武器使用制限
「なんというか」
俺は建物を見上げて思う。
目の前の建物には剣や槍といったものが描かれている看板を見て自然と言葉を紡ぐ。
「どうしたの?」
「いや、武器屋なんてものがあるなんて、ファンタジー世界みたいなことになってきているなぁと思って」
スライムみたいなエネミー、ステータスカード、教会、探求者、さらに武器屋、ここまできたら王国なんてものが出てくるんじゃないかと考えてしまう。
「そう・・・・なら、次も驚くわね」
「は?」
「入るわ」
木製の扉を開けて、中に入るアテナに続く。
「トラー、いる?」
木製の扉の向こうは剣、槍、斧といったものから、盾や防具と言ったものまで並んでいる。
まさにファンタジー世界だよな。
「おぉ、アテナか、どしたの?レアアイテムの換金?」
「・・・・」
俺は絶句する。
奥からやってきたのは小柄で背中にハンマーを担いだ女の子。
褐色の肌に黄土色の瞳。
それだけなら驚きはしなかっただろう。
だが、目の前に現れた人は、いや、人と言っていいのか怪しいところだ。
身長はつま先から頭にかけて俺の腰辺りまでしかない。尖った鼻にこじんまりとした体。
「今日は違う。武器を買いに来た」
「ほぉ、アテナが武器を買いに?自慢の光剣は壊れたか」
「まだあれは使える。今回は彼のため」
そこでアテナが後ろにいた俺を前に出す。
品定めするように黄土色の瞳がこちらをみている。
「あ、えっと」
「武器を買いにってことは、これから探求者の試験を受けるって事だね。そーなるとまずはシンプルに剣辺りを使ってみてもらおうか、アンタ、名前は?」
「え、あぁ・・・・赤城ナオヤ、です」
「アタシはトラー、鍛冶師をやっている」
「こうみえてトラーの作る武器は頑丈で長持ち、ドワーフの中では超優秀、一応」
「一言余計だよ。アンタは・・・・まぁ、ユニークウェポンと比較されたらなんともいえないけれど、他の店に劣るようなものはうちにおいてない」
胸を張るようにトラーは答える。
自信満々に言う様子から本当のことなんだろう。
「あのさ、彼女は?」
「ん?アンタ、外来かい」
「えっと・・・・外来」
「赤の世界とは違う世界からやってきた人を外来って、呼んでんだよ。ということはドワーフは珍しいわけか」
「あ、あぁ」
「種族についてはそこの剣士様からしっかりと聞きな。まずはコイツを握れ」
差し出された剣を手に取る。
映画や漫画でしかみないような無骨な剣。
手に取るだけでずっしりとした。
《エラー》
「は?アババババババババババババ」
頭に文字が浮かび上がった瞬間、体に電撃が走った。
剣を手に取った途端、指先から全身に白銀の発光が起きると同時に全身が痺れる。
痺れる、という生易しいものならとても良かった。だが、俺の体を駆け巡ったものは電撃に近い。かなり痛い。
ちなみに普通の会話しているようにみえるだろうが、これはあくまで心の声であり、実際は喋ることも動くこともままならない。
「あちゃー、こいつ限定スキルもちかぁ。可愛そうに限定スキル持っている奴はなぁ、決められた武器以外を所持してしまうと体中を電撃でダメージを受けちまうんだ。はやく武器を放せ」
「どうやら剣はダメみたい。次」
「わかっててやらせたなぁ!」
痺れが取れたところで平然としているアテナに向かって叫ぶ。
「実践しないと理解しない。この世界の基本」
「ざけんなぁ!」
「ほら、次は槍だ」
「アジャッバァアアアアアアアアアアアアアア!」
それから数十分の時が流れて。
「うーん」
「これで一通り?」
「そうだな、粗方、うちの在庫で挑戦してみたが・・・・」
「(チーン)」
二人の視線は俺へ向けられている。
屍みたいな姿になっていた。
あれからいくつもの武器を握ってみたがスキル【使用制限(武器)】が発動、電撃が全身を駆けめぐる結果となる。
二人は実験みたいにタンタンと武器を渡していった。【使用制限(武器)】を持っている奴が多いのか?
