宿屋
探求者認定試験(勝手に命名)というのは朝から夕方までやっているそうだ。
試験の難易度は拠点ごとによって異なるらしいがここは比較的楽だというのがアテナの言葉だ。
「試験の内容は人それぞれによって異なるのか」
「そう、所持しているステータスカードの中身をみて、適した試験を与えることが決まりになっている。だから、他人の話はあまり参考にならない」
「・・・・一応、気になるから聞くけれど、アテナの試験ってなんだったん?」
「エネミーボックスとアイテムボックスの見分け方」
私は目利きというスキルで試験内容を判断されたとアテナがいう。
ならば、俺はとステータスを覗いた、はっきりいってどんな試験が起こるのか全く予想できない。
「無駄に考えても仕方ない。今日は休むべき」
「そうだな」
眠ると考えたところで瞼が重くなってくる。
赤い空は漆黒に染まっていた。
どうやら朝から昼は赤い空、夜は俺のいた世界となんら変わらないようだ。
「じゃあ、私の部屋で二人一緒に」
「おう・・・・」
・・・・ん?
意識がとろんとしていた俺の中で、奇妙な言葉が聞こえた。
「すまん、聞き間違いだと思うんだけど、なんていった?」
「二人で、ゆっくり休む」
「アウトォォォォォ!」
眠気が一瞬でとんだ。
なんて素晴らしい・・・・とんでもないことをいいだすんだ。
「お前は阿呆か!?」
「ナオヤ、失礼」
「いや、一緒に寝るなんていう発言する方がおかしいよ!?」
「そんなことはない、ここでは常識・・・・」
「知らない世界だからって適当なこと言ってんじゃねぇぞ!?」
「ならば、お隣さんに聞いてみるべき」
「・・・・え」
やけに強気なアテナの発言に俺は固まる。
待て、待てよ。
もう一度良く考えるんだ。赤城ナオヤよ。ここまで強気な彼女のことだ。何か罠が・・・・いや、もし本当に二人で寝るのが当たり前だったらどうする?
隣に聞いてYESという返事がきたら逃げ道が無くなり、ジ・エンドだ。
ここは適当に濁すのが得策かも。
「わかった、じゃあ、隣のベッドを使わせてもらう」
「ダメ」
「寝るんだろ?じゃあ、同じ部屋で寝ることでも問題ないと思うけれど?」
「一緒のベッドに寝ることに意味が」
「あー、疲れた。隣のベッドで寝るな!」
耳を塞ぎながらベッドの上に倒れこむ。
薄い毛布を頭までかぶって彼女の追及を躱す。
あ、夕飯、食べていない。
毛布を被ったところで思い出したが、自分が思っていた以上に疲労が蓄積していたみたいで、俺の意識はあっという間に闇の中に消えた。
「・・・・」
眠りについた俺をアテナはじぃーっと見ていた。
翌朝、赤い光に俺の意識は覚醒する。
この部屋にカーテンと呼ばれるものは無く、木製の扉の隙間から日光が差し込む。
「(空が赤いと差し込む光も赤いんだなぁ)」
ぼんやりとした意識でどうでもいいことを思いながら俺は体を起こす。
「(ん?)」
動かない。
というか、体の半分は痺れていて動きにくい。
あれ?
もしかして半分金縛り!?
ちょっと待て。
混乱しかけたところで俺の小さな脳みそがゆっくりと回転を始める。
痺れている体半分に何か温かいものを感じた。
木製のベッドにしてはやけに柔らかいもの。
「(ま、まさか・・・・)」
いや、落ち着け。
あんなことは漫画や小説の世界だ。
俺のような平凡野郎に起きることは無い・・・・悲しいけど。
でも、
夢を見たってバチは当たらないはず。
おそるおそる隣へ視線を向ける。
アテナが寝ていた。
ふむ。
もう一度言おう。
アテナが俺の隣で寝ていました。
あれ、足りないな。
大事なことだし、ちゃんといおう。
俺が寝ているベッドでアテナが寝ています。ぴったりと密着しておりますぅぅぅぅぅぅ!
