016.アサミの救済案(3)
「それは可能です。ただ、その場合は今地球のあるのとは違う宇宙、わかりやすくいえば違う世界から召喚してもらうことです。
実はこの宇宙は膜状の複雑な構成になっておりまして、あらゆる空間とは繋がっておりまして、わたしら管理している宇宙はいくつかありまして、そのうち・・・」
エンジェルさんの説明は一時間近く続いたが、死ぬ前は文系だった私にとってなんのことか判らない話題だった。まあ宇宙物理学が好きな理系女子だったら目をときめかせていたかもしれないけど。
「長い講義ありがとうございます。とりあえず、この世と同じ世界はいっぱいあるんですよね、そんな話だったんですよね」
「まあ、そんなところです。この地球も三千万世界のひとつフェアテクド582に属していますが、他の世界なら召喚という手続きをとればいいです。
いくつか候補はあります。まず、ナヴァル558の惑星ジヴァル。ここは高度な科学文明社会でして、とりあえずあなたは他の惑星からの難民ということにしましょう。
この場合は永川亜佐美様の肉体を再構成します。もっとも、その惑星の住民は機械化されるのが居住の条件ですが・・・・」
「そんなサイボークアニメみたいなのは嫌です! 他にありませんか?」
「次ですか、えーとねえデヴァルビラ1189の惑星チャバル。ここは地球で言うところの中華世界風の社会です。
あなたは錬金術師によって生み出された新造生命体のひとつということです。まあ奴隷化される危険がありますので、とりあえず自力で脱出していただいて、革命勢力に合流してください。そうすれば建国の母として末代まで慕われるかもしれませんが・・・」
「それじゃあ、わたしは人造生命体か何かですか? そんなの嫌です。奴隷にも革命戦士にもなりたくありませんし、建国の母として崇められたくありません!!」
それから後も、エンジェルはトンチンカンと思えるぐらい変な救済案ばかり提案してきた。
中には惹かれるものもあったけど、この世界では平凡な女子大生だったのが英雄になったり海賊になったりしなければならないのよと、呆れてしまった。
しかし大事な事を思いだした。とにかくタクヤと一緒になりたかったことを! いくら他の世界に転生しても素敵な男性と出会えることまで保証されていなかったのだ。仮にアサミとしての記憶があったとしても、そこに愛しいタクヤはいないのは間違いなかった!
「エンジェルさん。私のわがままを聞いてくれませんか。さっきから色々提案していただいていますが、そこにいるタクヤのことを忘れていませんか?
来世で一緒になれるかもしれませんが、私は今のタクヤと一緒になりたいのですよ。今のアサミのままで! 多少姿形はかわってもいいですから、一緒に召喚していただけないでしょうか?」