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タイムアウトと漆黒龍


 気づいたら生暖かい何かに包まれている。


 思い出すのはあの日の出来事だ。


 俺のすべてが一度、リセットされた日。


 懐かしい感覚だった。


 もう二度と“ココ”にはきたくなかった。出来るなら普通の生活でいたい、でも、最初に感じた懐かしいという気持ちを否定できない。


 自己嫌悪の中で、俺は思い返していた。


 ザフト達との出会い。


 最初は絡んできたものだと捉えた。けれど、実際は違う、少し酷いことをいいながらも俺の身を案じていた。


 見知らぬ世界で不安だった時に声をかけてもらえたことはとても嬉しい。


 隠し通路で骸骨のエネミーに殺されそうになったところを助けてくれたザフト達、あの時、彼らが着てくれなかったら俺はここにいることもなかったんだ。


 手助け、ボスエネミーのところまでたどり着く力を得た。




――でも、



――ダメだ、



――足りない、



――まだ足りないんだ。



――俺は弱い。



 ザフト達に何も出来なかった。


『そりゃ、お前は雑魚だからね、どこにでもいるゴミくずと大差ねぇよ』


 響いた声に意識を向けると、黒い何かがいる。


 それが何か確認するよりも早く、視界が真っ黒に染まった。


『まさか、絶望したとは予想外だったぜ。前は失敗したが今度は逃がさない。お前を支配して、俺は――』


 コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセコロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ。


 瞬間、どす黒い感情がなだれ込んでくる。


 抗う暇も無く飲み込まれた。


 【???】の発動を確認。


 ???スキルがアクティベートされました。


 【???】の条件を満たしました。【???】が使用可能です。


 響いた声に体は言うことを聞かない。


 まるで誰かが乗っ取ったみたいに体が動く。


――眠たい。


 意識が朦朧としてくる。


 このまま眠ってしまえばいいという気持ちが強くなってきた。


 あぁ、このまま寝てやろう。


 そう考えているのに、逆に意識がクリアになる。


『っ、おいおい・・・・そういうことかよ。てめぇは既に』


 視界が真っ白に染まる。


「・・・・!?」







「目、を覚ましたか」


「アイラント・・・・?」


 俺の前にいたのは巨大な斧を盾にして構えている巨漢のアイラント。


「っ、お前、その腕」


「大丈夫だ」


「そんなわけないだろ!?血まみれじゃねぇか!誰が・・・・」


 そこで、俺は自分の格好に気づく。


 全身が血で汚れている。


 漆黒のコートも大量の血を含んで、重たい。


 籠手も、髪、すべてが赤黒く染まっている。


「仲間が助かるなら片手の一つや二つ、惜しくは無い」


「俺、の、せい、なのか?」


 声が震える。


 俺が仲間を傷つけた?


 どうして、俺がやってしまったのなら、俺は。


「バカなことを考えるな」


 額を殴られた。


「いっつ」


「過ぎたことを悔やむなといってもお前は悔やむだろう、だったら、これだけを伝えておく」


――後悔するくらいなら、多くを救え。


 そういって、アイラントは飲まれた。


「え?」


 彼がいた場所、そこにあるのはヒドラの顔。


 口元からぼたぼたと滴り落ちるのは赤い液体。それが血なんだと理解するのに時間はかからなかった。


「てめっ・・・・てめぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 口から出たのは激昂の感情、それは圧しとどまることを知らずに流れ出す。


