初クエスト!
「あ、てめぇ」
晴れて探求者となり依頼でも受けようかというところで入り口からやってきた一人が声を漏らす。
「(うえっ、厄介なのが)」
「ここにいるってことは探求者になるってのか?ヘッ、やめとけやめとけ、てめぇみたいなモヤシはエネミーにつぶされて終わるのが関の山だ」
開口一番、俺をバカにするのは先日、教会でエセ神父から説明を受けていた奴の一人だ。
名前は知らない。
とりあえずチャライ男としか記憶していなかった。
「悪いけど」
俺はポケットからステータスカードを取り出す。
「既に探求者になっているからやめるつもりはないよ」
「な、なにぃ!?」
チャライ男は手の中にあるステータスカードをまじまじとみる。
しばらくして、小さく笑う。
「へっ、簡単な試験だったってことだろ?小っさいもの受かった程度で調子のっていると足元」
「彼が受けたのはモールチェイサーと三十分間、生存しろという試験」
横からアテナが漏らした言葉にギルドホームからざわめきが消える。
しばらくしてひそひそ声が広まる。
「嘘だろ?」
「ここしばらくなかった内容だぞ」
「アイツ、あの試験で無傷だったのか」
「なんて奴だ」
え、何で?
俺が困惑しているとチャラ男が叫ぶ。
「う、嘘だろ!?こんなモヤシがあんな高難易度をクリアしたってのか!」
「事実、私は見ていた」
「ありえねぇ、最初のかなりの難関だぞ・・・・待てよ、もしかして、思っている以上に難易度が低いかもしれない」
後半はぶつぶつしていて聞きとれなかったが急に笑みを浮かべる。
「ハッ!これなら探求者になるのも楽勝だぜ」
よくわからないが彼の中で自己完結したらしい、俺に目もくれず奥の受付に向かう。
なんだったんだ?一体。
「な、なぁ!」
呼ばれて振り返ると、探求者試験の前に俺へエールを送ってくれた人達だった。
「あ」
「探求者試験でモールチェイサーからの生存だったって、本当なのか?」
「はい・・・・」
「すっげぇ!」
髭面の男が叫んだ。
「リーダー、興奮しすぎだって」
「仕方ない、しばらくなかった高難易度だ」
左右の人達がため息を零す。
状況のわからない俺は戸惑うことしか出来ない。
「えっと・・・・」
「あぁ、キミは知らないよね。探求者試験の中にはとても難しい内容がいくつかあって、その中の一つにモールチェイサーっていわれるAランク級のエネミーから逃走、生存、もしくは撃退するというもので、とても難しいんだ」
「Aランク?」
「あ、ランクについても知らないのか?エネミーにはランク分けされている奴がいてね、最高ランクはS、最低はEという風に振り分けられているんだ」
「へぇ」
「細かい説明は後にしろ!おい、本当にモールチェイサーだったんだな?」
「はい・・・・」
「すっげぇぞ、こいつは優秀な人材になるぞ!次の塔攻略はいけるかもしんねぇ!」
「ごめんね、うちのリーダー、悪い人じゃないんだけど、興奮すると人の話きかないんだ」
「いえ、大丈夫です・・・・えっと」
「そういや自己紹介がまだだったな!俺様はザフト!曲刀だが、気持ち的に剣士やっている!」
「僕はドリフト、魔導師だよ」
「・・・・斧使いのアイラントだ。よろしく」
リーダー格のザフトは額にバンダナを巻いて髭面のため、山賊を連想させる。ドリフトはRPGゲームにでてくる魔道士、アイラントは重攻撃を得意としているのだろう、服から覗く腕は無駄な肉がついていない。そして、個性豊かな人達というのがわかった。
「リーダー、そろそろクエストを受けに行こうよ」
「お、そうだな。またな!坊主」
「俺は」
名乗っていないことに気づいたが後の祭り、彼らは受付に向かっていく。
今度、会ったときは名乗らないとなぁ。
「彼ら三人はこのギルドホームでベテラン」
「マジかよ!?」
ベテランだと上から目線っていう勝手なイメージを持っていたから少し意外だ。
余計な偏見はあまりもたないほうがいいな。
「それより、どうするの?」
「何を?」
「試験は終わった。これからクエストを受ける?」
「受けられるのか」
「試験終了してステータスカードに記載されたならば可能、私が選んでこようか?」
「いや、一緒に行く」
