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死滅する森

 異変に気づいたのはララだった。


「(魔力の流れ・・・・かなり大きい)」


 ルルは前衛として、ララは後衛の魔導師として戦う。


 魔導師は魔法を使うことが当然ながら相手が魔法の使用体勢に入ればそれを察知することにも長けている。


 故に、強大な魔力が流れに敏感だ。


 目の前の男はナオヤをいたぶることで気づいていなかった。


 死が目の前に迫っていたことに。


「私のごしゅじんさまに何をしているのかしら?」


「は・・・・」


 男が振り返るとそこに立っていたのは妖艶な少女だった。


 いや、少女から女性へ変わる一歩手前というところだろう。腰まで伸びる漆黒の髪は光に反射して輝きを放ち、褐色の肌や大きな双胸を包む漆黒の服がより女性らしさを引き立てている。


 だが、ララだけは気づいていた。


 妖艶な女が放つ魔力、それは今の自分よりも膨大で強力であるということ。


「誰だか知んないけど、邪魔するなら」


「この銃で撃つのかしら?」


「は」


 男は間抜けな声を漏らす。


 手の中にいつの間にか男が持っていた銃が握られている。


「てめっ、いつの間」


「なるほど、これをこうして使うわけね」


 銃口を男へ向ける。


 黒い輝きを放つ拳銃の弾丸は最初に使用した一発を除いて装填されていた。


 命を奪いとる武器を向けられているのに男は平然としている。


「おい、遊ぶのもほどほどにしとけよ。お前なんかが」


 続けて言葉は出ない。


ーー銃声。


 ゴボリと口から血を吐き出して倒れる。


「うわっ、音が大きいし反動も凄まじい。慣れるまで時間掛かる・・魔法使うよりかは」


 ぶつぶついいながら拳銃を懐に仕舞いこむ。


「・・・・」


 男に背を向けて倒れているナオヤの所に近づく。


 血まみれのナオヤは辛うじて生きていた。


 彼女は未だに血が流れている胸へ手を伸ばす。


 掌で心臓を掴みながらレティアは口から呪文を紡ぐ。


 流れる言葉は人間の耳で聞き取ることは出来ない。それはダークエルフのみしか使うことを許されない魔法。


「これは・・・・暗黒魔法」


 人間では使うことはできないとされている最大にして最悪の禁忌魔法の一つ。


 それは不可能とされていることも可能にできる。その代償として。


「・・・・森が死んでいく」


 ナオヤとレティアを中心にして周囲の緑が色を失う。


 生い茂っていた果実、葉、長い年月を誇っていた樹木、輝きを放っている川の水もすべての色が消える。


 すべてがナオヤへ渡っていく。


 空いていた穴が塞がる。


 ララは隙をついて逃げた。


 入れ替わるようにして光る球体達がやってくる。


 森の死滅を察知した妖精達だ。


「アンタの仕業ね!」


 リリューを筆頭に妖精達が集ってくる。


 彼らは怒っていた。


 ようやく得た安らぎの空間、大切な森がいきなり奪われる。


 何度も奪われ続けていることで彼らは怒り、略奪者を許さない。


 怒気を纏った妖精達に囲まれている、だというのにレティアは見向きせず、意識を失っているナオヤを見つめている。


 相手にされていないことにリリューは激怒した。


「アンタ達!この森を殺したわね!許さない、許さないわよ、特にそこの人間!アンタからは同族なかまの気配を感じるわ!妖精を殺して糧としたわね!その体をずたずたにして、罰を受けてもらうわ」


 本来なら妖精族は争いを好まない。だが、度重なる襲撃、略奪を受けたことで彼らの中から温厚、争わないという選択肢は消え去っていた。


 故に彼女達は見誤った。


 怒りで彼らの危機管理能力はゼロに等しい。


「・・・・ずたずたにする?」


 だから、怒らせてはいけない相手が誰なのかに気づかなかった。


「貴方達、私のごしゅじんさまを傷つけるつもりかしら?」


 妖精達に目もくれなかったレティアが立つ。


 立つという動作をとっただけなのに彼女達は震え上がる。


「もう一度言ってもらえるかしら?貴方達、私のごしゅじんさまを傷つけようとしている。それならば」


 レティアは地面に突き刺さっている剣に気づく。


 ルルが使っていたものだ。どうやらララは回収しなかったようだ。


 刺さっていた剣を抜いて、情報を見る。







呪剣エクスクラメイテッド。


属性:炎。


武器:片手直剣。


内容:呪竜メテオドラゴンの牙、鱗、血によって鍛え上げられた剣。

   メテオドラゴンの特性である炎を操る力が継承されており、炎系統の魔法と組み合わせて力を使うことが出来る。

   殺された時の怨念が込められており使用者は強大な力を得る代償に理性を失う。

   






