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167.神殿の老神官

 この世界の宗教は一種の自然崇拝に近いものだった。様々な事象や文物に精霊が宿るとされていて、ちょっとしたところに大小の礼拝堂も兼ねた神殿が存在していた。一行が向かっていたのはまさにティアム山を崇拝する宗教施設であったが、山そのものを拝むのは山全体が見えるところですればいいのであるから、困難な登山をして、わざわざ山頂近くにある神殿に行く必要性が少なかった。


 ファラビー班が神殿にたどり着いたのは、まさに稜線にお日様が沈もうとしている時だった。そのとき、神殿の戸締りをしている最中だった。


 「お前さんたち、よう来てくれたね。明日の昼間ぐらいになると思っていたけど、二日で登り切ったんだね。お疲れさま」


 出迎えてくれたのは、戸締りをしている老婆だった。その老婆は容姿は深いシワを顔中に刻んでいたけど、背筋はピンと伸ばしていており戸締り用の相棒を軽々と持ち上げていた。


 「おばさまって、私たちの事をご存じなんですか?」


 「ええ知っているわよ。大きな方はファラビーさん、ネコミミの方はアサミさん。サル娘の方はルンファさん。そしてそこの大きな剣を腰につけているのはタクヤさん。

 そうそう、今日はもう下山することはできないから泊まっていきんさいや」


 そういって神殿の内部に案内してくれた。その神殿は山頂近くにあるにしては敷地は広く数百人が生活できそうな居住スペースがあったが、明かりがついているのはわずかだった。


 「ここって、こんなに広いのに住まわれているのはおばさまだけですか? こんなに広いのに人の気配がしないのですが」


 「うんにゃ、あとは神官をつとめているじいさんと飯炊きをしてくれるばあさんだけさ。おっと、じいさんといってもわしの連れ合いじゃないぞ。わしは、いまここで雇われているだけだからね。

 本当は参拝シーズンになれば麓から働きにもっと来るけど、いまは時期はずれだからな。こんな山の上に登ってくるのはあんまりいないからな」


 そういえば、中腹にある拝殿からここに来るまで誰一人出会うことがなかった理由はそれだったようだ。困難な山登りをするには今は中途半端な季節だったようだ。


 「それよりも、私たちは魔導士ギルドの研修の一環でここに来たのですが、その関門として神官に参拝を証明するものを用意していただきたいのですが、明日出発するまでによろしくお願いします」


 「ええ、わかっております。神官、ギウム・ファーレンゲロルガーさんですが、あなたたちと一緒にお食事してくれるはずですから。なにせ、ここに参拝客がくるのは十日ぶりですから、寂しいですのよ年寄り二人が山籠もりしている生活をするのは」


 そういって案内されたのは神殿の大広間だった。ものすごく広い空間にもかかわらず。端っこにわざかな食卓が置かれているだけだった。それは巨大な闇の一隅だけが明るくなっていた。そう闇夜に浮かぶ月のようだった。

 そこには長いひげを蓄えた老人が着席して待っていた。そして。もう一人の老婆がこの部屋にいる人数分の配膳をしている最中だった。このひげの老人が神官のギウムだった。


 「未来に活躍する若い魔導士の方々。よく来てくれた。これからささやかな晩餐をしようではないか!」

 見た目とは異なる若々しい声が大広間に広がった。

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