認定試験
武器屋を後にして俺達はギルドへ到着した。
「ここがギルドホーム」
扉を押して中に入るアテナに続く。
綺麗な部屋というがギルドホームのイメージだった。
「手入れが行き届いているんだな」
「綺麗にしていかないと、汚れていくから」
「は?」
「探求者は戦闘を行うことが多い。そして、ここで報告をする為に訪れる」
「あ、なんというか予想ついた」
あの廃墟で戦うということは少なからず汚れや埃がつく、そのまま報告をしないといけないから最初に綺麗に掃除しておくんだろうな。
「試験は受付」
「おう、いってくる」
アテナの指差す方へ俺は歩く。
受付と書かれているカウンター席に近づくとメガネをかけた女性が顔を上げる。
「ギルドホームへようこそ、依頼ですか?」
「いえ、探求者になるための試験を受けに」
「失礼ですが、ステータスカードを提出してもらえますか」
「あ、はい」
俺はポケットからカードを提出する。
「確認します。少し、お待ちください」
「おい、兄ちゃん」
女性がカードを手に立ち去ったところで俺に近づく奴らがいた。
振り返ると、数人の連中が立っている。
なんというか柄の悪い連中だな。
「何ですか?」
「そんなナリで探求者やろうっていうのか」
「・・・・そうですけど」
「やめとけやめとけ」
「お前みたいな小柄な奴はすぐに命落として終わりだね」
「はぁ」
「そうそう、命は大事だぜぇ」
俺は少し考えてから。
「アドバイス、ありがとーございました」
ぺこりと頭を下げる。
「後悔してもしんねぇーからなぁ~」
言いたいことを告げると彼らは去っていった。
入れ替わるようにしてアテナがやってくる。
「どうして、わかったの?」
「何が?」
「彼らが貴方の身を案じていたこと」
「・・・・うーん、目かな」
「目?」
「うまく言葉にはできないけれど、彼らの目には俺をバカにしつつ、少し違うものが見えた気がしたんだよなぁ」
「そう」
あっさりとアテナは引き下がる。
「追求しないのか?」
「・・・・スキルには直感へ関係する類のものがある、おかしくはない」
なるほど。
「アカギ・ナオヤ様、試験を始めますのでこちらへどうぞ」
受付のお姐さんに呼ばれて俺は返事をして向かう。
「頑張って」
アテナにエールをもらい、親指を立てる。
案内された場所は裏手だった。
「なんだこりゃ?ゲージ?」
周囲を覆うように柵が形成され、入り口には頑丈な錠前が施されている。
「きたなぁ!」
「うぉっ!?」
「お前が探求者に入りたいというルーキーだなぁ!」
後ろを振り返ると人の形をした狼が腕を組んで立っていた。
人狼?
いや、獣人か何かか?
「あ、はい」
「声が小さい!」
「はい!」
アンタは声がでかいよ!!
返事をしたら小さいといわれた。
「よろしぃ!さて、試験の内容だが、お前のステータスカードで判断したところ、どれだけ戦闘時間を継続できるかに決定したぁ!」
「戦闘時間?」
「そうだぁ!檻の中にモールチェイサーと呼ばれるエネミーがいる!そいつの攻撃を三十分間、躱し続けること!可能ならば撃退してもよろしいぃ!ただし、こちらが命の危険、継続困難を判断した場合、試験は即座に終了、失格となるぅ!いいなぁ!」
「サー・イェッサー!」
無駄にでかい声の教官に張り合うように俺も叫ぶ。
「では、入れ!」
開かれた扉の中に俺は足を踏み入れる。
柵の中は壁や障害物と言った類は何一つ無い。
それどころかエネミーの姿が無かった。
「一体・・・・」
ゾクリ、
嫌な予感がして前へ踏み出す。
立っていた場所の地面が盛り上がったと同時に茶色い影が天井の柵に張り付く。
見上げるとモグラと狼を組み合わせたような生き物。あれがモールチェイサーと呼ばれるものなのだろうか。
俺は籠手を装着した手を構える。
・・・・あれ?
