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奴隷解放団体ベルトルト


「迷宮ですか?」


「あぁ」


七草の宿の食堂、そこでアテナに話を持ちかける。


向かい合うように座っている彼女はシチューを一口味わってから思案する表情を浮かべた。


「急にどうして?」


「トラーから勧められた。拠点からさほど離れていないエリアにスピード系統のエネミーが出現するって、そこならいい防具も見つかるんじゃないかって」


「確かに迷宮は攻略されている所であっても高価なアイテムが稀に出現することがあります」


隣に寄り添うよう座っているレティアが同意する。前におかれている好物のお子様ランチはもう空だ。


「ボロボロのコートの代わりになるアイテムが見つかるんじゃないかと思うんだ」


「ありえる。でも、どこまで潜るの」


「どこまで?」


ごしゅじんさま、迷宮というのは場所によっていくつかの階層にわけられています。勿論、道も複雑でマッピングされていないエリアはかなりの危険に満ちている」


「迷宮の階層は25ある。塔と比べるとそこまで強くないエネミーだけど、危険ばかり油断は禁物」


「そっか」


「ですが、ご安心ください。私は迷宮攻略経験があります」


「私にもある」


「頼む、ここで張り合うのやめてくれ、まだ話の途中だから」


再び争いが勃発しようとした瞬間、止めに入る。


まだ本題に入っていないのだから。


「迷宮攻略は一日以上かかるのか?」


塔攻略の場合はさほど、時間は掛からなかった。というよりも体力温存、手に入れたアイテム鑑定、エネミーのステータス付与の危険から日が暮れる前に撤退していた。


だが、迷宮攻略はどのくらいなんだという疑問が浮き出る。


そこを確認しておかないと迷宮に費やす時間計算ができない。


「迷宮攻略は人によって異なる」


「どういう意味だ?」


「あそこは一言で済ますなら競争場所なのです、発掘されるアイテムはとんでもない金になるものがあります。未踏であるのなら尚更です。塔攻略と異なって手に入れやすいことからより多くの探求者がその場へ踏み入るのです」


「だから迷宮攻略をはじめたら中々、外に出る探求者がない」


 言い方は悪いが金銀財宝、宝の山が満載ということだろう。エセ神父の言葉通りなら一生遊んで暮らせるだけの金を手に入れるために潜り続けているということか


 自分勝手なヤツが多いかもしれない。


「争いが多いのか?」


「迷宮にも規則が設けられている。ただ、それを遵守しない人も」


「・・・・なんともいえない話だな」


 だが、迷宮攻略はメリットが多い。


 今の俺としてはスピード系のアイテム素材が必要、それを手に入れるため迷宮へいきたい。


「アテナ、数日ほど、時間あるか?」


「問題ない。すぐに空ける」


ごしゅじんさま、この女必要ありません。私は迷宮経験があります」


「確かにレティアの魔法があったら便利なんだけど・・・・あの団体がうるさいからあまり外に連れ出したくないんだよ」


「ならば、私が潰します。ごしゅじんさまの迷惑になるというなら暗示魔法で」


「やめろやめろ」


 物騒な言葉と黒いオーラを放つレティアを止める。


 本気で潰しかねない。


――いや、やるな。


 彼女と一緒に生活を始めて、少しもしないうちに理解させられた。


 敵対する者は容赦しない。徹底的に相手を倒す、そこに慈悲はない。だから、俺の目が届く範囲で危険なことはさせないようにしよう。


「そういうこと、だから、貴方はこの宿で大人しくしている」


「黙っていてください、胸なし女」


「貴方と比べるとないかもしれない、でも、このサイズがナオヤにとってお手ごろ」


「そんなことはありません、ごしゅじんさまは巨乳好きです。貴方の胸は趣味の悪い人間だけが集めます」


 話している横でアテナと喧嘩を始めた。


 止めるところなんだが疲れたから何もしない。


「とにかく、アテナには悪いけれど、迷宮攻略を手伝ってくれ」


「任せて」


「主≪ごしゅじんさま≫!?」


「今度はレティアにもついてきてもらうから」


「絶対ですよ!次があるなら私を絶対に使ってください。主≪ごしゅじんさま≫の奴隷として存分に力を使います!」


 向こうも問題だけれど、公然と奴隷、奴隷といいまくるレティアも悪いかもしれない。










 翌日、装備一式を整えた俺は最後までついてくるレティアに戻ってきたら好きなだけ相手をするという約束をとりつけられた。


 厄介くささを感じつつも了承する。


 俺は愛用しているコートを羽織り街中へ出る。まだ数か月程度しか着用していないのに何年も使用しているような感覚を覚えた。


 愛着があるものを手放すことに抵抗を感じる。それは昔からあったことだ、愛用していた手袋、靴、鉛筆など失うことに酷く嫌がったことを覚えている。


 だから、新しいアイテムを探すということにほんの少し抵抗を感じている部分があった。


「見つけたぞ!極悪人!」


 考えながら歩いていた俺は横切る。


「おい、こら!」


 慌てて俺の前に立つがそれも無視だ。


「まちたまえ!」


 我慢できなくなったのか俺の腕をつかんで無理やり動きを止めさせられた。


 思考を中断して前の相手を見る。


 整った顔立ち、流れる金髪、民族衣装のようなローブで体をすっぽりと覆って細見の体を隠している。傍から見ればイケメンだと誰もが思うだろう。だが、彼の態度や行っていることをすれば誰もが考える。


――あぁ、面倒な奴がきた。


 はっきりと表情に出る。


 ベルトルト・ハウンデルハイネ。


 自称、貴族であり奴隷解放を謳う団体の筆頭を務めている。そして、常に人を見下した大度をとる。


「ようやくこちらをみたな、下郎」


「・・・・」


 見下した態度に文句を言いたいが、それでもめごとに発展したことを教訓に沈黙する。


 俺の態度に余計、増長したように手を広げた。


「そういうわけだからキミが捕えている奴隷を解放したまえ」


「何度も言ったが解放するつもりはない」


「フン!貴様の言い分など聞くつもりはない、すぐに解放しろと我々はいっているのだ」


 少し前からこの拠点に奴隷解放を掲げる団体として彼らはやってきた。


 元々、この拠点に奴隷が少ないということからすぐに立ち去るだろうと考えられていた・・しかし、何事にも例外はある。


 ギルドホームに俺とレティアが共に入った時だ、彼女に“一目ぼれ”したといって告白してきた。


 その時にレティアは爆弾を投下した。


――私は主の奴隷です。その気持ちは受け取りません、受け取りたくありません。


 一刀のもとに切り伏せた。


 それからというものの、俺の周りに姿を見せるようになった。元々、奴隷解放を謳う集団に属していたことから彼女を解放させるという使命感にかられて、毎日のように姿を見せている。


 前回は、彼の取り巻きと呼べるような連中が現れ乱闘の一歩手前、という状況に陥ったことは記憶に新しい。その騒動でコートがずたずたになってしまった。


「話にならない、俺はやることがあるからこれで失礼する」


「ま、待て」


 回り込もうとした足を蹴り飛ばす。


 バランスを崩して盛大に地面へ倒れ伏した。


 少し罪悪感を覚えつつも絡まれるのも面倒なので待ち合わせ前の扉≪ゲート≫へ歩を向かわせる。


 厄介な連中ばかりで、本当に嫌になる。


 そんな気持ちを抱えながら急ぎ足でアテナのもとへ向かう。


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