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全てを捧げる奴隷



 この後、救助隊によって俺とレティアは拠点へ戻ることが出来た。


 一応、事情聴取という形で何日か拘束はされたがそれだけで終わる。残念といえば中伝が手に入らなかったということだろう。


 元々、それが目的で今回のクエストに入ったわけだ。


 それからもう一個、問題がある。


 俺はある男と対峙していた。


「そんなに硬くなる必要は無い」


「悪いが俺のスタイルはこんなものだ」


 相手に失礼な態度だが、今回ばかりは少し警戒する必要があった。


「そういえば、面と向かって会話をするのは今回がはじめてだったな。改めて自己紹介をしよう。私はギルドホーム長のアイオリスだ」


「ナオヤ、一介の探求者だ」


 向こうが挨拶をしたのなら自分もしよう。


 こんな世界だが、当たり前のルールくらいは守ろうと思う、向こうがそういう態度ならば・・・・が前置きにつく。


「今回呼んだ件についてだが、すまなかったね。まさか犯罪組織がクエストの案件に絡んでいるとは、こちらの調査不足だ」


 そういってアイオリスは頭を下げる。


 トップが軽々と頭を下げるのは問題になるが今回は仕方のないところだろう。


 俺はそれを大人しく受け取ることにした。


「一応、私からも確認として聞かせてもらえるが犯罪組織の名前などは聞いていないんだね?」


「残念ながら、連中は自分達のことを組織としかいっていなかった。後、二人組みのララとルル・・・・偽名だろうが、魔導師と魔法と剣を操る二人はかなりの強さを持っている」


「なるほど、一応、各ギルドへ通達を出しておこう」


 書類の山に新たな一ページが加わるんだろうな。


 彼の後ろの書類を見て、ふとそんなことを考えた。


 他人の心配している場合じゃないか。


「それだけで、俺を呼んだのか?」


「もう一つ、確認したいことがある」


 視線が鋭利さを増す。


 さらに鋭く。


 相対しているだけで全身が震え上がりそうになる。


「キミの奴隷についてだ」


「・・・・俺は、奴隷なんてもったつもりはないね」


 カチン、と俺はアイオリスの物言いに少し反論する。


 確かにステータス的にレティアは奴隷なのかもしれない。だが、俺としてはそんな意識を持っていない。彼女は・・・・。


「それで、レティアが何だ?寄越せとでもいうか?」


「残念ながらギルドホームに強制的な権利はない、犯罪的な理由がない限り・・・・はね」


「アンタは俺が罪を犯して、レティアを奴隷にしたと考えているのか?」


「ソレは違う。私が言いたいのはあの子を奴隷としてそのままにして欲しいということだよ」


 目を細める。


 奴隷のままにしておく、どういうことだ?