ふと、あることに気づく。
「アクティブスキルって、どう使えばいいの?」
スキルの説明を受けてはいたが、使い方は聞いていない。
「嘘だろ!」
慌ててステータスカードを開く。
キキキと鳴きながらモールチェイサーが突撃してくる。
「はやっ!?」
直撃したらどうなるかわからないものは避けるしかない。
横に跳ぶ。
受身や後のことなど一切考えていないものだからかなり痛い。
でも、そのおかげで俺は命の危機を躱せた。
派手な音を立てて地面に小さなクレーターができる。
受けていたら俺の体に風穴ができていた。
「マジかよぉ・・・・」
モールチェイサーはまた土の中にもぐったようだ。
今、どこにいるかわからない。
「くそっ」
どうする?
制限時間は三十分、
――それが終わるまでひたすらに逃げ回る。いや、あの弾丸みたいな速度だ。逃げ回ったところで体力が尽きてダウンするのはこっち。
――エネミーを撃退する。
一応、籠手を装備しているから戦うことは出来るだろう。だが、俺のスキルの低さと向こうの差がわからないことから果たしてアクティブスキルなしで戦うことが出来るか?さらにいえば、アクティブスキルの使い方がわからない。そんな中で戦うなんて命を捨てるのと。
「うっ、わっ」
地面が盛り上がり、バランスを崩したところで地面から伸びた爪が足を掠る。
熱が右足を伝っていく。
「くそっ、足が」
膝を地面につけて足を睨む。
幸い、神経などを切られていない。
問題は。
天井を睨む。
柵に捕まってこちらを見下ろしているモンスターは小ばかにした表情にみえた。
籠手を纏っている手を強く握る。
血が少し抜けたからか体が熱い。
湯に体を入れたみたいに熱くなる。
ブゥゥゥゥゥゥン。
何かが頭の中に響いた気がした。
意識するよりも早くモールチェイサーが柵を蹴って突っ込んでくる。
「おっしゃああこい!」
血が抜けたことで少しハイになっていたかもしれない。
籠手を前にして盾のように構える。
これで防ぐなんて出来ない。
外で様子を伺っていた試験官が何か叫ぶ。
――アクティブスキル【クロスアタック】
籠手が銀色の輝きに包まれる。
「うぉっ!?」
グン、と腕先が勝手に動いて、迫るモールチェイサーに一撃を放つ。
鼻っ面を殴られてごろごろと地面に転がる。
「あ・・・・あれ?」
目の前の光景に俺は戸惑う。
勝手に手が動いたと同時に頭に浮かんだ文字。
「今の・・・・」
倒れているモールチェイサーはぴくぴくと体を痙攣させているが、生きてはいる。
すぐに動く様子は無いから俺は足元にあるステータスカードを手に取った。
スキル枠の一つが輝いている。
――アクティブスキル1【クロスアタック】:初伝に記載されているスキルの一つ。発動条件は両腕を交差させる。
「これが・・・・スキルか、よし」
俺は拳を構える。
項目に目を通していた間にモールチェイサーは動けるほどに回復したようだ。
「よし、このまま」
「そこまでだぁ!」
柵が開いて試験官が雄叫びに近い声を上げると同時に起き上がったモールチェイサーを周囲の土が盛り上がり拘束される。
「三十分が経過した!試験を終了する」
「・・・・え」
「ほら、外に出ろ!」
「・・・・え」
▼
「うっかりしていた」
「じゃないでしょ!?」
柵の外に出た俺を待っていたアテナの第一声がそれだった。
流石の俺も我慢できない。
「モールチェイサーは中の下程度の強さを持っている。試験であんなエネミーが出てくるとは思わなかった」
「・・・・俺の記憶が確かだとスキルの使い方を教えてくれるんじゃないでしたっけ?」
「だから、うっかり」
「最初の謝罪はそれかい!!」
「アカギ・ナオヤぁ!!」
「っはい!」
後ろから大声で叫ばれて直立で止まる。
「結果を伝える!そこに立て!」
既にたっています。なんて口が裂けてもいえなかった。
狼男の教官は真剣な顔でプレートのようなものに目を通して、くわっ、と目を開く。
「結論だけを先に伝える。貴様は合格だ!」
「・・・・はい?」
