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喧嘩

「ドナドナ草のクエストはこんな大変なものだったのか?」


 草原に来てから一時間、俺の手の中にはじたばた暴れるドナドナ草がある。

 ドナドナ草は足が速い上にとてもすばしっこい。


 一応、攻撃しても良いということだったのでスキルを使おうとするととんでもない速度で離れる。


 今の俺に出来るのはなんとか手だけでドナドナ草を捕まえるという高難易度の作業だった。


 少しはなれたところではアテナが何かを呟きながらドナドナ草を捕まえている。


「何をしたんだ?」


「動きを遅くする魔法を使った」


 魔法!?


 俺は驚きの表情を浮かべる。


「この世界は魔法なんてあるのか?」


「特定のクエストをクリアすれば使用できるようになる」


「へぇ、すっげぇな」


「ドナドナ草は揃った、後はこれを持ち帰って提出すればクエスト完了」


「なるほど」


「採取したドナドナ草はアイテムカードに入れれば逃げることは無い」


 アテナの言葉通りに暴れるドナドナ草をカードの中に収納する。


 両手が自由になる。アイテムカードをポケットの中に入れたとき、俺はあるものを見つけた。


「本?・・・・いや、日記か?」


 落ちていたのは一冊の本。


 手に取り、あけようとしたところで側面にカバーがつけられている。


 あけるには表面の穴に鍵を入れる必要があった。


「どうしたの?」


「誰かが落としていったみたいだ」


「・・・・そう」


 本を見せると彼女は眼を細める。


「どうした?」


「なんでもない」


 首を横に振る彼女はそくささと歩き出す。


 俺は日記をアイテムカードに収納して後を追いかける。


「ところでさ」


 先を歩くアテナに気になっていたことを尋ねる。


「アテナはどうして、探求者になったんだ?やっぱりもとの世界に帰りたいからか?」


「・・・・それもある」


 目線を合わせず、アテナは赤い空を見上げる。


 まるで仇敵をみるような視線に俺は後ろへ下がった。


「私はやらないといけないことがある・・・・それを果たす」


「何なんだ、それは」


「教えられない、でも、いつかは話す・・・・あと、私は希望だから」


「希望?」


「だから探求者をやっている」


 アテナがどうして探求者をやっているのかいまいちわからない。けれど、ただ帰りたいという目的以外に何かあるということはわかった。


 それを深く追求してはいけないということもわかってしまう。


「戻りましょう」


「あぁ」




 クエストを完了して拠点へ戻る為の道を歩いていると反対側からやってくる連中と遭遇した。


「一日ぶりですね」


 爽やかに手を振るのは教会で俺達と話を聞いた青年だ。


 教会の時と異なり、胸当てや巨大な弓を装備している。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね?僕は相良カズキといいます」


「・・・・アテネ」


「赤城ナオヤだ」


「探求者同士、これからよろしくお願いします」


 相良は爽やかな笑みを浮かべ手を伸ばす。

 差し出された手をアテナはみるだけで握ろうとしない。


「みたところ・・・・お二方はクエストを受けているようですけれど、何のクエストを」


「クエストは完了した。これから拠点へ戻る」


「そ、そうなのですか・・・・時間があるようでしたら僕のクエストの協力を」


「ギルドホームで事前申請がされていない場合、私達に報酬は出ない。報酬が出ないことに協力するつもりは無い」


 ばっさりと相良の提案を切り捨ててアテナは拠点への道を歩く。


 ぺこりと頭を下げて俺は後を追いかける。


「赤城さんといいましたか?貴方は運が良いですね」


 去り際、相良の言葉が耳に入った。


 その意味を俺はわからなかった。









「はい、ドナドナ草の数を確認、クエストの定めた数と一致と判断しました。クエストの完了と認定します」


 受付でお姉さんにアイテムカードを提出する。

 カードに触れて保管されているドナドナ草を取り出して、机の下に置かれている籠の中にドナドナ草を入れるのを眺めているとステータスカードにお金が振り込まれた。


「クエストクリアするとお金が入ってくるんだな」


「ここの世界は全てPという通貨が用いられている。ステータスカードは財布の役割もあるから絶対になくしたらダメだから」


「おう、なくさね」


 ステータスカードを胸ポケットの中に入れる。


 さて、他のクエストでも受けるか。


「どうしたの?」


「いや、他のクエストでも受けてみようかと」


「今日はもうやめておいたほうがいい」


「何で?」


「まもなく夜になる」


「そうだけど、拠点内のクエストだって」


「夜は危険が多い・・まだ世界に慣れていないからやめたほうがいい」


「確かに慣れていないけれど、早く帰るためには必要なことだろ」


「まだ貴方は弱い」


 この時、アテナがどういう意図で弱いといったのか。深く考えなかった。慢心といえばいいのだろうか、俺は少しでも帰るための手がかりを求めてクエストを受けるつもりだった。


