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ゼロを織るもの  作者: 蒼井湖美智
第一章 神様
2/5

少女

 見慣れた景色。それは、荒れ果てた世界の終わりを迎えるのには、あまりにも残酷で、悲しいものだった。

「君たちのせいだよ」

 きっと、君は苦しげにそういうのだろう――


 真夏の蒸し暑い日差しに照らされて、汗だくになりながら自転車をこいでいたら、今朝の最悪なニュースなんて忘れられる。そう信じて、俺は誰もいない坂道を必死に登っていた。

 どこに行こうかなんて、何も考えていない。とにかく忘れたかったんだ。最悪なニュースを。

 そんな俺の前に、突如として壁が立ちふさがった。

 何事かと、慌てて前を見ると、そこには背の低い少女がいたのだ。

「君が神に選ばれし者か?」

 少女は、唐突にそう言った。

「・・・は?」

「だから、君が神に選ばれし者かと聞いているのだ」

 何を言っているのだ、この少女は。だいたいが、目上の者に対する口の利き方がなっていない。

「えっと、迷子かな?」

「人の話を聞け」

 何だこいつは。いいかげん、怒ってもいいと思うぞ、俺。

「君は神に選ばれし者だろう?あの方が言っていた通りだぞ」

「あの方?何言ってんだよ」

「君は本当に人の話が聞けないんだな。よし、ついて来い」

「嫌だよ。つーか、誰だよ、おまえ」

 いきなり何が『ついて来い』だよ。バカじゃねーの、こいつ。

 そんなことを考えていると、少女は少し微笑んだ。

「すまない、まだ名前を言っていなかったな」

 そうだな。そうだよな。気づくの遅いよな。

 よく見ると、その少女は靴を履いていなかった。裸足で、たくさんの擦り傷があった。

「私は天音夏樹という。君の名は何だ?」

「俺は高木翔也だ」

 かわいらしい笑顔で、少女は言った。一瞬、心が揺らぐのを感じてしまうぐらいに、その笑顔は純粋そのものだった。

 夏樹と名乗る少女は、とてもきれいな整った顔立ちをしていた。スラリとのびる細い足。丸みをおびた胸元。引き締まった腰。長く伸びるつやのあるきれいな髪。とても、美人だった。

 って、ん?丸みをおびた胸元?年下・・・だよな?

「ところで、君は何歳なんだ?」

「ん?今年で16だが何か?」

 16歳だと!俺と同い年じゃないか。そりゃあ、敬語を使わないわけだ。

「・・・何をやっている。早く行くぞ」

「いや、どこにだよ」

「どこって、決まってるじゃないか。あの方のところだよ」

「だから、あの方って誰だよ」

「行けば分かる」

 行けば分かるって、本当かよ。まあ、いいや。どうせ暇だし行ってみるか。

 そんなこんなで、俺は夏樹についていくことにした。

 セミがうるさく鳴く中で、俺は一つあくびをした。

 

 その日はとても蒸し暑く、あんなことを言われるには似つかわしくない日であった。


 

 

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