「ただし、合格だが貴様は焦ると冷静さを失うという判断が下されている!任務では常に誰かと行動することが推奨されている!いいか!独り立ちできるようになるまであまり無茶をするなぁ!」
「は、はいぃぃぃ!」
顔にべっとりと唾が掛かる。
拭いたいところだけれど動けない。
「これが試験の結果だ。よく目を通しておけ、受付で探求者認証カードが発行される。受け取るようにぃ!」
「はい!」
「さ、いこう」
直立した俺の手を引かれてギルドホームに向かう。
中に入ると受付のお姐さんが待っていた。
「アカギ・ナオヤ様、試験合格おめでとう御座います」
「あ、ありがとうございます」
「探求者認証のカードを発行しますのでお手数ですが今一度、ステータスカードを提出してもらえますか?」
「あ、はい」
ステータスカードを提出するとお姐さんは一枚の翼が描かれたプレートをステータスカードに重ねる。
小さな光と共にカードとプレートが重なり、一枚になった。
ステータスカードに白い翼が描かれている。
受付のお姐さんはステータスカードともう一枚黒いカードを差し出す。
「これが探求者の証となったステータスカードです。身分証明にもなりますのでなくさないでくださいね。もう一枚はアイテムカード、ドロップしたアイテムなどを保管する目的で使われます。特殊な錬金魔法が施されていますから巨大なものから小さなものまで保管可能です」
「ありがとうございます・・・・あの、この翼って」
「それは探求者の証です。果て無き探究心をという意味が込められています」
なるほど、
俺はもう一度、ステータスカードを眺める。
「続いて、ギルドの仕組みについて説明しますね」
「お願いします」
「探求者はギルドで管理されます。未登録で探求者としての活動をしている者が居た場合、投獄されます。なのでステータスカードをなくすなどということはしないでください。ギルドではクエストと呼ばれる依頼があります。 本来探求者はこのクエストをこなし得られる報酬で生計を立てていきます。中には別のもので生計をたてている者もいますが、ごく僅かです。なお、クエストは緊急時のもの、難易度が合わないと判断された場合はそのクエスト受注を却下、強制的受諾のケースがあります。なので、選択するクエストは慎重にお願いします。クエスト完了の判断は壁に貼られているものに記載されているのでチェックしてください。尚、エネミーがドロップしたアイテムの鑑定もギルドで行っていますので、手に入れたものはどんどんもってきてください。ドロップしたアイテムは自動的にアイテムカードに転送されますので在庫には注意してください」
「・・・・わかりました」
「以上でギルドの説明は終了となります。何か質問はありますか」
「あの・・・・スキル関係で質問してもいいです?」
「構いませんけれど、アテナさんに聞けば」
お姐さんは後ろでたたずんでいるアテナへ視線を向ける。
彼女が説明してくれると思っているんだろう。てか、コイツってかなり信頼されているのか?
「・・・・私が教えても構わない」
「後になって、忘れたとかそういう話はなしにてほしいから、ここのお姉さんに聞く」
「ガーン」
「てなわけでお願いします」
「えっと、はい」
受付のお姉さんに聞いた内容は以下の通り。
スキルには成長スキル、進化スキル、派生スキルといったスキルが存在しており、これは経験を積めば積むほど増えるし強化されるそうだ。
続いてアクティブスキル、これの使用方法は至って簡単、最初にモーションがあり、以降、それを用いることで戦闘を行えることが出来る。後、アクティブスキルは使用後に硬直が起こりやすいので、可能な限りトドメで使ったほうがいいらしい。
「このアクティブスキルは初伝の巻物が必要とありましたけれど、他の巻物って、どこにあるんですか?」
「ギルドで購入することも他にはエネミーをドロップしたケースもあります」
「へぇ、ちなみに、巻物って一つ」
「50000Pです」
「高い」
「報酬で手に入ることもありますので、頑張ってくださいね」
彼女の笑みを受けて俺は小さく頷いた。
これでようやく探求者になったわけだ。
必ず帰るための方法を見つけてみせる!