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少女と刻印


「ダメだ、どうしてこんなことになったのかわからない」


 今までの記憶を思い返してみたけれど、困ったことにどうしてこんなことに至ったのか答えが出てこない。


 後ろでは座り込んでじーっと空を見ている褐色の肌の女の子。


 漆黒の髪、小柄ながらに整った顔立ち、年齢は五歳から八歳の間くらい、黄色の瞳は怯えた表情でこちらを見上げていた。


 成長したら間違いなく美人の部類に入る子どもの鎖骨から胸元にかけて伸びている銀色のルーン文字、


 よくよく考えたらこの子裸じゃないか!


 アイテムカードから服を取り出す。


 取り出した服をきょとんとしている子の上にかぶせる。


「そのままだと風邪を引くからな、これを着てくれ」


「・・・・?」


 上から着せられた服を見て女の子は不思議そうに首を傾げる。


 いや、首を傾げられても。


「服、着れないのか?」


 再び首を傾げられる。どうやら本当にわからないようだ。


 俺は彼女を立たせてシャツの袖を通し、ボタンをつけていく。


 不思議そうこちらを見ている少女に服を着せていく上で嫌に目に入るのは胸元にある銀色の刻印。


 うっかりと指先が刻印に触れた。


――奴隷へ罰を与えますか? Yes/No――


「・・・・は?」


 表示された内容に目を丸くする。


――奴隷、罰?


 項目に首をかしげていると目の前の少女の体が震えている事に気づく。


 さっきまでボーッとしていた表情だったのが一変して恐怖の表情で凍り付いている。


 もしかして、これか?


 俺は表示されている項目のNoをタッチする。


 その途端、少女は安心したように震えが止まった。


 俺は刻印を隠すようにボタンを閉める。


 どうやらこの刻印は彼女にとって恐怖の対象になるようだ。推察しながら俺は調べる。


 森林ばかり、空は赤いからまだ昼過ぎか夕方くらいだろう。


 マップは落ちた位置がわからないことから予想不可。


 食糧は、


「そういえば、馬車に荷物があるよな。あの中に食材とかが」


 落下した荷馬車に変なものがたかっていた。


 ふよふよと光り輝く球体、


 それらがいくつも集って馬車を取り囲んでいる。


「なんだ、あれ」


 目の前の物体へ近づくべきか悩んでいると会話が聞こえてくる。どうやらあの球体は知性があるようだ。


「どぉしてこんなところに人間がいるのよ!」


 球体の一つが近づいてきたと思うと叫んだ。


「人間はこの神聖な森に立ち入ってはいけないのよ!出て行きなさい!そこにいる穢れたダークエルフも同様よ!」


 開口一番、光る物体は俺に罵倒してきた。


 いきなりのことに面食らう。


「神聖な森?嘆きの森っていわれているここがか?」


「それはあんた達人間が勝手につけた名前、私達のいるこの森は神聖よ」


「へぇ、どんな名前なんだよ?」


「人間なんかに教えるわけ無いじゃない!森が穢れるわ!」


「リリュー、それは流石に失礼だよ」


「黙っていなさい!失礼ならね、この人間の方が失礼よ!礼儀がなっていないわ、神聖な土地を汚すおそれがある」


 別の光が意見するが彼女?は一蹴する。


 否定的な物言いに流石の俺も文句が口から出る。


「神聖だ、とか偉そうにいっているけれど、そこにいる奴らのせいで品位駄々下がりだろうな」


「な、なんですってぇ!」


 ふよふよと浮かぶ飛行物体から怒りの感情が飛んで来る。


「ところで出口ってどこだよ。出て行きたいんだけどさぁ道がわからないんだ」


 怒りでぶるぶると光が震えている。


 内心、面白いと思っているがこれ以上刺激すれば危ないな。


 向こうが道を指示するまで待つ。


 しばらくするとふよふよと浮かぶ光がある道を指す。


「この先を真っ直ぐにいきなさい。そうすれば帰れるわよ」


「わかった」


 俺が歩き始めると後ろの少女も付いてくる。



 背後から攻撃されるんじゃないかと考えたが人間を嫌悪している連中のことだ、この地を汚したくないから危険なことはしないだろう。


――とにかく離れよう。


 彼らから少しでも遠ざかることを俺は選択した。













「リリュー、彼らは」


「アイツのところへ誘導したわ」


「そんな!?」


 ナオヤが去った後、光る球体の二つが話し合う。


 もし、前衛、拳で戦うタイプではなく。後衛、魔法を使っている人間なら気づいたかもしれない。光の中で羽を生やした小人のような生き物がいる。


 少女のような妖精の言葉に少年の妖精が叫ぶ。


「狂ったアイツならあの人間と穢れたダークエルフを殺すでしょうね」


「森を汚す行為だよ、アレだって元々は森の守護するものであって」


「同じよ!」


 少年の妖精に否定の言葉を放つ。


「この森はアレのせいで年々、穢れの一途を辿っているわ!どうせなら人間の味を覚えて出て行くはず」


「そんな・・・・酷すぎる」


「森が穢れる方が最悪よ!」


 リリューの発言に少年の妖精は顔をゆがめる。


「だからって、無関係な人間を巻き込む必要ないじゃないかあのダークエルフの少女だって」


「ダークエルフは闇の魔法を使うのよ!いくつの森を滅ぼしたか忘れたわけじゃないでしょ!?」


「でも、あの子が」


 妖精たちは元々、この森に住んでいたというわけではない。


 赤の世界、それこそ塔攻略がはじまる前の時代から妖精たちはこの世界に存在していた。


 長い時間、のんびりと思うがままに生活していく。


 そんな刻は消え去った。


 妖精たちは次々と住処を奪われ、今はこの森でしか生きていけない。故に彼女が人間やダークエルフを嫌うのは仕方が無いこと、それを理解している少年妖精、だが。


「納得できないよ」


「あ、こら!テトラ!」


 リリューの叫び声を無視して少年妖精テトラは彼らが消え去った森へ向かう。


「アンタも穢れたって知らないんだからねぇ!」





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