第二十六話〜困惑な自分〜
ところで、どうしてなっちゃんは僕なんぞに告白したのか。それが、告白されてからずっと、頭に引っかかっていた。
大した事をした覚えは無いし、基本バカにしたような言動しかした覚えはない。好かれる理由が微塵も思い当たらない。
その結果、あの告白は今までの仕返しで、僕を困惑させるための謀略なのかもしれないと邪推してしまう僕がいる。或いは、ナユタに近づくための足掛かりにされているのかもしれない。
「あー、ナナ。さっきから何をうんうん唸ってんの? ぶっちゃけウザいのが更にウザくなってんだけど」
「いや、カナデさん。喋らない分、ウザさは半減してると思いますよ?」
「でもさー、目の前でため息つかれたら、私の幸せまで逃げられっちまいそうでさ」
というわけで、昼休みの屋上。
僕とナユタとカナデでランチタイムを楽しんでいた。
どうでも良いが、カナデが昼休みに現れるのが、当たり前になってしまっていることに憂いを感じざるを得ない。
人間の適応力って、凄い。
「君たちね。僕を目の前にして、ウザいだのウザく無いだの、僕自身自覚してるんだから、放っておいてくれないかな。っていうか、姉さんにだけは言われたくない」
「ほうほう、ナナも言うようになったじゃないの。私にケンカ売るたぁ、良い度胸じゃねぇの」
「すいませんごめんなさい許してくださいほんの出来心なんですたまにイニシアチブを取って優位に立とうとしただけなんですごめんなさい」
実に卑屈な僕だった。
やはり姉であるカナデには一生頭が上がらないのかも知れない。
ヘコむ現実だ。
しかし得てして現実とはそういうものなのかもしれない。なんて悟ってみる。
「それより、どうしたんだナナ。なんかあったのか?」
「別に何も無いよ。あるわけが無いじゃないか。僕は平穏と安息をモットーに毎日を生きているんだから、そうそう何かがあったのなら僕はきっと、ライトノベルの主人公に抜擢されてしまうよ」
「……ナナ、それは自分で何かあったと言ってるようなもんだぞ?」
「何を言ってるのか僕にはさっぱりわからないよナユタ。しかしそれにしても、昨日の雨が嘘のように晴れ渡ったね。これで屋上の水はけが良かったら、最高だったんだけどね」
あからさまに話を逸らせてみたが、ナユタとカナデに通用するわけが無かった。
「いよし、ナユっち。ナナ取り押さえて」
「了解しました」
僕が抵抗する暇も無く、ナユタが背後から僕を羽交い絞めにする。
当然、がっちりとホールドされては身動きが取れなくなる僕。
「ちょっ、ナユタ!? ダメだよっ! カナデが見てるじゃないか! 愛ある抱擁は二人きりの時にして欲しいね!」
「首の骨折ってやろうか?」
なんとか振りほどこうと、説得を試みたが、逆効果になってしまった。
なんか、喉元にナイフを突きつけられてる気分だ。
「ぬっふっふ。さてさてそれじゃあ、何があったか白状してもらおうかねぇ。ナナ?」
下卑た笑みを浮かべながら、両手をワキワキと動かしてくるカナデ。
何をするつもりだ。
いや、想像はついてるけど。
「ほーれ話んさい。ほーれ、ほーれ。吐いたら楽になるよー?」
「ちょっ、姉さん。やめてっ! ぶはっ! ちょっ、そこはダメっ! いやっ! きゃああああ!」
閑話休題。
「……ナナってば、可愛らしい悲鳴あげるもんだから、ぞくぞくしちゃったじゃんか」
「実の弟に向かって、そんな危険な発言は控えてくれないかな。姉さん」
ともあれ。
僕はナユタとカナデのコンビネーションによる、拷問(くすぐり攻撃)によって、あっけなく口を割ってしまった。
もちろん、なっちゃんがしてきた雷雨の中での告白の事である。
