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ギルドホーム長

次回からボスです。

 あのローブの野郎の為に台無しになった花見から数時間と経たずにボスのいるフロアへ続く階段が見つかったという連絡が広まる。


 直ちにホームへ集合せよというギルドからの召集に俺とアテナは向かう。


 大勢の探求者が既にギルドホームに集っている。ギルドホームで見たことがある人もいれば、知らない人もいる。


 皆、緊張した表情を浮かべている。


 扉を開けたところで一斉に視線が俺達へ集った。いや、違う。視線は全て隣にいるアテナに向けられていた。


「・・・・後で」


 小さくいうと中央へ彼女は向かう。


 さっと人ごみが割れて出来上がる道を進んでいく。


 彼女は白い軍服のようなものを纏った男の傍に立つ。


「諸君、はじめてのものもいるだろうから先に自己紹介させてもらう。私の名前はアイオリス、このギルドホームの責任者であり長である。今回、緊急招集という形で諸君を集めてもらったのは他ではない!今日、ボスに続くフロアが見つかったのだ」



 ざわざと周りが騒がしくなった。


――本当か?


――嘘じゃなかったのか。


――いよいよか。


――腕が鳴る。


 様々な言葉が飛び交い、静まり返ったところでアテナが口を開く。


「これからボス討伐の対策会議を始めます。もし、この中でボスと戦うことに恐怖している方は退室して構いません」


「ギルドホームの長として、特別権限として許そう」


 その一言で、全員が沈黙する。


 周りを見渡す。


 ここにいる人達のほとんどが理解しているんだ、ボスと戦うことの危険。命を落としてしまうかもしれないということを、その表情が彼らの中に出ている。


「ハッ、臆病者はさっさと出て行けってことだろ?」


 沈黙が漂う中で声が響く。


 全員が視線を向けると壁にもたれて槍を持った不良が立っていた。


「てかよ、ボスなんて俺らだけで楽勝だっての」


「・・・・誰もいないようなので、これからの対策会議について話をはじめようと思います」


 不良の言葉を無視してアテナが進行する。


「恐怖で逃げることを私は否定せん、だが、自分の力量を考えず無謀なことで味方を巻き込むならば、出て行け!!ここにいる者達はボスを倒し、次へ進まなければならない!生半可な覚悟の者は参加するな」


 アイオリスの言葉は遠まわしにふざけているヤツは出て行けと同じだ。


 それを聞いた不良は顔を歪める。


「では、討伐の為の会議を始めます」


 アテナ主導のもとボスについて話し合いが始まった。


 初見の探求者の為に簡単なボス説明が行われる。


 まず、ボスはフロアから出ることは無い。続く階段は一本のみ、そこから先へ追いかけてくることはないため、危険を感じたら階段まで退避すること。ボスに一度挑んだら、結界が展開され、再挑戦するまでに少しの時間が必要になる。


 ボスを守るナイトエネミーがいる。これらは数で圧してくる存在や少数で圧倒的なパワーを誇るタイプがいる。


 そして、ここからが問題だ。


 ボスへ挑むには回数の制限が在ること。


 それが一回なのか、二回なのかは対峙しないことには判断できないのでボスの能力把握ができない。


 問題なのが過去の塔攻略のデータが再利用できないこと。これは何度も挑んだ人達が得たことだが、ボスエネミーは姿と外見が塔攻略のたびに違う。

そのために過去のデータは武器、使うスキルなどを把握しておくだけに過ぎない。


 話を聞いて、俺は最悪すぎると思った。


 ボスの挑戦回数はわからない、スキル、武器など過去のデータは役に立たないに等しく、強さは今までの階層エネミーと異なる。


 圧倒的に人間側こっちが不利だ。その状況でボスに挑む、緊張する理由もわかる。


 けれど、


「(それだけ、みんなの覚悟があるということ、だ)」


 ボスについて話を聞いている探求者の人達は真剣に意見を交わしている。


 その中で俺は静かに、けれど一言一句聞き漏らすことなく情報を集めていた。


 全員がボスと交戦した、目撃した連中ばかり、あのザフトですら真面目に情報を交換し合っている。


 俺だけ、みんなよりわかっていない、ボスの恐怖も、戦う事の危険すら、何一つわかっていないんだ。


 悔しさで歯をかみ締めているとアテナの声が響く。


「ボス攻略の為、パーティ編成を行います。メインとサポート、チームの二つです。メインチームとサポートチームの二つですが、これらはボスとナイトエネミーの数が不明なためです。尚、サポートだからといって、メインと比べて安全というわけではありません。ボス討伐は何が起こるか予測不可能です。それは忘れないでください」


 アテナの言葉と同時にそれぞれがパーティの組み合わせを話し始める。


 俺は焦った。


 ザフト達三人と組もうと考えていたら、いつのまにか向こうはメインパーティになっている。


 実力からしてメインは難しい。


 どうしたものかと視線を動かしたところで、ホームの片隅、フード付きの青いパーカーですっぽりと顔を隠している人を見つける。可能な限り友好的な態度でいこうと思う。


「えっと、パーティからあぶれた?」


「違う。残りのほうが動きやすいだけだ」


 フードの隙間から強い瞳がこっちを見る。


――あれ?


