012.運命のフライト(6)
飛行機の外壁に大きな亀裂が入った瞬間、機内の空気は猛烈な勢いで外に吸い出されていた。まるでそれは掃除機で掻き出されているかのようだった。私の耳の鼓膜は破れ猛烈な頭痛と肺が潰れるような激痛におそわれた。
このまま気を失うと思った瞬間、私の身体は座席ごと空中に放り出されていた。そのとき、隣に座っていた美保子の姿を確認しようとしたが、見つけることが出来なかった。どうやら彼女は機内にまだいるようだった。
私は様々な残骸と一緒に空を飛んでいるような感覚であったが、実際は高度一万メートルから落下していたのだ。昔、なんかの航空事故を扱った番組で、こんな高度で空中に放り出されると即死するか気絶するかという事を言っていたけど、いま私はまだ意識があった!
でも恐怖でそれは支配されていた。おそらく落下していく間、それほど時間はかかっていなかったかもしれないけど、永遠のような長い時間に感じられた。それは死の恐怖だった。
もう私もお母さんのところに行くのだと思うと悲しさよりもよくわからない安らぎを感じていた。どうも心は恐怖心を緩和しようとしているようだった。そんな時、落下の角度が変わり私の乗っていた飛行機が見えるようになった。
だがそれは恐ろしい最期の断末魔をあげていた。大きくなった亀裂が胴体を一周し機体を輪切りにしたような状態になった。そして翼や胴体が粉々に・・・そう空中分解してしまった。
あの飛行機に乗っていた人たちも私と同じ運命だと知って、悲しくなっていた。死ぬのなら先に空中に放り出された私だけでよかったのに! 神様なんてことをするのよ!
そう心の中で叫んでいた。さっきまで親切にしてくれたキャビン・アテンダントの女の人、お父さんに会いに行くと嬉しそうにしていた女の子も、そして、そして多くの人たちみんなも、あの世に何故行かないといけないのですか? 何か悪い事でもしていたというのですか? 酷すぎます神様!
私の身体は激しい空気抵抗を受けながら、音速に近い速度で落下していった。万が一にも私は助からないというのが確定していた。その時わたしの脳裏には走馬灯のように今まで生きていたことを思い出していた。
楽しかったことばかりであったが、残してきた人たちも事も想っていた。父さんと妹の奈緒美の事を思うと私の分まで幸せになってほしいと願っていたが、同時に一つだけ遣り残した事を思うとさらに悲しかった。
そう、素敵な恋愛をしていなかったことだ。そして、あの教育実習生の迫崎先生の事を思い出していた。前世からの赤い糸があるかのように想っていた男だ。最期に先生は無理でも・・・せめて親戚以外に誰か私の死を悼んでくれる男の人が欲しかった!
わたしは涙を流しながら下を向くと海面がだんだん大きくなっていた。まだ生きているのに、神様わたし死ななければいけないわけ? これでは処刑される死刑囚と一緒だよ!
そう思ったが最期の時が訪れた。私の身体は猛烈な速度で海面に激突し粉々になってしまった! そして深い海の底へと沈んでいってしまった・・・