貧弱な僕が恨めしい。
「それにしてもよ、展開早いねー」
「姉さんの言葉には大いに同意せざるを得ないね。大体、ナユタに告ってから大して時間が空いてないんだよね。もしかしてなっちゃんってば浮気性なのかも知れない」
「それで、ナナはどうすんの?」
「どうする、とは?」
「付き合うのか、断るのか」
まあそうだろう。
最終的にはそこにたどり着くのは明白だ。
幸いにも昨日は、なっちゃんが逃亡してくれたおかげで、その場で返事を出さずに済んだ。
しかし僕は、どうするつもりなんだろうか。
「もう付き合っちゃえばいいじゃん。ナナが告白されるなんて、一生に一度あるか無いかだろー?」
「姉さん、それは僕の事を過小評価しすぎだと思うんだ。僕だってその気になれば女の子の一人や二人、メロメロにする事ぐらい容易いことさ」
「ぶっはっ! ナナってば、なにそれ? 新手の冗談?」
我が姉ながら、非常に腹立たしい。
「でもまあとりあえずさ。断ろうかな、って思ってる」
「えーなんでよー? あんな可愛い子断るなんておかしいって、絶対!」
「だってさぁ、釈然としないというか、納得できないというか。なんで僕? ってな感じが拭えないんだよね。今までの事を振り返っても、僕が好かれる要素なんて何一つ無かったはずだし」
「うわー、情け無い理由だねぇ。んじゃ何よ。ナツキちゃんっつったっけ? その子が本当にナナの事好きだったらまた答えも変わるわけ?」
「……うーん」
というよりも僕は、付き合うという事があまり良く分かっていないのだ。
別に告白を受諾しても構わない気もするが、その後の未来に物凄い不安しか覚えない。
それに何より、この日常が崩壊しそうな気がして怖いのだ。
要するに僕は、臆病なのだろう。
「ったく、我が弟ながらはっきりしないなー」
「うん、僕もそう思ってる。まあ何せ、初めての経験だからね。僕だって正直、どうすれば良いかなんてわかんないんだよ」
「ふーん。ま、どうでもいいけど」
あんたはどうでも良いことに、僕にくすぐるという行為をした挙句、昨日の嬉し恥ずかしな光景を話させたのか。
「決めるのはあんただしねー。私達が何言ってもどうしようも無いっていうか、関係ない事だし」
「だったら始めから口を挟むなと言いたいんだけど、言ってもいいかな? ついでにくすぐる必要性も無かった事を言っておくよ」
「それはほら。ナナの可愛い喘ぎ声を聞きたかったからさ」
「喘ぎ声と悲鳴は違うと思うんだ。っていうか、どうしてそんな卑猥な感じで言うかな。はっ、姉さんってもしかしてブラコン? 虎視眈々と僕の身体を狙ってるんじゃないだろうね!?」
「弟を持つ姉ってのはね、すべからくブラコンなんだよ。ナナ」
背筋に嫌な悪寒が走ったのは、気のせいだと信じたい。
「ま、断るにせよなんにせよ、早めに返事した方が良いんじゃねぇの?」
「あ、ナユタ。いたんだね。さっきから黙ってたから、僕はてっきりナユタの姿をしたオブジェかと思ってたよ」
「割とまともな事を言ったはずなのに、そんな扱いを受ける理由がわからない」
「でもまあそうだね。返事は早めにした方が良いかな」
それから僕らは、実にどうでも良い話をしながら、カナデのわがままに振り回されながら、昼休みを終えた。
会話をしている間にも僕は、なっちゃんになんて言おうかという事で、頭を働かせていた。
さてさて、どうしたもんか。
年末のため、忙しくなってきております。
そのため、更新速度に遅れが生じる事があると思われます。
愛読して頂いている読者様方には、大変な迷惑をおかけ致しますが、ご了承頂ければ幸いです。
以上、臨時ニュースをお伝えしました。