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ゲーム知識を有するもの

 現れるエネミーを屠る。 


 既に残りの階層はわずか、けれどレコーは見つからない。


 もしかしたら俺が飛ばされるより以前の階層にいるのか?


 浮かび上がる案をいくつも潰しながら前へ進む。


「おー、よーやくきたみたいだぜ」


「・・・・」


 こんな時に――。


 嫌悪感を出す。


 急いでいる俺の前に現れたのは不良だった。


 槍を肩に担いだまま立っている。急いでいる今なら無視してやりすごせばいいのだが今回はそれができない。


 次の階層の道、それをヤツはふさいでいた。


「先を急いでいる、どけ」


「あ?偉そうにいえる口か?雑魚」


「お前みたいなやつにかまっている暇はない」


 小馬鹿にした笑みを浮かべたままの不良は地面に唾を吐く。


「本当はてめぇみたいなやつなんかと会話したくもないんだけどさ、相良さんの指示もあるから一応、伝えておかないといけねぇんだよ」


 槍の先端を俺に向ける。


「てめぇ、俺らの仲間になれ」


「・・・・なんだと?」


「前も言ったがここはゲームの世界だ。俺や相良さんは“これから”を知っているのさ」


「“ここ”はゲームじゃない」


 相良達の言葉を俺は否定する。


 しかし、目の前の不良は話を聞いていない。


「お前みたいなヤツはいらねぇんだけどよぉ、相良さんがいうにはイレギュラーは傍にいてもらったほうがこれからの事態に対応できやすいだろうという考えだけどな・・・・それで」


 返事は?という神原の言葉に対して、俺は一言だけ伝えた。


「断る」


「あっ、そ・・・・じゃあ」


 不良の足元がはじけ飛ぶ。


 両手の籠手を盾にして構える。


「ぐぅぅっ!」


 次いでやってきた衝撃、体がバラバラになりそうになりながら迫る刃を受け流す。


 ブンと槍を振るい、不良は不敵な笑みを浮かべる。


「断った場合は容赦なく殺せって言われているからなぁ、手前にはここで死んでもらうぜ」


 叫ぶと同時に連続攻撃が襲いくる。


 籠手で防ぐには無理があると判断した俺は後ろへ下がった。


 完全に躱しきれずコートの一部が破れる。


「おらおらぁ、このまますりつぶしてやるよ!」


 手の中で柄を回転させながら不良が次撃を仕掛けるところで俺が割り込む。


「相変わらず単調な攻撃だな」


「てめっ、いつのまに!?」


 不良が驚愕の顔を浮かべる。


 何か仕掛ける前に籠手に一撃を打つ。


 殴られた不良は派手な音と共に地面にぶっ倒れた。


「あの時と変わらないな、相手をなめていると動きが単調でわかりやすい」


 ヤツとの決闘、思い出しただけで苦い気持ちがでてくる。


 けれど、俺はあのまま終わったわけじゃない。


 アテナに指導してもらいながら自分の戦い方を確立させていった。


 まだまだ荒々しい部分はあるという指摘をもらっているがこいつに負けることはない。


「くそがぁ、てめぇみたいな雑魚に負ける俺じゃねぇんだよ!」


 不良の動きはあの時と全く変わっていない。


 攻撃力の高いスキルなどを手に入れているかもしれない、だが、あとの動きはまるで変っていなかった。


 だから、対処しやすい。


 この程度なら俺でも楽に倒せる。


 そう、こいつ一人だったら。


「傍観したままか?」


 近くの岩場からもう一人、相良が姿を見せる。


「残念ですよ。貴方は仲間になれると思っていたんですけどね」


「断れば殺せといっていた癖によくいうな」


「貴方の実力を図るためですよ」


「よく回る口だ」


「それで生きてきましたからね」


 相良は笑いながら装備していた弓を構える。


「神原君、いつまで寝ているつもりです?早く起きなさい」


「ぐっ、くそったれ」


 ふらふらと鼻血を垂らしながら神原が槍を構える。


「この先を知らないイレギュラーがうろちょろされると迷惑なんですよ。僕としては仲間に引き入れようとも考えましたが邪魔になるのならここで排除させてもらいます」


 その言葉が合図となり相良の矢と槍が襲い掛かってくる。


 慢心が抜け落ちた。いや、もともと二人で動くことを前提としていたのだろう不良の動きはさっきと違うものだった。


 