「へぇ、中々、面白い力を持っているわね。これは使えるわ」


 レティアは突き刺さっている呪剣を抜く。


 その途端、理性を失いかねない膨大な狂気が彼女を蝕む。


ーー憎い、ニクイ、憎イ、にくイ、ニクい、憎い、ニクイ、憎イ、にくイ、ニクい、憎い、ニクイ、憎イ、にくイ、ニクい、憎い、ニクイ、憎イ、にくイ、ニクい、憎い、ニクイ、憎イ、にくイ、ニクい、憎い、ニクイ、憎イ、にくイ、ニクい、憎い、ニクイ、憎イ、にくイ、ニクい、


「そう、でも、こんなの無駄よ」


 常人なら狂っていただろう大量の呪詛、レティアに通用しない。


ごしゅじんさまの為なら私は何だってするわ。この呪い程度、操れて当たり前」


 笑いながら彼女は剣を振るう。


 それだけで流れ込んでいた呪詛は消え去る。


 妖精達にとっては数秒の出来事だろう。


 レティアは呪剣を片手にゆっくりと妖精達へ歩み寄る。


 それだけのことに彼女達は恐怖した。


 歩くだけなのに五回も殺される。そんな光景が妖精達の精神を蝕んでいく。


「どうしたのかしら?私のごしゅじんさまを殺そうとしておいて、この程度で済むと思っていたのかしら?甘いわよ。全員皆殺しにしてやるわ」


 呪剣が炎を纏う。


 妖精達はじりじりと距離をつめられる。


「本当はじわじわと殺してやりたいところだけど、ごしゅじんさまが目を覚ましかねないから、一撃で終わらせてあげるわ」


――私は慈悲深いから。


 残酷な言葉を最後に聞いて妖精達はその身に狂刃を受けた。


 生き残った者達は、いない。










 目を覚ますと視界一杯に美人の顔があった。


「うわぁぉぁ!?」


 今まで天井を見ることはあったが女性の顔は無かったから驚きの顔で離れようとするところで抱擁を受ける。


ごしゅじんさま


「ご、ごしゅじん!?」


 少女の言葉に目を白黒する。


 俺のことか!?


 ご主人様なんていわれるような相手なんか・・・・。


「もしかして、レティアか?」


 表示されたステータスに俺はぽつりと呟く。


 レティア、あの五歳から九歳くらいの女の子がなにをすれば、こんな美少女へ変貌するんだろうか。


「やはりごしゅじんさまは私だとおわかりになられるのですね」


「へ?」


「今までの姿は魔法をかけられ、この姿が本来のものです」


「ほぉ」


 魔法っていうのは凄いな。


 つくづく使えないことが残念で仕方ない。


 体を起こして周りを見る。


「どこだ、ここ」


「忌避地帯の森から少し離れたところにあるオアシスです」


 意識を失う直前の記憶が混濁していてはっきりできない。


 何か、


ごしゅじんさま


 考えようとしたところでレティアに抱きしめられる。


 人の温もりが伝わって、思考が麻痺した。


「私は貴方に言いたいことがあります」


 顔を上げるとレティアと目が合う。


 彼女の目から離れることが出来ない。


 吸い込まれるように視ているとゆっくりと口が動く。


「私の命は貴方に差し上げます。貴方の命令に忠実、望みをかなえる為に私は人生すべてを捧げます。だから」


 震えている言葉を俺は止める。


 何かを言おうとしたところで人の気配を感じた。


 レティアを守るように立ち上がる。


 激痛が全身を駆け巡りながらも籠手を構えた。


「・・・・ナオヤ」


 ガサリ、と音がして、そこから姿を見せたのは――。


「アテナ!?」


 いつもの騎士甲冑、光り輝く剣を携えた彼女の姿に不思議と安心感を覚えた。


 俺はペタン、と地面に座り込む。


「ナオヤ?」


「あ、悪い・・・・色々あって疲れちまった。それよりも、何でアテナがここに」


「救助隊」


「何の?」


「貴方の」


 相変わらず、言葉が足りないというか少ないのか、要領を得ないなぁ。


「貴方達の団体が行方不明になったという報告を受けたギルドホームからの緊急クエストを私は受諾した。その救助隊の先行部隊として、やってきた」


 俺の目線でわからないと気づいてくれたんだろう。


 アテナが補足説明をしてくれた。


 最初からそういってくれたら苦労なかったんだけどなぁ。


「ところで、私から質問がある」


「なんだ?」


 アテナの真剣な様子から察するに今までの状況を知りたいとかそんなところだろう。


 だが、なんて説明をすればいいんだ。


 細かいことは俺もわかっていない。


 考えていたところでアテナが指す。


「そこの女は何?」


「・・・・」


 さっきまでの真剣な空気が霧散する。


 なんだろう、真面目に考えた俺が道化に思えた。





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