ボス討伐開始!
ギルドホームからボスがいる塔までの道のりで何度か、エネミーと遭遇する。
けれど、俺達サブパーティが周囲に展開して、襲いかかろうとするエネミーを撃退していく。
「ふぅ、ここの敵は倒したな」
「あぁ」
くるくると手の中で剣を動かして鞘に収める空知に俺は答える。
隊列に戻ったところでザフトが俺達の肩に手を回す。
「ナオヤ~、少し見ない間に、随分、安定した戦いするじゃねぇか」
「まぁな」
空知が乱暴に手を払いのけるのをみながら俺は頷く。
たった半日しか練習していないが空知との連携はそこそこうまくいけた。
それは相手の実力が相当なものだということと、俺がゆっくりとだが、強くなっていることへ繋がっているかもしれない。
「ま、無茶だけはすんなよ。アテナが心配するからな」
「そこで、アテナの名前が何ででてくる?」
「さぁな」
額を小突いて笑うザフトを少し睨む。
「それにしても、みんな、何と言うか雰囲気が軽いな」
周りの隊列、正確に言うとメインパーティのことを指すのだが、彼らをみていると余裕という表情が強く印象付けられる。
これから危険なボスと戦う、というのにそういう空気を全く見せない。
「僕達を含めて、何度かボスと戦った経験がありますからね。緊張はしていますが、ここで緊張しても無駄だということを理解しているのです」
「何よりも緊張している新入りのためにどっしり構えているところを見せてやる必要が在る」
「リーダーにそういうものを期待するのは無理ですけど」
「なにをう!?」
ドリフトの言葉に俺はどこか納得してしまう。
塔までのエネミーは活性化していて、脅威なのだが、ベテラン組はそんなものを感じさせない雰囲気を維持している。
その御蔭か周囲を警戒しているサブパーティも最初の張り詰めた雰囲気が少し和らいでいる。不良のような温みすぎたものをいるが、それは放置でいい。てか、不用意に関わったら厄介なことになる。
「そういえば、お前は神原と決闘をしたんだったな」
「見ていたのか?」
「いいや、風の噂で聞いただけだ」
どうやらトラーの言うとおり、俺と不良の決闘は噂になっている。面倒だな、そう何度も心の中で思う。
「そういや、ナオヤ」
何かを思い出したようにザフトが口を開く。
「お前、アテナとあれからどうなった?」
「あれから?何を言って」
意味がわからないと答えようとしたところで誰かが俺の頭の中の電気を付ける。
――ホワイトスノウのチケット。
――俺の行き先を知っていたトラー。
――何故かそこにいたアテナ。
「まさか・・・・」
「おう、俺達の差し金だ」
「一応、理由を聞こうか?」
「アテナのためとお前らが仲直りして欲しかった」
「・・・・それだけだろうな」
「当たり前だ。喧嘩別れほどこの世界できついものはねぇからな」
ザフトの言葉はどこか重みを持っていた。
もしかしたら、俺と会う前に辛い出来事でもあったのだろうか、もしかしたら、それが原因であんな軽い態度なのか?
「特に女との喧嘩別れほど、虚しいものはねぇ!」
前言撤回。
コイツのいうことに少しでも重みを感じた俺がバカだった。
「でもま、アテナにとってお前は特別みたいだから大事にしてやってくれ」
「いきなりすぎるだろ」
他愛の無い話をしつつ、討伐パーティは塔へ進む。
既にマッピングが完了されたことで余計な時間を費やすことなく俺達は階層を越えて行き、目的地であるボスフロアに続く階段の前にたどり着く。
ボスフロアへ続く道は今までと大きく異なり、どこかまがまがしい雰囲気を放っている。
さらに付け足すと石造りだった階段が骨で構成されたもの。
「いいか、ボスフロアへ続く階段はそこにいるヤツを象徴した物に変わる」
――骨の階段。
それをみて思い出したのは相良に教えてもらった秘密通路に君臨していた骸骨のエネミー。
あれのようなヤツが待ち構えているのだろうか。
先頭を歩いていたアテナが立ち止まり、振り返る。
甲冑を身に纏った彼女は携えていた光剣を空へ掲げた。
「いきましょう」
只一言、それだけで47人のメンバーが大きく頷いた。
アテナが階段をあがり、残りも続いていく。
ボス討伐の開始だ。
ボスフロアは今までの階層と大きく異なり、狭い印象を与える。
正方形の空間、前後左右の幅が三十メートル、天井は空洞になっていて、赤い空がどこまでも続いていた。
空間の奥、上空から差し込んでくる光だけが照らしており、それ以外は漆黒に包まれている。
アテナが光剣を掲げて静かに下ろす。
ボス討伐開始の合図だった。
部屋の中央より、少し後位置に数体のナイトエネミーが立っている。騎士甲冑を纏った骸骨達、スケルトンナイツが立ちはだかる。
先に攻撃を仕掛けたのはメインパーティA班の戦槌使いと片手直剣の探求者だ。