「おら、死ねやぁ!」


 振るわれた一撃が俺の背中を貫く


 駆け抜けるような熱の痛みに顔を歪めながら顔を狙う。


 それを阻むように矢が右肩に突き刺さる。


「ぐっ!」


「後ろががら空きですよ」


「このまま串刺しにしてやるよ!」


 ライトエフェクトを放つ穂先、飛来する矢を前に俺は――










 相良は確実に赤城を“消した”確信があった。


 彼にとってこの世界はゲームだ。


 内容のわかりきっているゲーム、強くなる方法も熟知している。


 どこで、どんなアイテムが手に入るか。


 この時期にイベントが起きること、ゲームにのめりこんでいた、否、ゲーマーとしてすべてを把握している相良にとってこの世界ほど簡単なものはない。


 後は七徳姫を仲間に引き込めば安泰ともいえる。


 この世界において最強の七人といわれる七徳姫、彼がプレイしていたゲームの世界においてもNPCでありながらレイドボスを一瞬で屠る強さを持つ。


 しかし、七徳姫も最強ながらゲームの進行によって命を落としてしまう七徳姫もいる。話の進行を知っている自分ならこの事態を変えられるかもしれない。


 そうすればこの先は楽に生きていける。


――死ぬはずの人間も仲間にできる。


 そう考えて彼女へ近づいた。


 けれど、予想外の事態が起きる。


 七徳姫の一人、希望を司る姫君、アテナの傍に一人の人間がいた。


 ゲームの設定では塔攻略の最中に強化されたボスエネミーに殺されるという展開、それを知っていた相良は早めに接することでその事態を変える考えだった。

だというのに傍に一人の男がいる。


 それは相良にとってイレギュラーな事態だった。


 最初は自分達がきたことによって起こった現象だろうと考えていた。けれど、男は好き勝手に動くばかりか、自分の想像の斜め上をいく状況を作る。


 結果をいうとアテナは死ななかった。


 満足のいく結果だろう、助けたのが自分達でないということを除けば。


 その頃から彼を、アテナの傍にいた男を危険視した。


「どうやらこれで始末できたみたいですね。安心してください。貴方は所詮、イレギュラー、世界が元通りになるんですよ」


 放った一撃で相手が消えたことを満足している相良と神原の二人、だが、煙が晴れた瞬間、事態が一変する。


「さっきからイレギュラーだの、世界が元通りとか、滅茶苦茶だな」


 赤い輝きを放つ籠手を振るいながらナオヤは二人を睨む。


「こけおどしですか?そんなもの通用しないです。神原君」


「今度こそ消えろヤァ!」


 柄を握りしめ、地面を蹴る。


 先ほどよりも速い、横なぎに振るわれた一撃がナオヤの胴体に直撃するというところで籠手が穂先をつかむ。


「あ、掴んだところで防げるわけじゃねぇよ。ソニック」


「遅い」


 叩き込まれた一撃が槍の柄を真っ二つに砕く。


「なっ!?物理攻撃で槍が破壊されるだぁ!!だがなぁ、使えるんだよぉ!」


 壊れた柄を握りしめながらアクティブスキルを放つ――ところで赤い炎が神原を包み込む。


「ぐ、がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 炎で全身を焼かれる痛みに神原は地面を転がる。


 目の前で仲間が焼かれることに相良は動揺した。


「魔法・・・・だが、詠唱がない、詠唱しているように見えなかった。そんな魔法きいたこともみたこともない!まさか、システム外スキルか何か」


「そんなこと知るか」


 相良の前にナオヤは立つ。


 接近を許したことで彼の弓は使えない。


「ぼ、僕を殺すのですか?」


 ナオヤは無言で拳を振り上げる。


 籠手が赤い炎に包まれた。


「ひっ!?」


 来る衝撃に相良は目をつむる。


 顔にあたるところでナオヤは拳を止めた。


「お前みたいなヤツを殺したら俺は仲間に怒られる」


 拳を収めてナオヤは横を過ぎる。


「ゲームだと、こんな痛みが当たり前の世界のどこがゲームなんだ、とっとと夢から覚めるんだな」


――お前みたいなヤツは殺す価値もない。


 遠まわしに言うと後ろでぺたんと相良が座り込む。


「(なんていうだろうな、みんななら)」


 脳裏にザフト、アイラント、ドリフト達の姿を思い起こす。


 みんなが生きている世界をゲームだと口走る連中の為に手を汚したら彼らはきっと叱る。


 今の自分を見たらなんというか、想像できない。


 彼らはこの世界にもういないのだから。


 ナオヤは走る。


 今の仲間であるレコーを探すために。


――カチン。


「・・・・あ」


 足元で何かが起動した音にナオヤが意識を向けた瞬間、転移される。




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