150.屋台の売り子おばさん
後で聞いた話では。ルンファが生まれ育った村では頼りになる年上の者に付き従う習わしがあって、アサミを「姉」として慕っていたのだという。でも、そんなことは言わなかったのでアサミはルンファの行動に辟易していたが、これも研修の間だけと我慢していた。
最初の研修が終わったのが昼前で、このとき職能別に魔導士の選別が行われた。そう魔導士のクラス分けが行われた。中には「不適格」として登録取り消しと判定された者もいたが、アサミらは問題なく防御魔導士の班に振り分けられた。
その振り分けが終わると、研修会場のホールの前の広場に行くようにとの指示が出され、みんなで行くとそこは祭りの会場にあるような屋台が並んでいた。これは新人を歓迎するための恒例行事だという。会場内には次のようなアナウンスが流れてきた。
「本格的な研修は明日から始まりますが、今日は長旅をしてきたばかりの諸君も多いので、休講とします。とりあえず宿舎の振り分けがすむまでの時間、楽しんでください。なお屋台の料理はすべて無料です」
その言葉を聞いて研修生の中には、がっつりと食べてやろうと早速並ぶものもいたが、アサミとタクヤはいったいなんなんだろうかという顔をして、中庭の芝の上でくつろぎ始めた。
このとき、タクヤはホームレスだった時のことを思い出していた。こうやって(ネコだったときの)アサミとゆったりとした時間を過ごしていた日々を。まさかアサミが娘になるなんて思ってもいなかったけど。
そうしていると、一人の中年女性が小さな屋台を引っ張ってきた。その屋台には菓子パンのようなものと飲料水が入ったタンクを積んでいたが、あまり人気がないらしく客が集まらずグルグル回っていたようだった。
「そこのネコ耳ちゃんとサル耳ちゃんと、彼氏。どうかね私の菓子パンを食べていかないかね? いつも家に持って帰るのが多くて面倒だから、食べてちょうだい」
その姿を見たアサミは何となく若い時の自分の母親に似ていると思ってしまった。その女性は粗末な生地の割烹着のような衣装を着ていた。
「食べていいのですか? それではお言葉に甘えていただきます」
そういってタクヤが真っ先に食べ始めるとアサミとルンファも食べ始めた。すると、その女性は暇だったらしく、いろんな話をしてくれた。
「あなたたち。この研修が終わるとギルドが決めたメンバーで最初のミッションに参加しないといけないわよ。まあミッションの成否は評価の対象にならないけど、できれば良い結果を残すことに越したことはないわよ。わたしは魔導士の資格がないから、どんな苦労をするのかわからないけど、人々のために奉仕する心をもってやっていたらいい方向に行くと思うわよ」
そういいながら屋台の売り子のおばさんは話していたけど、着ている服も扱っている菓子パンも粗末なのになんか気品のようなものがただよっていた。




