口は一カ所しかなかった。 エリン公爵のボロボロの官邸で、物置の門扉にしか見えないような錆びた鉄製の扉の前に、一人の老人が安楽椅子のうえで眠っていた。どうやら彼が「巨大なネコの聖獣」エヴァ・エリをダンジョンの中に入れてしまった張本人の門番のようだった。
「ヒヴァールさん、起きてください。あなたの日課なのはわかりますけど用があるのですから。ダンジョンに入る扉を開けてください」
門番の老人は酒臭い息を吐きながら寝ぼけ眼でエリン公を見つめていた。それはまるで夫婦のようだったが、とてもじゃないけど公国のトップがとる態度でもないし、そのような態度もたられていなかった。久しみやすいのか敬意の対象になっていないのか、そのどちらかもしれなかった。
「閣下・・・おはようございます。言われていた魔導士ですか? 思っていたより大勢来ましたですね。よくお金ありましたね、うちに。
てっきり、わしの酒代で頼まれるんだと思っていたので、二・三人ぐらいだとおもったので。九人もなんて。わが公国始まってい以来の事じゃないですか」
「まあ、これもこれも色々と頼み込んだんですよ。わが公国の財政も火の車なんですからね何十年も。だから、とっておきの裏技を使いましたわ。
それにしてもベースアップの代わりにあなたに酒を支給したのは間違いだったわ。コプラ商店が仕入れてきた賞味期限切れの酒で悪酔いしたんでしょ! あのとき門扉のカギを開けるなんて!」
そういってエリン公爵が視線を落としたのは門扉の脇に大量に置かれた古そうな瓶に入れられた酒のようなものだった。それは、どこかの不良在庫だったようで、瓶を入れる箱も古びていた。アサミからすれば飲むような気がしない代物だった。
「閣下、お言葉ですが、わたし記憶ありません、開ける用事などないのですから。前後不覚になったのは間違いないのですけど、何が起きたのか一切知りませんからわしは。でも、何を言ってもわしが悪いのですから」
「そうよ、あなたが悪いのよ! 本当のところはクビにしたいけど、こんなヒマな仕事を頼める人はいないし、あなたの生活もあるのですから。とりあえず、開けてちょうだい!」
「わかりました! それにしても今日はダンジョンから門扉を開けてほしいという連絡がありません。どうしたものでしょうかね閣下」
「それは、あなたが出向かないといけないですわ。あなたの息子はどこにいるのですか? 彼を呼びなさい」
「申し訳ないです、倅は不用品を売りに隣国の古物商に行っております。少しでも魔導士さんを呼ぶお金の足しにしようと思いまして」
「お金はいいわよ。仕方ないわね、ダンジョンのカギをあなたとわたしで開けましょう」
そういってエリン公爵とヒヴァールは門扉の両脇に立ってカギを同時に開けた。すると扉が開き始めた。