「本来、奴隷とは罪をかした者が受ける制度だ」


「レティアは犯罪者だと?」


「どうだろうね。調べてみないことにはわからないよ。だから、奴隷を解放するのはしばらく時間を置くということを伝えておきたくてね」


 ところどころはぐらかしているがギルドホーム長は何かを隠している。


 それを追求する、ことは危険だな。


 目の前の相手の実力もわからないことは不用意に攻め込むべきではない。

そう判断して俺は立ち上がる。


「話がそれだけなら、失礼していいか、アイテムの鑑定などを頼まないといけないからな」


「そうだね。時間を潰して悪かったね」


「いいさ、御偉い人とは一度話をしておきたかった」


 嘘は言っていない。


 扉から去ろうとして俺は動きを止める。


「そういえば、今回の報酬はどうなるんだ?」


「こちらの調査不足もあったからね、賠償というわけではないけれど、金と欲しているものを用意してみよう」


「中伝」


「・・・・キミ、欲張りだろ?」


「どうかな」


 欲しいものをいって俺は扉を閉めた。


 階下につくと黒衣を纏ったレティアが出迎える。


ごしゅじんさま


「待ったか?」


「いえ、ごしゅじんさまの為なら何時間でも待てますわ」


「何か、重たいな」


「迷惑ですか?」


「いや」横に振って俺は苦笑する。


 レティアが犯罪者かどうかなんてどうでもいい。


 今は強くなる。そしていつか、元の世界に帰る。


 “その時”になったら彼女のことを考えよう。


 楽観的かもしれないが、俺はとりあえずレティアの面倒をみる。それが彼女と結んでしまった契約・・・・かな。







 契約を結んだことを早速後悔することになるとは思わなかった。


――七草の宿の一室。


「レティア」


「はい」


「一つ、訊きたいことがある」


「なんなりと」


「どうして俺のベッド、隣に腰掛けている?」


 レティアは纏っていた黒衣ではなく、ネグリジェを纏っている。


 薄着のため、服に隠れていた部分が覗いているばかりか肌と肌が触れ合う距離に心臓がドギマギ響く。


ごしゅじんさまと床を共にするためですわ」


 質問に小さく首をかしげて頷いた。


 その仕草もみるものを虜にさせてしまうだろう。


 生憎、そういう考えをする余裕がない。


「隣のベッドがあるだろ」


「いや・・・・ですか?」


 瞳を潤ませて見上げてくる。


 過去にこの攻撃に俺は敗北をした。だがしかし、今回はそうなりえない。


 俺も成長をしている。


「悪いが、隣のベッドに」


「アァ、欝だ死のう」


「・・・・」


 拒否の返事に対して、レティアは俯く。


 ぶつぶつと何かを呟き始めた彼女の周りに負のオーラが漂う。


 嫌な予感がした俺はすぐに解決策を見出す。


「わかった、今回は許そう。だが、次からは隣のベッドで」


「嬉しいです。ごしゅじんさま


 俯いていた顔を輝かせてレティアは抱きついてくる。


 胸部の柔らかい感触に顔が真っ赤になる。


 そのままベッドに倒れこもうとしたところでさらなる乱入者が姿を見せた。


「一緒に寝る」


「アテナ」


 最悪なタイミングというのはまさにこのことだろう。


 俺はこれから起こる展開次第ではやむなしという覚悟を。


「私も寝る」


「残念ですが」


 空いている空間に割り込もうとしたアテナをレティアが遮る。


「この寝具は二人で限界なのです。もし、こちらで睡眠をとられるというのであれば、申し訳ありませんがこちらのベッドで」


「問題ない、三人で寝ても壊れない」


 どこにそんな根拠があるのだろう。


 疑惑の視線を向けられてもアテナの表情に変化はない。


 もしかして、本当の話?


 困惑している俺の横で二人の話し合いは続く。


「申し訳ありませんが、ごしゅじんさまは長旅の疲れが堪っております。癒す役目は下僕パートナーである私の役目」


「そんなことは知らない。私は彼を手助けしてきた、癒しが必要だというのなら七徳姫であり、彼の相棒パートナーたる私の役目だ」


 なにやら勝手にヒートアップしている二人、申し訳ないんだけれど、パートナーと認めた覚えはない。


「そもそも貴方はごしゅじんさまとどういった関係ですか?」


「貴方こそ、彼とどういった」


「私は奴隷です。そしてごしゅじんさまは仕えるべき方です。だから一緒に居る」


「それなら私は彼と共に戦いを潜り抜けた。いわば戦友、一緒にいて当たり前」


「私は奴隷ですが共に戦い続けました。いるべきです」


「だったら」


「ならば、ごしゅじんさまに決めてもらいましょう!」


「そうね。彼に決めてもらいます。ナオヤ・・・・」


 二人が振り返るとナオヤはベッドに眠っていた。


 疲れていたのだろう、二人の騒ぎで目を覚ます様子が無い。


「「・・・・」」


 左右にナオヤのベッドに横になった。


 翌朝、悲鳴を上げたのはいうまでもない。








――私はみつけた。


 眠るごしゅじんさまの腕に抱きつきながら歓喜に震える。


 今までの人生を振り返って、良い事といえたものは無い。


 私はダークエルフ。


 森で生活をするライトエルフと異なり、放浪する民。一定の土地に住み着かず、流れる一族。放浪するその理由をあげるなら“暗黒魔法”だ。


 暗黒魔法の特徴を挙げるとするなら“犠牲一つで最大の技”を発動させること。


 過去にダークエルフは森を犠牲にして魔法を使った。そのため、妖精族、エルフなど同じ境遇の仲間から嫌悪されている。強大な魔法を使えるがために嫌悪される、悪意を向けられる。


 望まぬ悪意はどこまでも私に付き纏う。救いなど決してない。どこへいっても拒絶され、魔法の力を求めて狙われる。


 生きることへうんざりしていたときにごしゅじんさまと出会う。


 ごしゅじんさまは望まぬ悪意を向けられていた私に手を差し伸べてくれた。私の正体を知らなかったというのもあったのだろう。嫌悪をみせるどころか好意や温もりをくれた。


 あの二人組みに襲われたときも私のために体を張ってくれた。


 嬉しかった。


 生きて良いとごしゅじんさまは私を認めてくれた気がしたんだ。私は見つけたのだ。


 未来さきを生きるに値する、必要だと思ってくれる人に。


 この人のためなら私は何でもしよう。


 奴隷つながりがある限り私はこの人のためにすべてを捧げよう。ごしゅじんさまに敵対する者を全て排除しよう。


 だから、


 だからごしゅじんさま。


 私をいつまでも傍においてください。


 貴方のために全てを、レティアは捧げます。

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