これから一人で行動することもでてくるだろう。
クエストの受け方など目を通しておく必要が在る。
「じゃあ、簡単な採取クエストを選ぶ」
二人で壁に貼られているクエスト一覧に目を通す。
しばらくして、アテナが一枚の様子を手に取る。
「これにする」
「どれどれ」
【クエスト ドナドナ草の採取】
依頼主:ドクター
報酬:500P
内容:ドナドナ草を五本採取
「依頼主はギルドホームに依頼してきた人、内容を達成して、ギルドに提出したらクエスト完了になる」
「なるほど、これって、どこで取れるんだ?」
「拠点の外、中でもとれるけど、貴方は外で実戦を少し味わう必要があるから外に行く」
「わかった」
「これを受付にもっていく」
貼られている紙を剥がして受付のところへ向かう。
「はい、クエスト受注です。クエストを破棄する場合、キャンセル料が発生するので注意してくださいねって、アテナにとっては無駄かしら?」
「初心は大事、忘れてはいけない」
「そう、彼と一緒に受けるのね?頑張って」
「ありがとう」
一礼して俺達はギルドホームを後にする。
「ところでいつまで武器を展開しているの?」
砂利道を歩いているといきなりアテナが尋ねてくる。
どういう意味だ。
「アイテムカードに自分の武器も収容可能、クエストを受けていないときはみんな収納している」
「って、どうやるんだよ」
「簡単、アイテムカードを起動させてアイテム収納をタッチ」
言われたとおりアイテムカードを作動させる。
いくつかの項目の中に在るアイテム収納をタップすると腕の籠手が消えた。しばらくしてカードの中に黒鉄の籠手が表示された。
「便利だな、このアイテムカード」
「なくさないでね。大事なものだから」
「オッケー、ところで拠点の外に出るんだよな?」
「イエス、素材は拠点の中でも採取可能・・・・前も言ったとおり、貴方は実戦を経験する必要がある」
――帰るために必要でしょ。
アテナの言葉に無言で肯定する。
「そこで私から提案、貴方が前衛でモンスターを迎撃、何かあれば私が対応する」
「了解」
戦闘について話し合っているといつの間にか城壁の入り口まで来ていた。
「おや、外に出るのか?」
「コクン」
アテナが頷いたのを確認して内側で警護をしている人が何かを操作する。
大きな音を立てて城壁が上っていく。
「さぁ、行こう」
俺は小さく頷いた。
▼
赤い空の下、アテナと共に草原の道を進む。
廃墟とは反対側の場所、赤い空を見上げながら呟く。
「まだ一日しか経っていないんだよな」
「?」
――俺がこの世界に来てからまだ一日、
正直言って、この世界に来て既に一週間は過ぎていると思っていた。
実際はまだ一日と少し、まだまだ帰る算段はついていない。
「クエストに集中して」
「悪い」
アイテムカードから自分の武器を取り出す。
同様にアテナも光り輝く剣を手に取る。
「なんというか・・・・」
アテナの身長よりも大きな剣を見て思う。
見た目からしてかなりの重量だろうに軽がると扱っている。
「アテナって、かなり凄い?」
「照れる」
ポン、と頭に手をのせ照れる仕草をする彼女はなんというか小動物というイメージが強い。
その間にも近づいてくるスライムを片手間につぶしているからこれまた凄かった。
「ところで、ドナドナ草ってどんなものなんだ?」
「・・・・至るところを走っている草」
「すまん、俺の耳が悪くなったかもしれない。もう一度、言ってくれないか?何だって」
「ドナドナ草は様々なところを走る草、あれがそう」
アテナの指差す方へ目を向ける。
うん、
広い草原の中、列を成して走る集団があった。
普通なら人や動物を連想するだろう。けれど、俺の前に展開されているものは違う。
「・・・・なにあれ?」
「ドナドナ草」
「草なのか?」
「そう、草」
「この世界の草って人間の足があるのか」
「普通、あれを捕まえないといけない」
草原を走り回り二本足の草、アテナの話だとあれがドナドナ草。
あれを採取しないとクエスト完了にならない。
「つまり」
「レッツ・ゴー」
抑揚のない言葉に俺の体はどっと疲れた。
前途多難、
困難が前に立ちはだかる。
そんな言葉がたくさん、過ぎった。