タイタンズアタック
クエストの集合場所へ向かうとそこには数台の荷馬車と商人らしき姿がある。
荷馬車へ物を運んでいる人の横を通りながら代表を探す。
「すいません」
指示を飛ばしている商人風の姿の男へ近づく。
「ギルドからの指示で護衛につきます。ナオヤといいます」
ステータスカードを提示してクエスト内容を見せる。
すると親指を先頭の馬車で話し込んでいる男へ指す。
ようはアイツに話をつけろということだろう。
面倒だなと思いながら俺は近づく。
男は気づくと笑みを浮かべる。
「探求者の方ですか?」
「今回の依頼を引き受けたナオヤといいます」
ステータスカードを見せる。
「これはありがとうございます。私はこの商人たちの代表のダイゴロウと申します」
恰幅のあるお腹を揺らしながら手を差し出す。
その手を握る。少し汗でねちゃねちゃしていたが我慢しよう。
「配置などは決めているのですか?」
「その件についてですが、他の探求者の方たちが訪れたら話をしようと思っていますので、しばらく休んでいてもらえますか?」
既に来ている方もおられますのでと促されて俺は仮設された待機所へ足を向ける。
中に入ると小柄な少女二人が待っていた。
「他の人たちが来たの?」
「お呼び出し?(きょとん)」
赤色、青色のローブを着た少女達は俺をダイゴロウが呼び出した人間だと考えているようだ。
「残念ながら違う」
ステータスカードを提示することで自分も探求者であると表す。
「貴方もシーカーなのね!」
「お仲間?(ぱちくり)」
「ナオヤだ、よろしく」
向かい合う形で俺は二人の前に座る。
年齢は俺より少し下、中学生くらいだろうか。片方が赤い服にショートカットで活発そうな目でこちらをみており、もう一人は青い服でぼんやりと眠たそうな目、なによりも二人とも双子なのだろうか微々たる違いはあるが同じ顔立ち、首元にあるスカーフがお揃いだった。
「私はルルだよ!」
「ララです」
「ねぇ、ナオヤってシーカーなのよね!何年やっているの?」
「残念ながら、探求者になって一ヶ月にも満たないよ」
「そうなの~、私達は四年目だよ!」
「これでもベテラン」
「じゃあ、先輩って呼んだ方が良いか?」
おどけてみせると二人は笑う。
それから他愛の無い話で時間を潰した。
どうやらルルとララの双子は最近、別の拠点からこっちへ移ってきたらしい。
他の拠点について聞く良い機会だった。
「こことは違って騒がしいよ!」
「毎日毎日コロッセオ」
「コロッセオ?」
「ここにはないんだけど、闘技場があるの!そこでグラップラーが毎日技を魅せあっているの」
「拠点ごとに違いってあるんだなぁ」
「ナオヤはここのフェーズしかしらないの?」
「あぁ」
「勿体無い」
「機会があったら他の拠点も見てみるよ」
いずれ、帰るための手段を探す為にもいかないといけないだろう。
話をしていて、わかったがルルとララは双子、活発なお姉さんに大人しい妹だ。探求者になった経緯は聞かなかった。
一ヶ月程度だが、それぞれの理由がある。俺よりも幼い二人にも重たい理由があるのかもしれない。
「じゃあ」
「ンだよ、餓鬼しかいねぇのかよ!」
他の拠点の七徳姫について尋ねようとしたところで待機所のシートがめくられて男達がぞろぞろとやってくる。
全員が屈強で顔つきがとにかく悪い。
そんな男達をみてもルルとララはきょとんとしている。
――怖くないようだ。
「あんた達も探求者なのか?」
「こんな餓鬼が探求者やっているとか、ここの拠点のレベルがしれるな」
開口一番、先頭の男が失礼なことを言ってくる。
塔攻略以降、不足している探求者の人員を補うかのように他の場所から次々と流れてきていた。
中には実力があるが不埒な理由で流れてきている者もいる。それらを対処する為にアテナは取締りで忙しい。この態度から察するに男達は外から流れてきた者達だろう。
ダイゴロウが男達の後ろからやってくる。
「これで全員揃ったようですね。ナオヤ様、ルル様、ララ様、タイタンズアタックのメンバーの皆様で今回の護衛を行ってもらいます。改めて今回の依頼について説明させてもらいます」
タイタンズアタックと名乗る屈強な男達五名、俺、ルルとララの双子コンビ、計八名による護衛クエスト。
依頼内容は物資を別の拠点の入り口まで運ぶこと。
物資の引渡しが終わり次第、中へは入らずそのまま来た道を引き返す。
その途中に嘆き森があることから探求者の護衛を必要としたそうだ。
「クエストの報酬は個々人へ支払させてもらいます。要望のものをこの用紙に記入してください」
回される用紙に俺はクエスト報酬を記す。
なるほど、ミューゼルさんが中伝のことを言っていたのはそういうことか。
俺は巻物を記す。
回収されたものを確認してダイゴロウが口を開く。
「では、配置について説明します」
▼
ダイゴロウによって俺が配置されたのは後列の馬車だ。
「一番後ろ、まぁ、殿は大事だよな」
「でもつまんなーい!」
「ほとんど、あの人達が倒してる(むす)」
同じように配置されたルルとララはどっか不機嫌な表情をしている。
前列では道を阻むエネミーをタイタンズアタックの連中が倒していく。
獣のような荒い攻撃から逃れたエネミーを俺達が狩っている。取り残しを処理しているといったところだ。
二人の不満はわかる、人数でいったら向こうが多い。だが、実力の面からすればなんといえばいいのだろう、いまいちだ。
俺の居る拠点の探求者のほうが実力からすれば上だ。
さらにいえば、この二人も強い。
俺が前衛としてエネミーと相手をしている間、二人は後方から弱体化魔法や補助魔法で手助けしてくれる。
補助魔法を受けると体が軽くなって、アクティブスキルの威力も増強された。
獣型エネミーをほふりながら俺は魔法の凄さというものを体験する。
「魔法って便利だな」
「ナオヤは魔法使えないの?」
「残念ながら」
俺のステータスでは魔法を使うことが出来ない。
一度だけ実験してみたことがあった、そのときの結果は悲惨だったと語っておく。
「しかし、かなりの物資だよなぁ」
隣の荷馬車をみる。
貴重な商品があるから中はみないで欲しいというダイゴロウの言葉からわからないが拠点の中で一番の大きさの荷馬車に俺は興味を持つ。
どんなものを運ぶのだろうか。
「不便な行動するよね~」
「アイテムカード使えば良いのに」
「そういえば、そうだな」
「おい、餓鬼共!雑魚がそっちいったぞ!」
「しっかりやれよなぁ~」
「お子様にも出来る仕事だろ」
「ギャッハッハッ!」
下種な笑い方に俺達は苛立ちを覚えつつも、流れてきたエネミーを拳で叩き潰す。
獣型エネミーハウントハウンドに後方から火魔法と水魔法の牽制が入る。悲鳴を上げて仰け反っていたわき腹目掛けてアクティブスキル【クロスアタック】を放つ。
穿つように撃たれた拳でハウントハウンドは灰となって消える。
前衛がエネミーを蹴散らし、その取りこぼしを俺達が狩る。そういう流れを繰り返しながら俺達は目的地の拠点へ向かう。




