001.プロローグ 日差しの中で
ノラネコのアサミが自分にアサミの名前をつけてくれた人間の男を捜して彷徨っていた。この旅が彼との長い旅の始まりであった・・・
ここはどこだろう? わたしはなんだろう? 草むらを歩いているのは間違いない。いつも会っていたあの人の姿がないから探しているのだ。そう強い日差しの中を喉の渇きに苦しみながら歩いていた。あまりの暑さで時々草陰で休んでいたけど。
わたしの足はボロボロ、毛も汚れてしまっているし、身体に取り付いているノミが血を吸っている。そうだわたしは親や兄弟からはぐれたノラネコだ! しかし、なんで自我があるのだろうか、わたし?
迷い迷いながら、あの人を探していた。わたしを”アサミ”と呼ぶ、その人を。わたしは何故その人を探すの? エサをくれるから? 可愛がってくれるから? いいえ、愛情をそそいでくれるからよ!
でも、わたしってケダモノよね? なんで人間らしい感情があるというの? わたしはただのノラネコのはずなのに。
わたしが生まれたのは駅の倉庫の中。そこで育った後は・・・よく覚えていないけど親兄弟と別れてしまったようで、気が付いた時にはとある工場の周りを縄張りにしていたのよ。幸いそこには先輩のネコが居なかったから助かったけど。
その時、知り合ったのが彼だった。そうわたしを”アサミ”と呼ぶ人間。ただの人間のはずなのに、わたし運命を感じたのよ。そこに来る前に会った飼いネコに言われたのよ。もしかすると飼ってくれる運命の人と出会えるかもしれないと。
わたしも、最初はそう思ったのよ。でも、その人はわたしを家に連れて帰ってくれないの。だから飼いネコにはなれなかったの。でも、わたしは彼といるだけで幸せだったのよ。なぜなんだろう?
彼とは生まれる前の世界で出会ったような気がするのよ。それっていったい何の感情なんだろうか? これって恋なの? 相手が人間の男だというのに!
わたしは探していた。いつも縄張りにしていた工場に人が全く居なくなった。そう彼も含めて! その彼を探してわたしは彷徨い歩いていた。なぜ探すのだろうか? もう彼がこの世界に居ないかもしれないというのに。それに探す当てなどあるのだろうか?
でも、わたしは探していた。彼の腕に抱かれていた日々を思い出して。この時、なんで彼を探していたんだろうか、その答えがわかったのはしばらくしてからだ。
炎天下の太陽の下、大地には熱気が漂っていたが、歩くだけでもわたしは死にそうになっていた、なぜ、そこまでして彼を探さないといけないの? その答えは誰が出してくれるのよ! わたしは夏草を掻き分けながら進んで行った。これが、彼との旅の始まりだとは、その時はまだ気が付かなかった。