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ホワイトスノウの下で


「ハッ、雑魚が調子に乗りやがって、このまま」


「おい!何やってんだ!!」


 倒れているナオヤへ槍を構えたところでザフト達が割り込む。


「あ、邪魔すんじゃねぇよ」


 槍を掴まれた所で神原が鋭い目で睨む。


 それだけでザフトが察した。


 コイツは本気で殺そうとしている。


「決闘は終了だ。これ以上やるなら俺らが相手することになっぞ」


 ザフトの言葉に後ろで控えているドリフトとアイラントが構える。

 それをみて神原は笑う。


「何だよ。低レベルのNPCがこれ以上、邪魔するならてめぇらも――」


「そこまで」


 一触即発の空気が漂う中で光剣をアテナが両者の間に叩きつけた。


 衝撃と土埃で両者の視界が塞がれる。


「決闘は終了した。これ以上やるというなら七徳姫の一人として粛清をしなければならない」


 光剣を構えて告げるアテナの声は低い。


 彼女が本気だとザフトも、神原も理解させられた。


 もし、アテナが実力を発揮すればここにいる探求者達はなす術も倒されている。それだけアテナという少女、否、七徳姫に位置する者の実力はおそろしいものなのだ。


 だが、神原は本当に理解していない。


「あ?邪魔するなよ、俺はコイツをぶっ潰さないと気がすま――」


「じゃあ、少し寝ていて」


 光剣の柄で神原を殴り飛ばす。


 傍からみれば小突いただけに過ぎない。


 派手な音と衝撃が巻き起こり反対側の壁に吹き飛ぶ。


 土煙が晴れたときにザフトが目を凝らすと、神原は壁にめり込んで意識を失っている。


 こえーと内心思いながらザフトは治癒魔法を施しているドリフトに近づく。


「どうだ?」


「致命傷はないです。これなら一日休めば大丈夫でしょうね」


「ふぅ、心配かけやがって」


 ザフトはため息を零して傷だらけのナオヤを見る。


 魔法によって貫かれた傷などは塞がれているが、頬などについている浅い傷はまだ消えていない。


 生々しい傷跡をアテナは見つめていることに気づいてザフトが尋ねる。


「傍にいてやるか?」


「・・・・いい」


「気になるんだろ」


「この後は塔攻略にいくから、そんな時間は無い」


「はぁ~」


 何でこの子は不器用なのだろう。


 傷だらけの彼が心配なら心配だと素直にいえばいいのに、涙など流せばその不器用さもプラスの要因になる。だが、彼女は泣かない。


 無表情で相手を見る。


 だから誤解されてしまう。


――不器用で、笑うことも出来ない。


――さらにいうと七徳姫という厄介な称号を持っていることから信頼できる者いがいない。


――もし、この世界に神様の類がいるとしたら、ソイツの性格はかなり捻じ曲がっている。


 赤い空を見上げてザフトはため息を零す。


 ため息が零れたところで状況に変化は無かった。


「待てよ・・・・」


 ピッコーンとザフトの中で閃く。
















 目を覚ますと見知らぬ天井っていうのが定番なんだろうけれど、生憎、俺が利用している宿屋だとすぐにわかった。


 どうして、宿屋に寝ているんだと考えたところで思い出す。


 不良君との決闘、


 順調だったところで急にバランスが崩れて。


 矛が俺の体を貫いた瞬間。


「って・・・・何で、生きているんだ?」


 疑問を抱き、起きようとしたところで激痛が走る。


「いっつぅぅ・・・・」


 背中を丸めながら堪える。


 少しして、痛みが和らいでから服をめくった。


 そこには傷跡一つも無い、奇麗な皮膚だ。


・・・・自分の体を綺麗というのはナルシストなのでは?と思うかもしれないが傷跡とかなかったら当然の反応だと思う。



「治癒魔法は傷を塞ぐ、少し前の時間に戻すという感覚ですから、矛で貫かれた所もときを撒き戻したというのが正しいところですね」


「なるほど・・・・って、ドリフトさんは何でここに」


「一応、ザフト達と交代で看病していたんだ。時間がどうなったのか聞きたいなら教えるけれど、あれから二日過ぎたよ」


「二日!?」


「あぁ、無理してはいけません」


 起き上がろうとした俺をドリフトが押し戻す。


「と、塔攻略は!?」


