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拠点内クエスト

「よし、これで完了だ」


 屋根に釘を打ち終えた俺は掛けられている梯子を使って降りる。


 地面にたどり着くと待っていたようにレティアが駆け寄ってきた。


「お疲れ様です。主≪ごしゅじんさま≫」


 修理が完了した屋根を見上げたレティアは小さく頷く。


「依頼主さんに完了の書類にサインをいただいております。これをギルドホームに提出すればクエスト終了ですね」


「悪いな、俺の仕事なのに」


 ギルドホームが受付しているクエストは拠点の中のものから外のものまで多種多様に存在する。


 探求者が受けるものが多いので外のエネミー討伐や拠点間移動の護衛だ。けれど、拠点の中で作業をするだけで報酬がもらえるクエストもあり、外に出ずに中でクエストを受注していた。


 危険なエネミーと戦うクエストと比べると報酬も安いものだが、外に出ることができない俺としては助かるものだ。


「いえ、主≪ごしゅじんさま≫の役に立てるのならこれくらい当然のことです。私は奴隷なのですから」


「頼むからそんなことをでかい声で言うな」


「当然のことを言っているだけです?」


「・・・・もういい、所で」


 俺はレティアの服装を見る。


「なんで、メイド服、着ているんだ?」


 普段は黒一色のドレスを纏っているのだが、目の前の彼女は白と黒のメイド服を着ていた。


 くるりと動くだけでスカートについているレースがひらひら揺れている。


「これですか?主≪ごしゅじんさま≫がクエストを受注しているときに、試着するだけで金がもらえるということだったので」


「怪しすぎるわ!!」


 クエスト受注の間にレティアがとんでもない仕事に手を突っ込んでいた。


 これはギルドホームに注意するべきか?


 レティアは色々と世間知らずみたいなところがある。このままだと知らないうちに危ないことに突っ込む可能性もある。


 うん、ここはしっかりと怒っておく必要が。


「主≪ごしゅじんさま≫の役に立てると思って受けたのですが、ご迷惑――」


「いや、迷惑じゃない。よくやった!」


 無理だ。俺の為にクエストを受けたといわれたら怒れない


 レティアは自分の為に何かをしない。すると決めたときの起因は俺にある。


 彼女相手に鬼畜になれないんだ。


「とにかく、終わったからそれを返却して宿に戻ろう・・・・ちょっと疲れた」


 屋根の上で作業したことよりもレティアに叫んだことで疲労がたまるというのは少し違うような気がする。


「ところで資金はどれくらい溜まったのでしょう?」


「そうだな・・・・中のクエストをあと2、3回受けたら目的の額まで溜まるだろう」


「困りましたね。迷宮で素材が集まったというのに、使用していた武器の修理が発生するなんて」


 ギルドホームへ報告の為に向かっている道の途中、レティアの言葉に遠い目をしそうになる。


 迷宮攻略でポイズンアンデッドと戦ったときに破損した籠手だが、あの後のエネミーとの戦いでかなり無理をさせてしまったらしく。トラーからオーバーホールが必要だと怒られた。