 目の前の相手にどこか見覚えがあった。


「どうした?」


「いや、どっかで見たような気がしたんだけど・・・・なんでもない」


「そう、パーティについてだが・・・・どうやら、自分達二人だけのようだ」


「マジで!?」


 慌ててみると既にサブパーティはA班、B班と振り分けられ始めている。


「とりあえず、自分とパーティということでいいか?」


「あぁ」


 急遽、目の前のパーカーとチームを組むことになった。


「というわけで簡単な行動について話し合おうと思う」


「行動?」


「そう、ボス攻略の危険性はさっき、彼女が伝えていた通りだ。自分達がまともに動けるために、お互いの特性などを把握すべきだと考える」


「なるほど」


 一理あるなというところで俺達は互いのステータスを見せる。


 アクティブスキル、ステータスなどを見せ合ったところでパーカー、いや、空知トキトがこっちをみた。


「どっかでみたことがあると思ったら、教会で彼女と一緒に居た男か」


「・・・・は?」


「覚えていないのか?あの不良モドキといけ好かないヤツと一緒に居たんだが」


 教会という単語で俺の脳裏に蘇ったのは、職務怠慢神父の説明を聞いて、なにやら盛り上がっていた三人、相良カズキ、神原タカト、そしてもう一人のこと。


「最後の一人か」


「待て、その覚え方だと自分はラスボスポジションみたいに聞こえるからやめろ」


「そんなわけないだろ、中二病か?」


「ぐっ!?ち、違うぞ。自分は厨二病ではない!断じて!」


「なんか、発音に違いがあったような」


「気のせいだ。さて、明日の攻略について話をしよう」


 そらしたことに追求したかったけど、目が本気だったからやめた。


「キミが拳による近接、自分が剣による近接、スキル後カバーする形で動くしかないが、これは声の掛け合いでやっていくしかない」


「一発で出来るか?」


「無理だ」


 一蹴かよ!?


 感情が顔に出ていたのか、ため息を零す。


「これからある程度、練習するんだ。幸いにも集合時間は明日の正午、これから夜になるまで互いにスキルの動き、技後の硬直時間、武器の距離感を把握して、雑魚エネミーで練習、それでやっていくしかない・・・・どうした?」