「その前にザフトからナオヤ君へ伝えたいことがあるそうなんだ」


「ザフトから?」


 ドリフトはそういうと部屋から出る。


 入れ替わるようにしてザフトが入ってきた。


「ザフト・・・・えっと」


「元気そうだな。安心したぞ」


 ドカッと音を立てて椅子に腰掛ける。


 しばし、沈黙が続く。


「まぁ、あれだ。お前が無事でよかったぜ」


「え?」


「いやさ、魔法で治癒されるのはわかってんだけどよぉ、どうも仲間が目の前で貫かれるって言うのは良い気分じゃねぇんだ」


「それは」


 当然のことだろうという言葉を飲み込む。


 あの槍を使っていた不良君は――。


「なのに、アイツは、それをわかっていなかった」


 ザフトの表情は険しい。


 俺が意識を失っている間に何かが起こった。それだけはなんとなくわかる。


「悪いな、暗い話しちまった。さて、話が変わるわけだが、お前、今日から一日、フリーな!」


「・・・・はい?」


 しばし、間が空く。


 そして、俺は尋ねる。


「いや、どいうことだよ!?」


「そのまんまの意味だ。お前が意識失っている間に塔攻略をやっていたんだが、武器のいくつかが破損しちまってな。その修復作業が明日の朝までなんだよ。だから、お休みだ」


「・・・・え、えっと、それって」


「だから、お前は一日、街でのんびりするってことだ!いいな、傷も回復していないんだから塔攻略はするな。あと、これ!」


 ザフトは俺に一枚の紙を渡す。


 表紙をみると花びらと巨大な樹が描かれている。


「なんだ、これ?」


「今、ホワイトスノウっていう大樹が満開の時期なんだよ。その下で出店とかあるからそれで気分紛らわせて来い」


「え、それならザフト達が」


「悪いな」


 ポン、とザフトが俺の肩に手を置く。


「今日は仲間達と朝までうまい飯や酒を飲み食いするって決めているんだ。俺らより若いんだから青春を謳歌してこい」


 それだけ言うとザフトは部屋から出て行った。


 俺の手の中には一枚のチケット。


 押し付けていきやがったよ。


 手の中でしおれているチケットらしきものをしばらくみてから。


「ま、行って見るか」











「お、小僧じゃねぇか」


「よ、繁盛しているか?」


 その途中、トラーの店があったので、寄り道することにした。


「聞いたぞ、問題児と決闘したそうだな」


「噂広まるの早過ぎないか?」


「娯楽が少ないからな、噂ほど楽しいものは無いさ。それで、今日はどういった用件だ」


「これの修復できないかなと思ってさ」


 俺は羽織っていたミスリルブラックコートを卓上に置く。


 ミスリルブラックコートは槍の切り跡、俺の血でべっとりと汚れている。

流石にこれをきたまま花を見に行くというのはどうかと思い、トラーへ相談しに来た。


「これはほーう、魔器搭載の武器でやられたな?斬られた箇所、効力が落ちてやがる」


「治るか?」


「まぁ、全壊しているわけじゃないから、ある程度の補強でなんとかなんだろ。別にこれでなくてもいいなら、他のアイテムでも提供してやるぞ」


「いや、それを治してくれ」


 まだ数日しか使っていないが、俺はこのコートに愛着がわいていた。


 特に漆黒と銀のデザインがいいというわけじゃないけれど、使わないと落ち着かない。


「ほーう、まぁ、使い慣れてきているのに新しいものっていうのは誰もが抵抗感じるからなぁ、治せたら代金請求するから、明日までには治してやるよ」


「ありがと」


「じゃあ、迷わずにいくんだぞ」


「おう」


 トラーに見送られて店を出る。


 出たところで俺はあれ、と気づいて止まった。


 どこへ行くのかトラーはわかっていたような口ぶりだった。まるで、誰かから聞いていたような。


「いや、それはないか」


 俺の情報なんて誰も欲しがらない。


 自意識過剰も甚だしいな。


『こちらトラー、標的が目的地へ向かったぞ。オーバ』














「へぇ、結構人が居るんだな」


 塔からそれなりに離れた場所、銀色混じりの桜の大樹が並んでいた。


 恋愛小説などで木々が並ぶ学校というのがあるが、その木なんか目にならないくらい巨大でたくさん続いている。


「銀色の桜か・・・・」


 舞い散る花びら一つを手にとって見ると俺の世界にあった桜と酷似していた。