 両手の籠手が怪しく光っているような気がするが、後だ。


 動き出そうとしたところで地面が揺れだす。


「な、なんだ!?」


「・・・・タイムリミット!」


 アテナの目を追いかけると上空に浮かんでいる数字が丁度、0を刻んだ。


 室内が派手な音を立てて亀裂が入っていく。


 崩壊を始める塔の中でヒドラの体が上昇する。


 まるで天へ召されるような光景に俺は前に出た。


「どこへ、いく」


 ザフトを。


 アイラントを。


 ドリフトを。


 多くの仲間を殺して、てめぇだけどこに逃げるつもりだよ。


「ナオヤ!」


 アテナの声を後ろに引きながら俺は前へ踏み出す。


 体が激痛で意識が朦朧としている。けれど、止まるつもりは無い。


 籠手がどす黒い輝きを放つ。


 ギロリ、とヒドラの瞳がこっちを捉える。


 崩壊する壁をけりながらヒドラの尻尾を掴む。


 鱗で指先がズタズタになる。


 そのまま上へ登る。


 片方の顔がこちらを向いた。


 よくみると額から光の刃が見えている。


「あれは・・・・そうか」


 わずらわしいと感じたのか片方の顔が襲い掛かってきた。


 広げている口の中に飛び込む。


「やっぱり」


 中にあったのはアテナの光剣だ。


 迷わずに剣を引き抜く。


 【使用制限(武器)】が発動して、俺の体に電撃が走る。


 武器屋で何度も体験したからだろうか、前よりも痛みを感じない。


「うっせぇええええええええ!」


 ズブリと剣を抜く。


 散る血で皮膚が溶ける。


 引き抜いた剣を投げ捨てた。


 後は、


 外に出ようとしたところで口が閉じる。


――舐めんな。


 アクティブスキルを発動させる。


 拳が肉を貫く。


 身を焦がす痛み、必死に悲鳴を漏らさないようにする。


 てめぇだけは、


「絶対にここで潰してやる!!」


 そのまま外へ飛び出す。


 全身が焼けるように痛い。


 だが、ここで終わるつもりなんか無いんだよ!


 アクティブスキルを傷だらけのヒドラへ叩き込む。


 痛みで籠手がボロボロになっていく。


 だが、それは相手も同じだ。


 俺の武器がボロボロになると同様にヒドラもずたずたになっていく。


 もう片方の顔が俺へ迫る。


 「無茶しすぎ」


 迫ったところで銀色の少女がヒドラの頭を斬り裂く。


「動いて大丈夫なのか?」


「片腕が動かない」


 大丈夫じゃないだろ!


 叫ぼうとしたがやめる。目の前にいるアテナの表情を見てしまった。


 彼女は今にも泣きそうな表情をしている。それと同じくらい敵を倒すという覚悟を持っている。


「・・・・片方の頭、頼んで良いか?」


「問題ない、そっちが終わるよりも先に潰す」


 実行、


 アテナは空へ舞い上がると光剣を操り、ヒドラの頭をあっさりと切り伏せていた。


 おそろしいな、全く。


 そう思いながら俺は拳を振り上げる。


「これで、終わり」


「そう時間切れなのですよ」


 ズブリ、とわき腹にナイフが突き刺さった。


「・・・・・・・・・・え?」


 急激に体から力が抜ける。


 いつから姿を見せたのかそこに一人の男が立っていた。


 あの金髪だ。


「カカカッ、残念だったなぁ。後一歩で勝てるところだったんだろうけれど、そうそう勝ってもらうと困るんだよねぇ」


「てっ・・・・め」


「まぁ、今回の塔はかなりの難易度にしておいたんだけどなぁ。ま・さ・か、ここまで追い詰められるとは想定外・・・・・ぁ?」


 金髪が俺の籠手へ視線を向けている。


 なんだ、と思ったところで勝手に右手が動く。


 籠手は怪しく胎動している。


 思考をめぐらすよりも早く、籠手から黒い龍の顎が飛び出す。


「な、なん」


 飛び出した黒い龍は空中で体をひねるとそのまま迫る。


「あ?」


 突然の事態に金髪は間抜けな声を漏らす。


 それが最後の言葉となった。


 間抜けな表情を浮かべている金髪を黒い龍が飲み込む。


 俺の意識は闇に落ちた。



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