「残りとなると・・・・アレしかないなぁ」
トラーが指したのは壁に置かれている黒銀色の籠手。
握り拳のところに奇妙な文字や紋章が描かれている。
「あれは?」
「いわくつきの武器だよ。まぁ、持ってみればわかるさ」
「・・・・これで、電撃は最後にして欲しい」
HPが表示されるのなら俺のバーは真っ赤もいいところだろう。
置かれている籠手を手に取る。
「・・・・?」
何も起きない。
試しに腕へ装着している。
少し重たいが疲れるほどじゃない。
カチャカチャと手を動かす。
「ふむ、これで問題ないのかな?」
「ほぉ~、籠手や手甲関係なら使えるという訳だ。ガチ近接系だな」
「そうみたい・・・・ところで、いわくつきとはどうして?」
アテナの質問にトラーは「あぁ」と思い出す。
「何の素材でできているかわかんねぇけど、とても重たいんだよ。ドワーフやドラグーンですら持つのに苦労したんだよ」
「ユニークウェポンじゃないの?」
「これといったスキルはない。スロットも普通の武器と同じ数量しかない・・・・まぁ、練成過程で失敗したもんじゃないかとアタシは睨んでいたんだけどね」
「・・・・そう」
俺の隣で新たな単語が並んだ。
もう、お腹一杯なんだけど。
「あ、そうそう、ほらよ」
「なんだ、巻物?」
差し出されたものは時代劇ででてくるような円筒形の書物だ。
側面には初伝と記されている。
「何さ、これ?」
「巻物」
みればわかるよ!?
「本当にお前は何も教えていないんだなぁ。いいか、この初伝というのは選択した武器のスキルがあるんだ」
「武器を振るうだけでモンスターは撃退できないのか?」
「雑魚ならそれだけで可能、ただし、自身のレベルが低い、モンスターが強ければ武器を使うだけで倒すことが出来ない」
「そこで登場するのがアクティブスキル、誰が名づけたのか知らないが、この巻物に記されているスキルを使えば、自分より少し強いモンスターでも撃退することが可能になる」
あまりに強すぎれば難しいけどな、とトラーの言葉に俺は巻物の紐を解く。
布のこすれる音と共に巻物が消える。
「消えた!?」
「ステータスカード、みてみ」
トラーに言われて、ステータスカードを開く。
アカギ・ナオヤ
種族:人間
スキルレベル1
【筋力強化】【言語理解】【武器所持】
【状況把握】【空間能力(AA戦闘時)】【不幸】【使用制限(武器)】
【魔法適正(E)】【???】【???】【???】【???】
武装:黒鉄の籠手
アクティブスキル1:【クロスアタック】【アンダーナックル】【????】【????】
「色々と増えている」
「アクティブスキルは使うたびに成長していく、一定以上成長させることで他のスキルも使用可能になる」
「まぁ、初伝は、文字通り初心者用の巻物だから、他の巻物を探していくことだね」
「他の?」
「巻物はいくつかの種類がある」
「まぁ、追々、わかるだろうよ」
どうでもいいことだけど、アテナといいトラーといい説明がどこか雑すぎる。
そろそろ怒ってもいいかな?
「ところでこの籠手、黒鉄の籠手って名前なのか?」
「いかつい名前だな。ハガネか」
「とりあえず、武器は手に入った。そろそろ行こう」
忘れていた。
俺は探求者になるための試験を受けるべく武器を購入したわけで。
ん?
購入・・・・。
「あのさ、トラー」
おそるおそる尋ねる。
「この武器っていくら?」
今更だが俺はお金を持っていない。
ここで高額を請求されたら借金抱えてからのスタートになる。
それは少し、嫌だった。
「元々、廃棄を考えていた武器だからね~、これからお取引してもらうことを条件にタダにしておいたるよ」
「マジか!?」
「ただし、いい素材とかが手に入ったらアタシんところへもってこいよ」
「わかった」
「うっし!これで顧客GETだ」
それ、本人の前でいっていいものなのか?
「行きましょう」
「お、おう」
「頑張ってな~」
見送られて俺達は探求者試験の会場へ向かう。