落下系男子
感想がほしいなと思うのは間違いかな?
レコーは17階層にたどり着いた。
消耗した矢の数は多い、かなりの範囲のマッピングを完了したことを考えれば上々だろう。
後は階層の残りを把握すれば終わり。
矢の残数を確認してレコーが踏み出そうとしたところで奇妙な音が聞こえてくる。
エネミーの移動する音だろうか?
地面に耳を当てる。
「違う」
下から響いている音ではない。
では、どこから?と周囲を警戒するレコーは気づかなかった。
天井が音を立てて開いた事、人間が転がり落ちてきたことに。
「むぎゅう」
上の警戒を怠っていたレコーは変な声を漏らして倒れた。その拍子に持っていた弓と矢筒を手放す。
――何かがいる。
相手は自分を狙っているのか、混乱しているのかわからないが暴れていた。
はっきりいって気持ち悪い。
のしかかってきた相手をレコーは体をひねって蹴り飛ばす。
相手が悲鳴を漏らす横で落としたた矢筒を広い、弓を構える。
「いっつぅ・・・・なんだ、一体」
暗闇に溶け込もうとするかのような漆黒のコート、それと同じくらい黒い籠手、それから茶色交じりの髪、黄色の肌をみて人間だと判断できる。
ーーそれだけだ。
レコーは矢を射る。
相手が危険かそうでないかわからない。
油断できないように相手を見据える。
「てか、ここはどこだ?マップは・・・・アテナが持っているんだっけ」
ぴくっと構えている弓が止まる。
本当ならすぐに相手を殺せるところなのだが、敵?から出たアテナという言葉に動きが止まった。
「あなた、七徳姫を知っているの?」
「うぉぉぉぉ!?」
背後から声をかけられたことに驚きの声を漏らして振り返る。
少し整ってはいるがどことなく平凡よりの少年。
こんな子がどうして迷宮攻略を?という疑問が頭に浮かぶ。
「・・・・誰だ?」
「無駄なことに時間を使いたくないの、私の質問に答えて」
「七徳姫を知っているかっていう質問についてだよな・・・・知り合いだよ」
「あなたはアテナの側近か何かなの?」
「迷宮攻略を共にしてもらっている・・・・ところでお前は」
「ここは17階層、あなたはさっきまでどこにいたの?」
「1階層だ」
レコーは内心、驚く。
「嘘はつかないで、転移アイテムの痕跡はなかった。転移アイテムがなければここまで来ることはできない」
「俺だって何が起きたのかわからない。気づいたらここにいたんだよ」
「ありえない、1階層は何人もの探求者が調べている。17階層までいけるような仕掛けはない」
「ないじゃなくて、見つかっていないだけなんじゃないのか?」
彼の指摘にレコーは詰まる。
既に探索し尽くしていた、だからすべて見つけたものだと考えていた。
「それは・・・・」
「悪いんだけど、上へ戻る方法を教えてくれないか?俺は順調に階層をまわるだけのつもりだけで」
レコーは言い分を聞いて考える。
彼はアテナと共に1階層から順調にまわっていくといっていた。それはおかしい話だった。
七徳姫であるアテナは他の姫君の中で誰よりも塔攻略に意識を向けている人、そして誰かと関わることを拒む。
そんな彼女が迷宮攻略にきたということが信じられなかった。
だが、彼が嘘をいっているようにみえない。
――確かめる必要がある。
「あなたはこれからどうしたいの?」
「最初に戻る、階層が離れすぎたら危険だと訊いているからな」
「それから?」
「もう一度、迷宮探索をする」
「非効率すぎる」
レコーは告げる。
それは効率が悪すぎる。
「迷宮は探索されているエリアほど、良いアイテムや粗材は手に入らない・・・・最初に戻るよりも私と行動すればいい」
「いや、アテナが心配しているだろうから」
「仮にあなたの話が本当だとして、非効率なのはかわらない」
レコーは冷めた表情で相手を見る。
彼女の頭の中では話が全て本当だった場合とそうでない場合で構成していた。もし、本当だとしたらいずれアテナもこの階層にやってくるかもしれない、それなら本当だとわかる。仮に嘘だったら彼はすぐにでもここから立ち去ろうとするだろう。嘘がばれそうになるときほど、逃げようとする。
彼の反応をみればわかる。
レコーがうかがっていると彼は周囲を見てから。
「じゃあ、どうすればいい?」
決めあぐねているという態度にレコーは次の言葉を提案する。
「私と一緒に行動しましょう。ここのエネミーなら私でも対処できる。そうすれば目的のアイテム採取の効率が上がる、いずれ帰れることができると思うけど」
おそらく彼はこう考えているだろう、目の前の弓使いはこの階層に来ていることからかなりの実力を持っている。それならば、アイテムも手に入る、迷宮の入口へ戻れる。
後は彼が何というかだけ。
レコーが待っていると。
「悪いけれど、俺は足を引っ張ると思うぞ、それでも協力してくれるのか?」
「大丈夫、私の計算に間違いはない」
「は?」
「さ、あなたの戦闘スタイルを教えて」
▼
落ちた階層先で知り合った探求者の少女と共に俺は迷宮探索を続けていた。
1階層と比べると17階層のエネミーはとても強い。
