151.おばさんの正体
その屋台のおばさんはどっちかというと仕事そっちのけでアサミと話をしているようだった。あんまり魅力的でない菓子パンを屋台に積んでいるためかもしれなかった。なんかの肉を焼いていたり良い香りがするスープなどの屋台には長い列ができていたが、こちらの屋台にはほとんど人が集まっていなかった。
「あなたたち、夢はなんかあるの?」
屋台のおばさんは三人に聞いた。タクヤはそのおばさんこそ何か夢があるのかなとおもいながら答えた。
「そこのアサミと一緒に平和に暮らせるようになることかな。そのためにはこの世界で頑張りたい」
その言葉にアサミは胸きゅんのようだったが、ルンファはのろけやがってといった表情をしていた。アサミも同様なことをいったが、ルンファだけは野心たっぷりにいった。
「わたしの夢は、この広場にある有名魔導士の像の列に入ること。まだまだスペースがあるでしょ」
そういえば、広場にはいたるところに像があることにアサミは気づいた。しかも近くを見ると見たことのあるような顔をした像があったので、銘板をみると「シフォンヌ」とあった。
「そうかい、そこのネコ耳魔導士の像のように有名になることかい。まあ夢を語るのは誰にでもできることだけど、そうなるように頑張りなさい」
おばさんは、そういうと誰かに呼び出されたような表情をして、こういった。
「ちょっとすまないね。ギルドの屋台の担当者がわたしに用事があるってさ。よかったらその屋台の菓子パンを配ってもいいから。ちょっと長くなるかもしれないけど、そのうち戻ってくるから」
そういって屋台をアサミらに託してそのおばさんは広場の中央に行ってしまった。
「それにしても、無料だからといっても、あんまり熱心でないおばさんだったわね。でも人が好さそうな方だったけど」
アサミはそのおばさんの後姿を見送った。そのあとアサミは彼女が残していったエプロンを身に着けるとタクヤにこういった。
「タクヤ、おばさんの代わりに屋台をひっぱってみましょう。そうすればおばさんが家に持って帰るのは楽になるから」
三人は屋台を人があつまっているところに移動し始めた。
一方のおばさんであるが、広場の中央にあるギルドの建物の中に入ってしまった。その表情はさっきまでの緩んだものではなく、どこか厳しい顔つきをしていた。
「筆頭統領! なにも、こんな形であの二人に会いに行かなくてもいいではないですか。二人を呼び出せばすむことですから」
「秘書官。そんなことをしたら特別扱いしていると他の研修生に思われるだろ。それに二人の自然な姿を見たかったんだ、わたしは」
屋台のおばさんの正体は筆頭統領のカミーナ・カンヴァーラだった。




