教会ーチュートリアルー
「なぁ、どこへいくんだよ」
「教会」
「いや、何でそこへいくのかっていうのと此処がどこなのかという説明をして欲しい」
「まとめてそこで説明を受けた方がいいの。貴方の為だから」
廃墟の中を二人の男女、一人が俺で、少女の方は巨大な剣でスライムを一掃した子。
俺が説明を求めるけれど、彼女はちゃんと答えてくれない。
それどころか歩く速度を上げていく。
こんなこといいたくないけれど、スライムに追っかけられて疲れているのにさらに歩かせるのかといいたい。
だけど、そんなことをいったら少女に見捨てられる可能性がある。
訳のわからない世界で唯一の手がかりに見捨てられたら生きていけない。
文句を言いたいけれど、ここは我慢だ。
我慢して情報を掴もう。
「・・・・てか、この子強すぎだろ」
先を歩く少女は小柄な体に似合わない光剣で迫るスライムを屠っている。ブンブン唸る刃の前にスライムたちは吸い込まれるように消えていく。
その行為は俺の逃走が何だったのかと思わせる。
いや、マジでそう感じるわ。
歩いているだけでぷるぷるとスライムが現れる。
少女は光剣で怪物を潰していく。
道行くゴミをみているような感じだ。
「そろそろ街へ入る」
「は、街?」
ぽつりと呟かれた言葉に俺は尋ね返す。
どういう意味だ。廃墟のことを街と指さないのなら、何を街と言うのだろう。
しばらくして、彼女の言葉の意味を俺は理解した。
いや、理解させられたというのが正しいかもしれない。
坂道を登った俺の前に広がったのは街だった、ただし、城壁に囲まれていた。
「廃墟はモンスターの巣窟、だからこのウォールで囲まれている」
「へぇ」
ぽつりと横で説明が入る。
「ゲートで検査を受けてもらうから」
「へ?検査」
「そう、モンスターの毒とかを体に浴びていないかの検査、すぐ終わるから」
「えっと」
「行くわよ」
少女を先頭にして城壁の前にたどり着く。
城壁の前には二匹の狛犬が待っていた。
「狛犬かよ!?」
てっきり屈強な兵士とかが待っていると思ったら予想外なことに神社とかに置かれている狛犬だ。
二匹の狛犬の前に俺達は立つ。
石像だと思っていた狛犬が動き出す。
『パスを拝見!』
パス!?
「私が持っている、彼は同行者です」
『了解、照合中、照合中、照合完了、偽造などの気配なし』
『続いて消毒作業に入ります。対象の方は動かないでください』
狛犬の両目が輝いたと思うと光が俺に照射される。
頭からつま先まで光がいきわたると電子レンジのチンというような音が響いた。
こんがりやけましたってか?
『消毒完了、入場を許可する。ようこそ拠点へ』
狛犬の言葉と同時に巨大な城壁が左右に割れる。
少女が扉を開けると同時に前へ進んでいく。
遅れて俺は後を追いかける。
「ここは拠点と呼ばれている。エネミー出現の無い場所よ」
「あのさ、エネミーっていうのは」
「教会につく、そこで説明するわ」
尋ねようとしたところで、クリスチャンのような十字架の教会が見えてきた。
文字通り教会だ。
ただ、違う点があるとしたら。
「なんだ、このガラスの絵?」
教会の奥、ステンドグラスに描かれているのは七人の女性が向き合い、武器を構えている姿だ。
ドックン、ドックンと体が脈打つ。
なんだ、この。
「ほぉ、新たな探求者を連れてきたのか」
教会の中央、そこに一人の神父が立っていた。
長髪の神父は俺の姿を見ると目を細める。
探求者?
首をかしげていると前からぞろぞろと三人が現れる。
「おや、僕ら以外にいたんですか?」
「そのようだな」
「お!キミ、美人だね!名前はぁ」
上から爽やかな笑みを浮かべた青年、俺よりも年下そうな黒髪の少年、明らかにチャライ雰囲気の同い年くらいの奴が現れる。
困惑する俺の前で神父が言葉を紡ぐ。
「ふむ、これ以上、人を待たせるのはよろしくないな・・・・新入りの探求者諸君、説明を始めよう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
話を始めようとする神父の前に俺は手をあげる。
全員の視線を集めてしまうが関係ない。
「探求者ってのは、一体なんなんだよ。そもそも!ここは」
「ふむ、そこの少女から説明を受けていないのか?」
神父の目が隣の少女へ向けられた。
少女は涼しげな表情で頷く。
「ふむ、そこの三人に説明は済ませたのでね。はっきりいって面倒だ」
――この神父!?