目の前にいる人型のトカゲエネミーはショートソードを振り下ろす。
無骨の刃を籠手で受け流し、がら空きの胴体へアクティブスキルを放つ。
暗闇で輝くライトエフェクトにエネミーは仰け反った、技後硬直でうごけない俺に代わって後方から矢が飛来する。
普通の矢が額に突き刺さった。
悲鳴を上げて仰け反るエネミーに硬直が解けたところでスキルを打つ。
躱すことができず攻撃を受けたトカゲタイプのエネミーは粒子となって消滅する。
「私の計算通り」
消えたエネミーをみて、少女は小さく呟く。
手に入れた素材を見る。
今まで見たことがないからわからないけれど、ギルドホームに持ち帰って鑑定してもらう必要があるな。
素材を確認してから俺は後ろで弓を構えている少女を見た。
緑色の民族衣装を身にまとい、三つ網の髪をいじりながら周囲を見ている。
年齢は俺より下かもしれないが、彼女の実力はかなりのものだ。俺が戦っても彼女に勝つことは難しいだろう。
彼女はどこか計画染みた戦い方をしている。
最初に俺がどういう動きをして、次に彼女がサポートするという流れを一通り説明して、その流れ通りに動く。
予想外の動きが起きるかと警戒していたのだが、それらしきものがまるでない。
計算尽くされた動き。
それが彼女のスタイルなのだろうか。
疑問を抱きながら次のエネミーを探す。
「止まって」
先を歩こうとしたところで彼女に止められる。
少女は足元に札のようなものを張り付けた。
すると、札が輝き地面へ吸い込まれていく。
「何を、したんだ?」
「罠の探索、札が貼った先から数メートルの範囲内を調べる。罠があれば赤い光を発する。あのように」
指をさした先、小さな光の玉が浮き上がる。
言葉通りならあそこが罠なんだろう。
「どうすればいいんだ?」
「あのエリアは罠があるということをマッピングする。どんなトラップがあるのかは調査しない」
「何で?」
「最前線の迷宮区画はある程度の実力差ができるまで触らないのがセオリー、どんな危険があるのかわからないから」
そういって彼女は罠の区画から去ろうとする。
「お、おい、待てよ!」
「なに?先を急ぐんだけど」
「このトラップはどうするんだ?俺達の後にきた奴ひっかかるかもしれないだろ」
この罠の探知が事実なら後から来た人間がひっかかる可能性がある。そうなったら危険なのではないだろうか?
その人達もさることながら、先に進んでいる俺達も危なくなる。ここが危険だということを知らせておく必要がある。
「あなた、本当に素人なのね」
少女が俺へ冷たく言う。
どういう意味か尋ねるよりも前に少女は罠をさす。
「私達は目的があるから共に行動をしているけれど、本来の迷宮攻略は競争、多くの財を狙う探求者よりも先に最下層につかないといけない、だから足止めも必要になる」
彼女の言い分は間違っていないだろう。
迷宮はいわば宝の山、誰もが手にしたことのない財宝が眠っている。
それを得るために探求者は攻略を行う。一つでも多く手に入れようとするなら罠をそのままにしておけば、足止めの役割を持つ。
「そいつの命が危険になっても?」
それは財宝を狙う探求者だった場合、俺は今回素材を狙って迷宮攻略を行っているが命の危険につながる、それは見過ごせない。
「俺は命の危険につながるものを見て見ぬふりはできない。それが嫌ならアンタは先へ行ってくれ、トラップの解除をする」
「勝手にすればいい」
少女はそういうと暗い道を進んでいく。
一人残された俺は罠へゆっくりと向かう。
罠を解除する方法を訊いている。ただし、実践したことはない。
「さて、やってみるか」
塔攻略同じならトラップの解除方法は二通りある。
一つは魔法による解除、魔法適性を持つ者が術式を使うことによって罠を無効化させる。残りは
「漢による罠感知じゃああああああ!」
「それは無謀という」
罠の場所へ足を踏み入れようとしたところで後ろから蹴り飛ばされた。
頭から岩へ激突する。
「何するんだ!?」
当たり所が悪かったら出血ものだ。
文句を言おうと振り返ると弓を背負った少女がいる。
「って、お前」
「その方法は悪手、解除するならこれを使えばいい」
少女がポケットから漫画や小説ででてくるような人の形をした紙、そんなものが何になるのだろうかと思っていると、おもむろに紙を投げた。
ひらひらと揺れながら紙は罠の設置している場所へ落ちる。
――瞬間、
派手な音を立てて紙が落下した箇所に大量の針山ができあがった。
当然、落ちた紙は無残な姿になっている。
漢感知をしていたら俺の体は穴だらけになっていた。
「この身代わり術はかなりの力を使うからあまり利用したくない。今回だけ特別に使うけれど、次はないと思って」
「・・・・わかった」
「なら、次へ行きましょう。この階層はすべてマッピング終えたわ」
「わかった、なぁ」
先を歩く少女へ訪ねる。
「何で、戻ってきたんだ?」
「深い理由はないわ、強いて言うなら」
「なら?」
振り返り少女は小さく笑う。
その笑みは。
「まだ利用価値があると考えただけ」
年相応の女の子が浮かべるものとしては違和感がありすぎた。




