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ロキ強襲

「てめぇ」


 いきなりの乱入者の姿を見た俺は憎悪に顔を歪める。


 全身をすっぽりと隠しているローブ、フードの隙間から覗く口元は馬鹿にしたような笑みを浮かべている。


 二度と見たくない類の笑顔だ。


――こんなところで奴と遭遇するとは思わなかった。


「よぉ、また会えたな。兄ちゃん、いや、赤城ナオヤって呼ぶべきかなぁ」


 ローブで隠していた素顔から現れるのは金髪のイケメン。


 構えも何もない自然の動作、攻められたらあっという間に倒せる。


 だが、こいつはアテナと死闘を繰り広げた相手だ。


 さらにいえば、塔攻略の最後で邪魔をしてきた。何をしでかすのか予想できないという爆弾を常に抱えている。


「生きていたのか?」


 記憶が確かならこのイケメンは黒いドラゴンに飲み込まれていなくなったはずだ。


「どうして生きているか・・生憎、俺はそんな軟な存在じゃないんでねぇ~。ま、今回はお前じゃなくて、さっき飛ばした知識の姫に用事があるんだよ」


「レコーに・・・・?」


 アテナのことを知っている態度からして、七徳姫と何か関わりがある?


 何を目的としているのかわからないが良いものではないだろう。


 過去に俺を殺そうとしたこと、さらにいえば、攻略の邪魔までしてきたんだ。そんな奴の企みがプラスに働くことはない。


 鋭い視線に笑いながら男は深い靨を作る。


「そういや、自己紹介をしていなかったな。俺様の名前はロキだ。ま、覚えていなくていいさ。お前は邪魔だし」


 咄嗟に籠手を前へ構えた。


 飛来する一本のサバイバルナイフ。


 籠手の表面が刃を受け止める。


「ほぉ、前よりも強くなっているみたいじゃん」


「殺すつもりだったな」


「言ったじゃん、お前は邪魔だって」


 腰のホルダーからサバイバルナイフを取り出して男、ロキは笑う。


 喜怒哀楽でいうなら喜の感情で染めながらくるくると武器をもてあそぶ。


 それだけのことなのに、苛立ちが募る。


 こいつの行動一つ一つに怒りが沸き起こってきた。


「おー、怖い怖い、本当ならすぐにでも殺してやりたいところなんだけどねぇ、生憎、こっちも前のダメージが残ってんのよねぇん」


 ボトッ、とローブの隙間から何かが零れ落ちる。


「ありゃ」


 地面を蹴る。


 ロキの視線が落ちたものへ向けられたところで急速に接近して攻撃を仕掛ける。


 グチュリ。


「なっ」


 殴った時に感じたものに顔を歪める。


 なんだ、いまのは?


 驚愕と困惑、さらにいえば嫌悪を放ちながら後ろへ下がる。


「あーあーあーあーあーあ、慌てる乞食は貰いが少ないということをしらないのかなぁ、パンチ受けちゃったから体が余計にボドボドになっちゃった」


 ローブの前を広げて、その“全て”を曝け出す。


 それはあまりにも異常、気味が悪いものだった。


 上半身と下半身の間が何かでくりぬかれたように肉のほとんどがぼろぼろと崩れており、下半身に至っては高温で炙られたのか焦げている部分が目に入る。


 普通の人間なら立って歩くことすらままならない体、なのにロキという男は平然とした表情でそれをみせていた。


 異常、


 異常も異常、


 不気味、怪奇、不思議、不快、様々な言葉が頭をよぎるがどれも正しくない気がしてうまくまとまらない。


 そんな俺の隙をつくようにしてロキがナイフを回転させながら襲い掛かってくる。


 思考を戦闘に切り替えることで迫る刃をぎりぎりのところで躱す。


 しかし、ロキというのは体を何割か失っていながらも戦闘技術の衰えは一切見せずその場でナイフを持ち直して襲い掛かる。


 奴は普通に攻撃できないと鷹をくくっていたら俺の命はなかっただろう。


「ほうほうほう~、ほんの数か月程度だけどやっぱり成長しているみたいだねーん、ナオヤっち」


「気持ち悪い言い方するな!」


 仕返しとばかりにこちらから攻めるが向こうは子どもとじゃれあっているみたいにいなされてしまう。


 やっぱり技術は向こうが上か。


 そんなことはわかりきっている。


 あのアテナと互角に戦える相手だ。俺なんかが渡り合えるわけがない。


 しかし、それであきらめていい理由にならない、なっていいわけがなかった。


「うぉおおおおおおおお!」


「馬鹿の一つ覚えがきたぁ~」


 接近する俺を笑いながらロキは迎える。


 おそらく俺が一撃加えようとしたら何か仕掛けるだろう。


 だから。


「フン」


「・・・・・ぁ?」


 それなりの距離でアクティブスキルを発動させて地面へ一撃を放つ。


 突然の奇行にわけがわからないという表情をしているだろう。


 だから、


「お前を倒すのは無理さ。だから、選手交代だ」


「ちぃぃぃぃぃっ!」


 何かに気づいたロキが慌ててナイフを構えるが遅い。


 俺を踏み台にして宙を舞う銀髪の少女の斬撃が体に突き刺さる。


 銀色の閃光が相手の命を刈り取る。


 ロキは大きく見開き、そして不敵に笑う。


「あーあぁ、ここで終わりかぁ、でもねぇ、足止めはさせてもらうぜ」


「アテナ!ここは任せた」


「まっ」


 俺は走る。


 アテナも続こうとしたが現れたエネミーに道を阻まれてしまう。


「お前は足止めだよ~ん。ここで確実に一人は命奪うつもりだからさぁ」


「どこまでも!」


 苛立ったアテナの声を聴きながら俺は走る。


 嫌な予感が胸中でとぐろを巻いていた。


 ロキが姿を見せたことであの時のことを思い出したのかもしれない。


 ボスエネミーに何もできなかった時のことを。


 目の前に淡い光が複数、姿を見せる。


 光が収まるとそこから姿を見せたのはトロール達。


 道を阻むように手の中にある棍棒を構えた。


「邪魔だぁああああああああああああ!」


 ライトエフェクトを放つ籠手を前へ、足を大きく踏み出す。


 不安が頭の中から消えない。


 この予感が外れていることを願う。



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