不意打ちにナイトエネミーは対応できず、攻撃を受けて仰け反る。そこを追撃する形で重装甲や武装で身を固めているB班、攻撃を受けていないナイトエネミーが攻撃開始というところで遠距離武装とザフト、アイラント、ドリフト達によるC班が攻撃する。
標的として認知されるところで入れ替わる形でサブパーティのA班、B班、C班がナイトエネミーとの対戦の場を請け負う。
そんな彼らの戦闘をさらに後方、階段の入り口から眺めているのが回復役の探求者、そして彼らの護衛を勤める二人組みのE班。
「つまり、ナイトエネミーとすら戦う価値がないってことか?」
「そこまでないだろ・・・・まぁ、向こうが何らかの理由で取りこぼしたエネミーを倒す仕事と回復職の護衛だ。ほら、ゲームだと回復職やられたら終わりなわけだし」
「わかっている。だが、前衛として参加できないことに歯がゆいのだ」
空知のいいたいことは理解できる。
俺としてもザフト達が戦っているのに安全圏で眺めていることしか出来ないことは悔しい。
「それにしても、ボスエネミーはどこにいるんだろな」
「・・・・そういえば、戦闘が始まっているはずなのに、それらしき動きが」
俺達の言葉を遮るような悲鳴が空に響く。
小さな塊が天井に舞う。
目で追いかけていった俺は固まる。
――動けなくなった。
重力に引かれて、落ちてきたもの、それは生首だった。
ぼたぼたと鮮血を撒き散らしながら落ちてきたソレはころころと俺達の前を転がり、どろどろと床を汚していく。
さらなる悲鳴。
遠くてわからないが巨大に蠢く何かが見える。
「何・・・・あれ」
傍にいた誰かの声が漏れた。
それは全員の気持ちを表していたのかもしれない。
スケルトンナイツのさらに奥、この中で強者といえる実力があるメインパーティを殺してしまう猛者、いや、怪物がいた。
スケルトンナイツが全体三メートル程度に対して、後方にいる怪物はゆうに五メートルを超えている。
同じ骸骨だというのに、ソイツは鎧など纏わず、とぐろを巻いた形で唸り声を上げて猛威を振るっていた。
――憤怒ノ漆黒骸骨――《――ラースオブスケルトン――》
ファンタジー染みた世界だと思っていた、けれど、本当にドラゴンらしきものが出てきたことに俺達は言葉が出ない。
「回復急げ!」
ハッ、と空知が我先に意識を取り戻し叫ぶ。
呆然と見ていた回復役は慌てて、呪文を唱える。
広範囲の回復術でダメージを負っていた探求者達の傷が癒されていく。
サブパーティは未だにスケルトンナイツと戦っている。
それをみて、俺はある考えが浮かぶ。
「空知、あのスケルトンナイツの片割れ、俺達だけで戦えると思うか?」
「・・・・回復がいない分、苦戦するだろうけれど、いけるはずだ、おい、まさか」
俺の考えを理解したのか空知は驚きの声を漏らす。
「ナイトエネミーを倒せば、他のパーティがメインエネミー討伐へ加わることが出来る。ようは、アイツに足止めされていることが問題なのだとしたら、俺達が動くべきじゃないか?俺達はサポートだ」
「・・・・そうだな」
空知は腰から剣を抜く。
「最初はお前の攻撃だ。フォーメーションBで行く」
「了解だ」
武器を構えて、俺達は後退しているナイトエネミー一体に狙いをつける。
【インパクト・ドレッド】を発動させて、前方のナイトエネミーの足に拳を放った。
衝撃でナイトエネミーのバランスが揺らぐ。
入れ替わる形で空知の剣戟ががら空きの胴体を貫く。
ナイトエネミーと戦っていたサブパーティが呆然と俺達を見ている。そんな彼らへ叫ぶ。
「ここは俺と空知が引き受ける。あんたらは奥のドラゴンに向かえ!」
「あァ!?偉そうに指示してんじゃ」
「わかりました。そうさせてもらいます」
「相良さん!」
「メインが苦戦しているのは事実です。ならば、ここは僕達が加入することで早期決着を目指しましょう・・・・時間も無いことです」
「お、おう」
――任せましたよ。
そういって相良達は奥のドラゴン討伐へ向かう。
スケルトンナイツの片割れは俺を敵として認識したようで手入れされていない剣を振り上げる。
「赤城!」
「わかってる!」
硬直が解けた所で、俺は攻撃に入る。
部位破壊を狙った【クライ・クライ】を足に穿つ。だが、クリティカルは発生せず、相手にダメージを与えただけのようだ。
「くそっ、壊れない」
「簡単に壊れたらボス攻略は簡単に行えているだろうな」
「ダジャレか?」
「そんなわけあるか!!」
軽口を叩きつつ、武器を構える。
飛来する剣を躱して、俺達は交互に攻撃していく。
スキルで硬直するからタイミングを合わせつつ、攻める。
俺がスキルを撃てば空知が攻める。空知がスキルを使えば俺がカバーする。
これが一日限りで考えた連携フォーメーション。
「さぁ、暴れるぞ」




