探求者
神父は説明を終えると俺達を追い出した。
何でも神への祈りをはじめる時間だとの事、あの胡散臭さ満載でどんな祈りをするというのだろう。
これからどうしょうかという所で、沈黙を貫いていた少女が俺の手を引いて歩き出した。
「移動する」
「移動って、どこに」
「話が出来るところ、色々と説明しないと」
「なぁ、待ってくれよ」
教会を出たところで三人が俺達を追いかけてくる。
いや、違う。
こいつらがみているのは俺じゃない。
「アンタ、俺達より探求者歴長いんだろ?色々とレクチャーしてくれよ」
「そうですね。僕達は右も左もわからない状況なんです、基礎だけでもいいので色々と」
「それならギルドへいけばいい。あそこなら初心者の指導をしっかりしている」
「いや、ここで会ったのも何かの縁なわけだしさ。色々と」
「忙しい」
チャライ奴と爽やかな青年君の提案を少女はばっさばっさ切り捨てていく。
こいつらは俺の隣に居る少女から色々な情報を得ようと考えていた。
俺より年下の彼は様子を伺うようにじっと見ているだけで口を挟まない。
隣にいる俺は沈黙を貫いている。ここで割り込んだら厄介なことになるのは目に見えていた。
情報を欲しいというのと美人とお近づきになりたいというところが本音だろうな。
無口?な少女は百人が百人振り返るほど絶世の美少女だ。神父の説明の間も彼女へ視線が向けられていた。
今回を逃したら近づける口実がなくなるから、ここで抑えておきたいってところなんだろうなぁ。
なんというか。
「下種いなぁ」
「アァ?」
ぽつりと呟いた言葉にチャライ奴が視線を向ける。
「お前、いま、なんつった」
「・・・・べ、別に」
慌てて視線を逸らす。
よくない癖が出てしまった。
混乱、腹立たしい時、俺は敵を刺激する言葉を吐いてしまう。
いきなりわけのわからない世界に飛ばされて混乱していたんだろう。
少し考えてから。
「そうだ!俺は用事を思い出したからこれで失礼します!」
この連中から少しでも良いから遠ざかろう。
少女から離れれば、俺が巻き込まれる心配はなくなるんだから。
「待って」
ちょっとぉぉぉぉぉ!
離れようとしたところで、チャライの爽やか君を押しのけて少女が追いかけてくる。
人が離れようとしているのに何で根源が近づいてくるのさ!
二人が後ろで何か騒いでいるのを無視して、近づいてきた。
「な、何でしょうか?」
「まだ説明が終わっていない」
「いや、あの二人が呼んでいるよ?」
「・・・・興味ない、貴方へ説明することが優先」
二人の誘いを一蹴する言葉を放った。
あぁ~、終わった。
多分、いろんな意味で終わった。
「そうですね、よくよく考えたら貴方はこの世界について何も知らない状況でした。これは失礼しました。私のアドレスです。後で連絡ください」
「・・・・うん」
爽やか君はあっさりと身を引いた。ただし、自分のアドレスを差し出している。
抜かりない。
不良の奴はというと。
「おい」
はいぃ!こっちに絡んできた。
「てめぇ、何調子のってんだよ」
滅茶苦茶だぁ。
「あんまふざけた態度とっているとぶっ飛ばすぞ」
拳を握り、チャライ君が叫ぶ。
「行く」
チャライ君を押しのけて彼女が俺の腕を掴んで歩いていく。
「お、おい、あいつら残していいのかよ?」
「彼らが居ては話が出来ない」
「そうだけれど・・・・」
「・・・・それに、彼らは色々と知っているようだから説明は不要」
そういえば、あの神父から説明を受けている時もどこか知っているみたい素振り見せていたな。
「私の優先することは貴方に状況説明すること」
「だったら早くしてくれよ」
「ここでは面倒。宿へ向かう」
「はっ?」
「宿へ向かう、さ、行く」
あ~れ~。
「ここが七草の宿、私が生活している場所でもある」
「さいでっか、んで?説明なんだけど」
「貴方にはこの宿で生活してもらう。大丈夫、宿代は安定するまで払うから」
「待てぃ!変な方向になっているぞ!」
宿の扉に手を伸ばしている彼女を止める。
説明するといいながらなんで、宿に住む話になっているんだ。
「てか、いい加減に自己紹介しろよ!」
「・・・・自己紹介、していなかった?」
「そうだよ!」
「これはうっかり」
ポン、と拳を頭に当ててペロと舌をだす。
可愛いなぁ、こん畜生!
「アテナ」
「・・・・アテナさん」
「さん付けはいらない。呼び捨てでいい」
「あっそ、それでアテナ。いい加減、この世界について説明をして欲しい」
「私はナオヤって呼ぶから」
「人の話を聞けよぉぉおおおおお!」
どこまでもマイペースな彼女に俺は脱力する。
そんな俺を見ながらアテナはぽつりと呟く。
「探求者はここから少し先にあるギルドホームで登録することでなることができる。ただし、なるためには簡単な試験を受けないといけない。試験に合格すれば探求者認証が発行されて、探求者になれる」
「それで、探求者の目的って?神父の話だとこの世界からもとの世界に帰るためとかいっていたけど」
「この世界、赤い空だから、赤の世界と呼んでいるけれど。この世界からもとの世界へ帰る方法は見つかっていない。それと、許可なしに拠点の外に出る事は出来ない」
「どうして?」
「外にはエネミー、赤いスライムなどのモンスターのほかに上位種と呼ばれる厄介なものがうろついている。故に、拠点から外に出る為には許可証を発行する必要があるの」
唯一の例外が探求者だ。
彼らは外へ様々な捜索や依頼を請け負うことから拠点の外に出ることに許可証が要らない。
「元の世界へ帰るためには探求者になるのが一番の近道だってことなんだな?」
「そう」
「じゃあ、この世界について説明してくれよ」
「・・・・私も、詳しいことはわかっていない」
「おい!?」
「ここがどういった世界で、何なのかは誰もわかっていない。みんなが理解しているのはここが赤の世界、外には大量のエネミーと呼ばれる怪物が徘徊し、唯一、拠点と呼ばれている場所は襲撃を受けない、あと、人間以外の種族も生活している」
それしか、わかっていない、とアテナは告げる。
正直、異世界に飛ばされて帰れないという展開に泣き叫びたい。
けれど、それをアテナの前でするのは何かおかしい気がした。
「結局のところ、こんなわけのわからない所で生活するためには探求者になるしかないのか」
「・・・・そう」
「じゃあ、ギルドホームとかいうところに行きますか」
手を叩いて立ち上がる。
「・・・・今から、行くの?」
「何か、不味いのか」
「今日は、もうやっていない」
「・・・・オップ」
驚きの余りゲップがでたぜ。