文句を言いたいが他の三人も同意するという表情だったので強くいえない。
俺が何も言わない事で神父は小さく頷いた。
「詳しい説明はそこの少女へ尋ねるといい、さて、探求者についての説明を始めようか。探求者とは文字通り、探し求める。この世界の真実を探すことを生業としている者達だ」
「先ほども仰られていましたが、この世界の真実とは何ですか?」
爽やかな青年が挙手する。
「“赤の世界”は様々な謎に満ちている。その謎を突き止めることが探求者の使命とされている。最も、全員がそんな謎の追求のみをしているというわけではない、謎といえるものの中には売り払えば人生を謳歌、全てを支配する技術や力が存在している。それを見つけ出す者も探求者をやっている」
「・・・・」
「人生を、謳歌?」
「全てを支配する・・・・」
神父の言葉に三人の顔色が変わる。
それは喜怒哀楽でいえば、喜の感情が一番近いものだろう。でも、俺からしたら何でそんなものを探さないといけないという気持ちが強い。
訳のわからない場所にいて、気色悪いモンスターに襲われた。
そんな中で探求者とやらになれというのは滅茶苦茶だ。
「悪いけど、俺はパスだ」
神父の説明を続ける前に俺は拒否を示す。
そんな危ないことに命を懸けるほどの度胸は無い。
なにより――。
「ふむ、拒否するのは当然の反応だろう。そういえば、キミは何も知らないままだったのだな。ならば、伝えておこう」
「あ、なにを」
「この世界からキミのいた世界へ戻る方法はない、いや、見つかっていないというのが正しいかもしれないな」
「なん、だと」
俺は神父の顔を睨む。
涼しい顔をして続ける。
「説明を受けていないのなら、拒否するのも当然といえるだろう。そこの三人には既に伝えたが、元々、探求者とは本来の世界へ帰りたいと願った者達により構成された集団だ。現在は一枚岩といえないがね」
「つまり、元の世界へ帰ろうと思うなら」
「少年、キミは探求者になる以外、道はない」
残酷な事実といえばいいのか?
神父からの言葉に俺は何も言い返せない。
他の三人は哀れみを込めた視線で見ている。
隣の少女は神父を見ている為か何も言わない。
「どうするかね?少年、キミは探求者となり帰る方法を探すかそれとも怯えてこの拠点の中で縮こまるかね?選択を強制はしない。私はあくまで説明する人間だ」
「・・・・続きを頼む」
少し悩みながらも俺は続きを聞くことを求めた。
神父は満足したみたいに頷く。
「さて、探求者には誰しもなれるというわけではない。ここにステータスカードがある。これは探求者の証であると同時に自らの強さを示すものである。これに触れたまえ」
銀色のカードを神父は俺達に配る。
「行き渡ったな。では、カードに自分の名前を強く念じたまえ、そうすることで自身の強さがわかる」
「念じる、って」
渡されたカードを睨む。
念じるって、ゲームじゃないんだし。
「出た」
「これは、ステータスみたいなものか?」
「うわっ、何か並んでるし」
「・・・・」
あの三人、迷うことなく念じているよ。
「どうしたの?」
「いや、念じればいいんだよな」
うーんと唸りながら念じる。
しばらくして。
アカギ・ナオヤ
種族:人間
スキルレベル1
【筋力強化】【言語理解】【武器所持】
【状況把握】【空間能力(AA戦闘時)】【不幸】【使用制限(武器)】
【魔法適正(E)】【???】【???】【???】【???】
なんか、スキルというのが並んで現れた。
呆然としている俺をみて、神父が呟く。
「ふむ、全員のスキルは探求者としては問題の無いようだな」
「あのさ、ここに書かれているスキルってなんなわけ?」
「元々、諸君に備わっていた力、付け加えるとこの世界に来たことで顕現したものもある」
「これって、全員一緒なんですか?」
「否、スキルは同一のものもあるが、個々人しか所有してないものもある」
「へぇ、面白いじゃん」
「今の君達はいわゆる初心者、これからの行動次第で成長することも新たなスキルを見出すこともある・・・・健闘を祈るよ」
そして、神父の説明は終わった。