少女
見慣れた景色。それは、荒れ果てた世界の終わりを迎えるのには、あまりにも残酷で、悲しいものだった。
「君たちのせいだよ」
きっと、君は苦しげにそういうのだろう――
真夏の蒸し暑い日差しに照らされて、汗だくになりながら自転車をこいでいたら、今朝の最悪なニュースなんて忘れられる。そう信じて、俺は誰もいない坂道を必死に登っていた。
どこに行こうかなんて、何も考えていない。とにかく忘れたかったんだ。最悪なニュースを。
そんな俺の前に、突如として壁が立ちふさがった。
何事かと、慌てて前を見ると、そこには背の低い少女がいたのだ。
「君が神に選ばれし者か?」
少女は、唐突にそう言った。
「・・・は?」
「だから、君が神に選ばれし者かと聞いているのだ」
何を言っているのだ、この少女は。だいたいが、目上の者に対する口の利き方がなっていない。
「えっと、迷子かな?」
「人の話を聞け」
何だこいつは。いいかげん、怒ってもいいと思うぞ、俺。
「君は神に選ばれし者だろう?あの方が言っていた通りだぞ」
「あの方?何言ってんだよ」
「君は本当に人の話が聞けないんだな。よし、ついて来い」
「嫌だよ。つーか、誰だよ、おまえ」
いきなり何が『ついて来い』だよ。バカじゃねーの、こいつ。
そんなことを考えていると、少女は少し微笑んだ。
「すまない、まだ名前を言っていなかったな」
そうだな。そうだよな。気づくの遅いよな。
よく見ると、その少女は靴を履いていなかった。裸足で、たくさんの擦り傷があった。
「私は天音夏樹という。君の名は何だ?」
「俺は高木翔也だ」
かわいらしい笑顔で、少女は言った。一瞬、心が揺らぐのを感じてしまうぐらいに、その笑顔は純粋そのものだった。
夏樹と名乗る少女は、とてもきれいな整った顔立ちをしていた。スラリとのびる細い足。丸みをおびた胸元。引き締まった腰。長く伸びるつやのあるきれいな髪。とても、美人だった。
って、ん?丸みをおびた胸元?年下・・・だよな?
「ところで、君は何歳なんだ?」
「ん?今年で16だが何か?」
16歳だと!俺と同い年じゃないか。そりゃあ、敬語を使わないわけだ。
「・・・何をやっている。早く行くぞ」
「いや、どこにだよ」
「どこって、決まってるじゃないか。あの方のところだよ」
「だから、あの方って誰だよ」
「行けば分かる」
行けば分かるって、本当かよ。まあ、いいや。どうせ暇だし行ってみるか。
そんなこんなで、俺は夏樹についていくことにした。
セミがうるさく鳴く中で、俺は一つあくびをした。
その日はとても蒸し暑く、あんなことを言われるには似つかわしくない日であった。