 素材による防具精製と武器の修理の金額が手持ちの予算を軽くオーバーしてしまい、こうして拠点内のクエストを行うことで予算を集めている。


「世の中、どこまで行っても金なんだな」


 予算達成のために金を集める。


 元の世界にいた時からバイトをしていたことから慣れてはいたが、ここで役に立つとは思いもしなかった。


「主≪ごしゅじんさま≫、どうされました?」


「いや、なんでもない」


 じわりとやってきた感覚から目をそらす。


 一瞬、元いた世界を思い出して・・・・。


「さて、報告して今日はやす」


「見つけたぞ!!」


 聞こえてきた声に俺はうんざりした表情を浮かべる。


 出来るなら無視してやりすごしたい。


 けれど、いつの間にか包囲網が形成されている。


 きょとんとしているレティアの横で俺は顔を上げる。


 そこにいたのはいつぞやの奴隷解放団体を謳っているベルトルト。


「また、お前か」


「ようやく見つけたぞ!外を探して見つからないと思いきや、まさか中にいたとはなぁ!」


「どこで何をしていようと俺の勝手だ」


「なんだと」


「貴様!」


 よくみればベルトルトの周りに知らない人間がいることに気づいた。


 全員が白いローブを纏って、険悪な空気を放っている。


 今にも殴り掛かりそうな男達をベルトルトは止めた。


「やめたまえ、暴力はいけないよ。僕達は奴隷を解放するために活動しているのだから」


 にこりと笑みを浮かべてベルトルトはレティアをみる。


 視線を向けられたレティアはきょとんとしていた。


「レティアさん、でしたね?」


「?」


「私は奴隷解放団体のリーダーを務めているベルトルトと申します」


「はぁ」


「もし、お困りがありましたらこの私へ連絡をください。何があろうと悪の魔の手から救い出して見せますから、何せ私は」


「結構です」


「・・・・へ?」


 レティアは笑みを浮かべる。


「私はいまの身分に満足しています」


「し、しかし、奴隷というのは身を拘束するものであって」


「確かに、奴隷というのは普通の生活と比べると不便が多いでしょう。ですが、私は主≪ごしゅじんさま≫に全てを捧げると決めているのです。ですから、貴方の提案は結構なのです」


「そ、そんな」


 信じられないという表情でベルトルトは座り込む。


 周りの男達は動揺を浮かべる。


 その中で一人が急に俺を睨む。


「お、己!奴隷に暗示をかけているな?」


「は?」


 いきなりのことに俺は間抜けな声を漏らす。


 すると、周りの連中も騒ぎ始めた。


 俺が魔法を使って奴隷を操っていると大きな声で叫ぶ。


 突然のことにレティアはきょとんとしながらも文句を言おうとする。


 だが、それよりも大きな声が響いた。


「ナオヤ・アカギ!決闘だ!」


 声の主、ベルトルトがびしっ、と指を突き付けて宣言していた。


 なんでだよ。


 俺の意思はまたもや無視された。





















 デュエルカードが表示された俺は迷わずにYesを押した。


 カードを中心に決闘フィールドが展開される。


「一撃終了でいいな?」


「当然だ!僕の華麗な魔法でキミを倒し、レティアさんを魔の手から解放してみせよう」


 両手を広げて宣言する姿はまるで舞台の上に立つ役者の姿、囚われたお姫様を助けるためにやってきた騎士。


「さしずめ、魔物か魔王といったところだな」


 今の俺の立ち位置はそんなところか。


 ポキポキと手元を動かす。


 ベルトルトは指先に魔法文字を描き始める。


 カウントが0になると同時に地面を蹴った。


「なっ!?」


 間合いに入られたことでベルトルトの顔が驚愕に染まる。


 俺の動きがそんなに速く視えたのか?


 まぁいい、


 拳を作る。


 相手が何かをするよりも速く拳を振るう。


 放った一撃はスキルも武器も纏っていない只の拳だ。


 それならば、


「全力でぶつけたところで問題ないよな」


 ベルトルトの頬を殴り飛ばす。


 俺の言葉と同時に決闘終了のブザーが響く。


 驚くほどあっさりと終わる。


 ブン、と殴った手が痛む。


 素手で人を攻撃したのは、初めてだな。


 倒れているベルトルトを見下ろす。


「決闘は俺の勝ちだ。いいな?」


「・・・・」


「貴様!」


「よくもリーダーを!」


「許さん!」


 集団が殺意を放つ。


 頭をやられたことで暴動が起きてしまいそうだ。


 厄介事は更なる厄介事を生む。


 襲い掛かろうとする連中へ拳を構える。


「やめたまえ!」


 ベルトルトが立ち上がり上空へ魔法を放つ。


 炎の弾丸が空に向かう。


 轟音に全員の動きがとまった。


 頬が赤くなったベルトルトはゆっくりと立ち上がる。


 殴られたことで頭が揺らいでいるのだろう、少し足元がおぼつかない。


「決闘で勝敗が決したのだ。これ以上の騒ぎは不要だ!帰るぞ」


「し、しかし」


 傲慢な態度を持っているベルトルトだが、リーダーという点においては優秀なのだろう。


 全員がおとなしく従う。


 ベルトルトはこちらをみる。


「僕は奴隷を許すつもりはない。必ずすべてを解放する」


 鋭い瞳でこちらをみてベルトルトは去っていく。


「なんだろうな」


 勝利したこっちの気分が悪くなる。


 そんな結果だった。




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