「なんていうかさ」


「?」


「お前って、頭良いんだな」


「失礼な言い方だ!」








「気になンのか?」


「・・・・別、に」


 ザフトの言葉に首を横に振る。


 ギルドホームの裏手は試験会場とは別に小さな訓練スペースがあり、そこで一組の探求者が“喧嘩”をしていた。


『だから!自分のスキルタイミングを把握してくれといっているだろ!?』


『何でお前だけにあわさないといけない!?そっちも俺の動きに合わせてくれよ!』


『ぐっ!?た、確かに・・・・』


『お前、頭良いけれど、友達少ないだろ』


『ひ、人が気にしていることを!!』


『こら!スキルで動けない俺に剣を振り上げるな!!』


『うるさい、シュヴァルツの錆にしてやる!』


『笑えない!?』


 窓の外から見えるのは学生服を着たナオヤと青色のパーカーに剣を腰にぶら下げたトキトが言い争いをしている。


 二人の動きからするに明日のボス討伐のためだろう。


 ザフトがもめている二人をみて苦笑する。


「即席コンビでうまくやれんのかねぇ」


「そうしないと生き残れない」


「・・・・」


「なに?」


「お前さ、もう少し素直になれよ。本当に」


 アテナが小さく首をかしげたのを見て、再度、ザフトがため息を零す。


 ボス討伐でぴりぴりしている彼女にとって、馬の耳に念仏だが言わないと気が済まない。


「これでも素直」


「そうかい、なら、もっと素直になるべきじゃないか」


「・・・・」


 沈黙するアテナにザフトはやれやれと思い、内容を変える。


「ボス、どうみる?」


「予測不能、同じ相手とは思えない、もしかしたら前回よりも苦戦するかもしれない」


「ところでさ、アテナは何回、討伐に参加している?」


「・・・・六回、ザフトは三回」


「あぁ」


 ザフトの脳裏を過ぎるのは三度も自分達の前に立ちはだかったボスとの戦い。


 ボス討伐の度に命を落とす探求者達のことが蘇る。


「今回で、討伐しようぜ」


「・・・・当然」


 グッ、と拳を握り締める。


「私は七徳姫、最強で、みんなの希望にならないといけない」


「わかってっけど、気負いすぎんなよ」


「・・・・それでも」


 アテナの目は喧嘩をしているナオヤへ向けられていた。











 赤い空の下、ギルドホームの前に多くの探求者の姿がある。


 戦闘経験豊富なベテラン達、世界に飛ばされたばかりの新入りを含めた総勢、48人の大規模レイドが構成されていた。


 その中に俺と今回だけのパーティの相手、空知がいる。


「かなりの規模だな」


「ネットゲームだと普通の規模だな」


「ゲームに当てはめるなよ。ゲーマー」


「・・・・うっ」


 俺の言葉に空知は顔をゆがめる。


 半日という短い期間だが、俺と空知は互いのことを話した。


 どうやら空知は俺と同い年の十六歳、ただし、廃人ゲーマー。ゲームが楽しくて毎日プレイしていたらいつの間にかこの世界に飛ばされたらしい。


 だからか、俺のステータスなどをみて、あれこれとゲーマーみたいにアドバイスしてきた時に殴ってしまったことは仕方が無いのだ。


 あんな押し付け納得できるか、さらにいうと新調してくれたコートを不要だといった時の怒りは当然なのだ。


 だから、殴ったとしても俺は悪くない!!


「しかし、赤城、お前は思ったことが無いのか?」


「何を」


「この世界のシステム、まるでゲームみたいだと」


「それは・・・・」


 空知の指摘に俺は詰まる。


 正直言えば、ゲームだと感じたことは指の数を超えている。けれど、それを意識したところで何になると常に排除してきた。


「ここはゲームだと考えてしまうことが最初はあった・・・・だが、これは違うんだ」


 相手の攻撃を受ければ、体から血が出て、痛みがくる。


 エネミーに殺されても生き返ることは無い。


「すまない、ボス討伐の前に話すことじゃなかった」


「いいさ、さて、俺達の割り振りは」


「あぁ、ここにいた。キミ達」


 話し込んでいたところで重装甲に身を包んだ探求者がやってくる。


「キミ達サブパーティのE班だよね?」


「そうです」


「僕らサブパーティはボスフロアに続く道のエネミー処理に決まったから、塔が見えてきたら集ってもらえるかな」


「・・・・露払いをしろと?そんなもの」


「あぁ、わかりました。わかりました!お任せください!」


 何かを言おうとした空知を押し飛ばし、俺が了承すると重武装の人は他の人に伝令するため離れていく。


「何をする!?」


「ボス前に変な空気作ろうとするなよ!」


「うぐっ・・・・そ、そのつもりはなかった」


「まぁいい、昨日の練習成果を試せるからいいだろ?」


「・・・・わかったさ」


 なら、その不満な顔をやめろと口に出すべきか迷い。黙ることにした。


 コイツ、アテナと比べるとマシだけど、不器用だ。


「おや、キミ達は」


 空知と話し込んでいると聞き覚えのある声がした。


 振り返ると、弓矢を背負った相良、そして不良がいる。


「どうやらお二方もサブパーティのようですね。仲良くしましょう」


「相良さん、そんなヤツとなれなれしくする必要ねぇっすよ」


 ニコニコと笑顔を絶やさない相良と相変わらず俺へ喧嘩腰の不良、どうやら俺に勝った事でさらに自分が優位だと感じている様子だ。


 相良にしても、俺を危険な場所へ誘導したというのに謝罪の素振りを見せない。


「僕達はB班ですので、何かありましたら連絡ください」


「ま、足を引っ張らないことだな。てめぇらは最弱で下っ端なんだからよぉ」


 あいさつ回りをしていたのか二人は離れていく。


 普通なら怒るだろうと空知を見ると、俺の後ろに隠れていた。


「おいおい、何で隠れてる?」


「べ、べ、別に、た、対人恐怖症というわけではない。奴らが気に入らない、そう!話をしたくなかっただけだ」


 滅茶苦茶声が震えているぞ、と口に出そうとしたところでアテナの号令が掛かる。


「これよりボス討伐の為に塔へ向かいます!皆さん」


 アテナは全員へ視線を向ける。


 まるで一人、一人の存在を瞳に刻み込もうとするように相手の目を見ていく。


 俺のところで少しの時間、止まった。微笑むと向こうも口も端を緩めた。


「出発します!」





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