103.筆頭統領と神僕の逢瀬
神僕のウグスティン・アルミレージェと魔道士ギルド筆頭統領のカミーナは恋人同士だった。もちろん、このことは神様と呼ばれるこの世界の創造主も人間社会の誰も知らない事であった。二人の仲はカミーナが御神託所の幼い見習い巫女だった時からのものだった。それはカミーナが巫女を引退して、実家の跡を継いで国家元首に就いて、その直後に筆頭統領職になった今も同じだった。
ただウグスティンはずっと壮年のままなのに。カミーナは幼い少女から大人の女性に、そして現在では初老にさしかかろうという年齢相応の姿になっていた。
「あなたと会えるときはいつも嬉しいわよ。こうして二人だけで会えるのだから。こうするために私は家の跡を継いでも独身を貫いてきたのだからね。本当は私にだけ会いに来てほしいしのよ。それに次に生まれ変われるならあなたと同じ神僕になりたいわよ」
そういいながら彼女はウグスティンの胸に飛び込んで抱擁していた。こんな光景を誰かに見られたらギルド評議会から罷免されかねない状況だった。二人は互いの存在を確かめ合うような仕草をして、恋人がよくするような逢瀬を楽しんでいた。
二人だけの時間をすごした後、今回の御神託の書について顔を突き合わせて話し始めた。この御神託は神の意思を伝達するものであったが、内容はこれからこの世界で直面する困難に関する事で、いわば預言の書であった。
ただし預言されるものは人々の争いごとが中心で自然災害に関するものは滅多になかった。しかも預言はしても具体的な対策は人間の方で考慮せよというものなので、対処方法によってはかえって大混乱を引き起こした場合も少なくなかった。
「それにしても神様は悪いことがおきます。注意してくださいといった内容だというのに今回はどうしてこんなに詳細に書かれているの? まさか破局戦争のような滅亡の危機が到来しようとしているというのよ? しかも神様の謝罪の言葉まであるし」
カミーナは困惑気味で話していた。こんな神様の謝罪の言葉が入る御神託は過去に例がなかったからだ。