「うそぉぉぉぉぉぉぉ!?」
堪らず悲鳴を上げたのは仕方ないことだと思う。
だって、曲がりなりにも美少女が俺の隣で寝ているんだよ?いや、寝ているだけならいい。抱き枕扱い(体半分)されていたら混乱するのは当然だ。
くそう、何で俺の体は痺れているんだ!美少女の体つきを堪能できないじゃないか。
痺れが強くて全く感じないんだよね。
「てか、何でアテナが俺のベッドで?アイツ、隣のベッドで」
視線を動かしたことで気づいた。
アテナはピンク色のパジャマを着ている。上がワンピースで下が膝下までのズボンタイプ。
うん、胸元がみえそうで見えないのが悔しい。
「アテナさん、起きてくれ」
つんつんとむき出しになっている肩を突いてアテナを起こそうとする。
体を動かすには彼女が目を覚ましてくれないとダメだ。
「う・・・・にゅ」
「おぉい、おきてよ」
「まだ、食べ足りない」
「ふぇい?ちょっと」
むくりと目を覚ましたアテナは口をあけて俺のほうへ接近してくる。
あ、嫌な予感がした。
「カップリ(←鼻先に噛み付く)
「んぎゃああああああああああああああああ!?(←噛み付かれたものの末路)」
「悪かった、反省をしている」
「一応、言い分を聞こうか?」
眠っていた部屋から階下におりた俺達は食堂にいる。
この宿、宿泊施設兼食堂という経営スタイルらしい、迷惑をかけたお詫びに奢るということで話がついた。
「気持ちよさそうでもぐりこんだ。後悔はしていない」
「反省しているっていったよな!?」
「寝ぼけて噛み付いたことは反省している。潜り込んだことは悪いと思っていない」
「なんていう奴だ!?」
「これが私、クオリティ」
「真顔で言い放ったし!」
アテナにひとしきり叫んだところで料理が運ばれてくる。
運んできたのはエプロン?をつけたそばかすの女の子だ。
「はい、朝食だよ~」
「ありがとう」
「どうも~」
「お兄さん、アテナさんと一緒にいるってことは探求者なの?」
「いや、これから探求者になるつもり」
「そうなんだ!頑張ってね!」
「ありがとさん」
にこりと微笑んで女の子は奥へ入っていく。
手を振ったところでアテナと目が合う。
「なんだ?」
「探求者試験、受けるの?」
「帰りたいからな」
「・・・・そう」
「何だよ?」
アテナの会話の間がとても気になる。
「ステータスカードをみせて」
「何でだよ?」
「試験は危険なもの、その前に貴方のスキルなどを把握して、適正のある武器を選んでおく必要がある」
「武器?戦闘でもすんのか」
「その通り」
大きくなずいたところでアテナの説明が入る。
探求者にとって必要なのは身を守れる程度の実力、世界の知識。それらを証明することが認定試験の内容。
「ここでいう世界の知識とは貴方が所持しているステータスカードのスキルを把握していること、ステータスカードのスキルは戦闘に使えるものもあれば、生産、生活などに使えるまで人の数だけ存在する。まず、試験の前に戦闘スキルを把握、そしてスキルを活かせる武器のチョイスが試験クリアの条件」
「・・・・なるほど」
少し考えてから俺はステータスカードを渡す。
俺が読み上げてもいいのだけれど、ステータスカードの内容は口に出していいものかわからない。
「ほい」
「・・・・なるほど」
ステータスカードを開いて覗き込んだアテナは小さく頷いてから。
「かなり特殊なスキルばかりある」
「そうなのか?」
「うん、武器使用制限があるのは珍しい」
アテナはそういうとスキルを表示する。
【使用制限(武器)】
内容:使用できる武器に制限が設けられています。それ以外の武器を使ってしまうと使用した武器そのものが壊れる可能性があります。
「こういうスキルがあると使う武器が一つだけだから、ソレを極めるしかない」
「結局、使える武器っていうのは?」
「武器を持てばわかる。そのときにスキルが発動するから」
「・・・・ということは」
「武器屋へレッツゴー」