 その出鼻をくじかれたこともあっただろう、なにより彼女の弱いという言葉に腹が立った。


 ただ、それだけで。


「そりゃ、俺は弱いさ!でもな、そんなことは自分が一番わかっているんだ!・・・・もういい、俺一人でやるからお前は宿に戻ってろよ!」


 アテナに背を向けて俺はクエストを受ける。


 内容は簡単なもの、ギルドホームから目的地まで依頼されたものを運ぶだけ。


「このクエストでよろしいですね?マップはこちらが用意しますのでそれにしたがってクエストを行ってください」


「わかりました」


「それと・・・・」


 マップを受けた取ったところで受付のお姉さんが俺を見る。


「彼女も悪気があって、あんなことをいったわけではないですよ」


「・・・・そうですか」


「後、この地域で人が襲われている事件が起こっているから気をつけてね」


「事件?」


「そうなの、だから無茶だけはしないで」


「わかりました」


 マップを受け取り、俺は目的地に向かう。


 少しはなれたところでアテナが三人と話をしている姿を見つけたが声はかけない。


 かける気にもなれなかった。







「あれでよかったのか?」



 ギルドホームから出て行ったナオヤを見ているアテナへザフトが尋ねる。


「彼が選んだことだから仕方ない」


「もう少し、言い方というものがあったと思います」


「そうかな?」


「まったくよう、お前といい、七徳姫っていうのはこうも難しいのかねぇ」


「アテナ、彼を心配するのはわかりますがもう少し言葉を選ぶべきです」


 ドリフトの指摘にアテナは首を傾げる。


「言葉を選ぶ?」


「そうです。確かに貴方は探求者として彼よりも長く知識も豊富です。ですが、彼はこの世界に来て日が浅い、知識や経験がとてもじゃないが足りない。おそらく今の拠点の現状についても話していないのではないですか?」


「そんなことは」


「本当にないっていえるのか?」


 ザフトの言葉にアテナは詰まる。


 大事なことは教えている。


 けれど、いくつか伝えていないこともあった。


 夜間、特定のモンスターは【凶暴化】というステータスが付与されて、戦いなれていない探求者は命を落としやすいということ。


 拠点の中にモンスターは存在しない、けれど、犯罪を行う者達がいる。それらのことをナオヤは知らない。


 アテナは身を案じてクエストを行うことを止めた。けれど、彼は話を聞かなかった。


「お前は仲間を心配するの良いけれど、言葉が足りないんだよ」


「そんなことは、ない」


「全くぅ」


 ザフトはがりがりと頭をかく。


「心配なら見に行けよ」


「・・・・彼は、嫌がる」


「変なところで意固地になんな!アイラントが念のためあとをつけているからいってこい。そんで仲直りして来い」


「喧嘩していない」


「僕達から見ればしているようにみえますよ」


「・・・・とにかく、いってくる」


 アテナは足早にギルドホームを出て行く。


「なんというか、俺達、親切だな」


「自分で言ったら意味ないですよ、リーダー」


「しゃーねぇだろう。褒めてくれるやつらがいねぇんだから」


「そもそもリーダーが言わなくても彼女は動いていたと思いますよ」


「本当か?」


 ザフトとドリフトの間に沈黙が走る。


 しばらくして。





「「そりゃないだろ?」」





 同じ結論に至った。




アテナと喧嘩別れする形でクエストを受けたわけだけど。

「あっさり、終了しちまった」

クエストに記載されていた場所はギルドホームからさほど離れておらず、三十分足らずで目的地に到着してしまった。

アイテムを依頼主に渡した、後はギルドホームに報告すればクエスト完了。

驚くほどあっさり終了した。

「帰ったら・・・・」

アテナに謝らないといけないなぁ。

弱いといわれて過剰に反応したのは俺が悪い。

彼女が言葉足らずなのは接していてわかっていた。

けれど、あの時、アレが過ぎってしまったんだ。

「アテナと関係ないのになぁ・・・・過剰反応しすぎ」

「Hei、何かお悩みか~い」

「へ?」

考え事をしていたところで暗闇から誰かが呼び止めた。

誰か確認しようにも薄暗くて顔がみえない。

「おっと、怪しいものじゃねぇーよ。少し兄ちゃんに聞きたいことがあるんだけど、いいかなぁ?」

「悪いけれど、手短に済ませてくれるか?こっちは急いでいるんだ」

少し考えてから相手に近づく。

相手が人間だから大丈夫、だと思った。

敵は外のエネミーだけだと考えていたから、気づくのが遅れる。

「オーケイ、オーケイ、すぐに終わるよ・・・・」

暗闇で煌く刃、

それが何なのか理解する前に、刃が俺へ迫る。

命を刈り取るものだと気づいた時、それは喉へ近づいていく。

刃が輝いた。


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