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ひとつの終わりと花束

 アイオリスは自室で小さく息を漏らす。


 目の前に積まれているのは書類、書類の山だ。


 それらの内容は今回の塔攻略についての内容と結果について。


「問題は山積みだと改めて思い知らされるな」


 書類の内容は手に入れたアイテム、出現したエネミー、そしてボス戦闘における死亡者リスト。


 最後の書類に目を向けようとしたところで扉がノックされた。


「どうぞ」


「失礼、します」


 扉から入ってきた人物にアイオリスは尋ねる。


「体はもういいのか?」


「動く分に」


 所々に包帯を巻いたアテナは松葉杖を突きながらゆっくりと執務机に近づく。


 立ち上がってアイオリスは席を用意して促す。


 大人しく座ったことを確認してから口を開く。


「今回もお前には苦労をかけた」


「問題ない、これが私の使命だから」


「そうだとしても、まだ十代のお前にこんな重たいことを任せることは申し訳ないと思う。本当なら私が出るべき」


「無茶言わないで、貴方はここのトップ、失ったらもっと大変」


「そう、だな」


 小さく笑いながらアイオリスはアテナをみる。


 普段と変わらない無表情、なのに。


「お前、どこか変わったか?」


「いいえ」


 即答するアテナだが、少し考えて。


「変わりましたか?」


「細かいことは言えんが、どこか柔らかくなった気がするな」


 今まで、といっていいのかわからないが彼女は研ぎ澄まされた刃というイメージがあった。


 常に神経を張り詰めていて、余裕が無い。それがアイオリスからみたアテナの印象だった。


 けれど、今はどうだろう。


 相変わらずの無表情だが、どこか余裕がある。そんな気がするのだ。


「今回の塔攻略についてだが、お前はどうみる?」


「正直いって、わかりません」


 アイオリスが尋ねたのは攻略できたかという質問、それに対してアテナはわからないと返す。


「わからない、というのは?」


「タイムリミットは既に過ぎていました。今まではその時点で撤退でした。でも、今回は」


「その時間を過ぎて尚も戦闘を続行、ボスを倒した・・・・という建前になるな」


 書類を机においてアイオリスはため息を零す。


 今回の結果はいずれ他の拠点にも伝わるだろう。


「中身については緘口令を敷いているが・・・・漏れるだろうな」


「彼の、こともですか?」


「対策は立てる」


 アテナの問いにアイオリスは答える。


「だが、なんともいえんな・・・・今回の攻略は不可解なことがありすぎる」


「・・・・そう、ですか」


「とにかく、お前はしっかり安静していろ。何も、すぐに塔攻略が起こるということはないんだからな」


「・・・・はい」


 松葉杖を突きながらアテナは部屋を出る。


 残されたアイオリスは最後の一枚へ視線を向けた。


 そこに記されているのは一人の探求者の情報、ギルドホームで管理されているもの。


 資料に登録されている情報のみ。


「ボスエネミーを倒すほどにいたる実力、魔器、聖武器、特殊な武装なしで、ここまでの戦闘を繰り広げる男か・・・・、これからどうなることか」


 アイオリスは空を見る。


 相変わらず血のように赤い空だった。










「・・・・よぉ、やっとこられたよ」


 俺は拠点のかなり離れた位置にある墓場へ訪れている。


 花束を一つ目の墓石に置く。


 そこに記されているのは仲間の名前。


――ザフト・サーツバルグ。


――ドリフト・シュクレス。


――アイラント・バーグ。


 それぞれの故郷の文字で刻み込まれている墓標に残りの花束も添えていく。


「もう、きていたんだな」


「空知、体はもういいのか?」


 まだ痺れるけれど、といいながら包帯姿の空知はやってくると同じようにザフト達の墓へ花を置いていく。


 手を合わせた後、俺達はしばらくの間、無言が続いた。


 “あの”塔攻略から既に二週間が過ぎ去っている。


 塔周辺は崩壊しており、今も立ち入り禁止になっていて、一般人おろか、俺達探求者すら近づくことは許されない。


 危険が一杯だというのがギルドホームの結論だ。


「この墓、何も入っていないんだろ?」


「そうだとしても、墓を建てないって言うのは失礼だ」


「・・・・そうだな、すまん、失言だ」


 謝る空知へ俺は首を横に振る。


 普通なら、ここに俺はくるべきではないと思っている。俺は、ドリフトの腕を引きちぎったんだ。


 包帯まみれの手をみつめる。


「今、俺はここにくるべきではないと考えただろう」


「・・・・あぁ」


 空知の問いに正直に答えた。


 ここでウソをつくのは彼らを貶すことだ。


「それは大間違いだ。あの時、彼らはお前のことを仲間だと捕らえていた。自分がこんなことをいうのも失礼かもしれないが・・・・」


 仲間の想いを無碍にするな、空知の言葉に俺は沈黙で返す。


 最初は花束をおかずに立ち去るつもりだった。けれど、トラーに無理やり渡されて「もっていけ!」と槌を片手に脅された。


 花束を置くのは俺が彼らのことをまっすぐに見れるようになってから――。


 そんな気持ちがあった。


「空知、お前はこれからどうするつもりだ?」


 逃げる為に話題を摩り替える。


 塔の攻略、結果はどうあれ、終了した。俺達は塔のボスを討伐する為の一時的パーティにしか過ぎない。


 目的が達成されれば解散する。


 それがパーティというものだ。


「そうだな、自分はこれから他の拠点へ移動するつもりだ」


「他の拠点へ?」


「そうだ。ここで強くなることも考えたが、他の拠点へいけば強くなれるかもしれない。だから」


「そうか」


「お前はどうするんだ?」


「・・・・しばらく考える」


 俺はどうすれば良いのか、


 何をすればいいか。ゆっくり考えて、結論を出す。


 それしか、思いつかなかった。





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