122.巨大なアブラ芋
要塞馬車は大森林地帯を抜け、どこまでも地平線が見えるような平坦な大地を進んでいた。大地には農家と思われる集落が畑の中を点在していた。二人はもう直ぐ旅が終わると思うと感慨に浸っていたが、実際には次なる旅路が始るだけであった。きのう夢の中で知った”恐怖の素因”に対抗するために必要となる魔道力アップの道だ。
「その”契約の指輪”は滅多に手に入るものではないぞ、お二人さん。その分、背負ったものも大きいだろうが、きっと報われるはずだよ」
ヴァリラディスは二人に話しながらなにやら書類を準備していた。
「ヴァリさん。その書類ってなんあんですの?」
アサミは、どうしても癖が抜けない手で耳を摩る行為をしながら聞いていた。タクヤといえば、また何かの本を読んでいた。
「これはな、お二人さんの住民登録するためのものだ。この世界ではどこの諸邦で暮らすのも自由だけど、それにはどこかの諸邦で住民登録しなければいけないのだ。それに魔道士は必ずどこかの支部に所属しないといけないのだよ。だから、とりあえず登録するんだよ」
「これから向かうギルドの本部ではできないのかよ。なんでそんな面倒くさい事になるんだよ」
タクヤは革張りの古い魔道書から顔を上げていった。タクヤはこの世界の事を知ろうと、近頃はヴァリラディスの蔵書コレクションを読み漁っていた。
「それはな、ギルドの本部のあるジェムシームの町で登録できる魔道士に定員が決まっているからだ。新人の場合は例外なく定員内に入らないからさ。でも、これから向かうハバス市もギルドにとって重要な町だから。ほら見えてくる頃だよ。そうそうこの当たりは全部アブラ芋畑だぞ」
「アブラ芋って、燃料用の?」
タクヤはなんとなく判った。この世界では地球で灯油や揮発油に相当するものの大半が植物から生産されていて、主な産業になっているのだと。
「そろそろ収穫している時期だから、結構すごいぞ芋の大きさは」
そういわれ二人が見てみると、人の身長よりも大きな芋が掘り出されているのが見えた。その芋の脇には要塞馬車のようなものが見えた。
「あれはなあ、油を絞る器具を収めた山車だ。アレで絞ってチューブで精製工場に送っているのだよ」
その光景は地球では見られないものであり、本当に異世界に来たのだと実感するものであった。