 樹の間を歩いていると木製のゲートらしきところで一人の女の子が立っている。


 その子を見て、俺は言葉を失う。


「・・・・ぁ」


 相手も俺のことに気づいたのか顔を上げる。


「ひ、久しぶりだな」


「・・・・うん」


 ゲートの前で立っていたアテナは白のシルクワンピース、スカートの部分にフリルがついているものを着ている。


 流れる銀髪や肌が余計に目立って多くの視線を集めていた。


 前に見た甲冑姿とは違うから、少し、本っ当に、少しだけなんだが、ドギマギしてしまう。


「お前も花見か?」


「花見?」


「あぁ、悪い、この樹の花が俺のいた世界の桜に似ていたからつい・・・・」


「そう、この樹、貴方の世界にもあるのね。知らなかったわ」


「お前の世界にはないのか?」


「・・・・私、覚えていないの」


 アテナは小さく呟いた。


 けれど、はっきりと俺の耳に届く。


「え?」


「私は元いた世界の記憶が無いの」


「元いた世界の記憶が、ない?」


 小さくアテナは頷く。


 なんともいえない空気に言葉が出ない。


 慣れていたら気の利いた言葉が出てくるんだろうけれど、生憎、そういうスキルはゼロに等しい。だから、俺は沈黙する。


 目線を動かしたところで彼女の手の中にあるチケットに気づく。


「なぁ、一緒に花見しようぜ」











 俺の提案にアテナは嫌がる様子をみせず、ついてきた。


 受付の狛犬?にチケットを差し出して樹木の中へ入る。


 ゲートを潜ると出店がいくつか並んでいた。


「腹減ったから何か食べないか?」


「うん、私が出す」


「いや、割り勘でいいだろ」


「わり・・・・かん?」


 首を小さく傾げるアテナ、美少女がその仕草をするのは少し危険だと思う。


 だが、面と向かっていってもこいつは理解しないだろう。


「二人で一緒に買って食べることだ。誰か一人が払うよりも楽しみが増す」


「そう、なの?」


「そういうものだ」


 他愛のない話をしつつ、俺達は串焼きを購入して、近くの大樹にもたれる。


 ずっしりとした巨体から舞い落ちる花びらを見ていると懐かしく思えるのは俺が桜だと考えているかだろうか。


 日本人は桜の季節に花見をする。それは俺の家でも例外じゃなかった。


 親類や友人達を呼んで桜の下で食べ物を味わう。酔った年長者がふざけて歌いだすのを子供達は手を叩きながら囃し立てる。遅くなってくれば片づけが始まるけれど、大人達は小さな酒でまだまだ楽しむ。


 そんな日とこの光景がどこかで重なっていた。


――やっぱり、俺は元の世界に戻りたい。


 退屈で平凡だったけれど、こんな世界に居るより遥かに――。


 花を眺めて決意を固めたところでアテナが口を開く。


「・・・・綺麗だね」


「そうだな」


「この前は、ごめんなさい」


 彼女の謝罪に俺は何を、とふざけたことはいわない。この言葉はあの時の、塔出現時のことだとわかったからだ。


「あれは、お前は悪くない。最低なのは俺だ」


「ううん、私が不器用すぎた」


 落ちてくる花びらをアテナは掌でそっと、掴むと優しく包み込む。


 その仕草だけで一枚の絵画をみているような錯覚に陥る。


「不器用で、貴方に負担をかけないように考えていたら、伝えるのが遅くなった。貴方が怒っても、怒れるのは当然」


「まぁ・・・・はっきりいうともっと早く教えて欲しかったという気持ちがあの時はあった」


「・・・・」


 沈黙するアテナ、その中でうずまくのは後悔か、別の気持ちか。


 それを察することは俺に出来ない。でも伝えないといけないんだ。


「今は、教えてくれなくてよかったと思っている」


「・・・・どうして?」


「もっと早く聞いていたら、全て嫌になって部屋に閉じこもっていたような気がするんだ。だから、アテナが教えてくれなくて今は感謝している」


「本当に、怒っていないの?」


「俺から聞くけれど、アテナは俺のこと、怒っていないのかよ」


「どうして?」


「だって、お前に酷いこといったし、助けてくれたのに恩返しすらしてないからさ」


 もっと早く謝りたかった。


 それがここまで伸びてしまったことに罪悪感を覚えつつも、謝れたことに安堵の表情を浮かべる。


 アテナは無表情だが、急に俺の肩に自分の頭を乗せた。


「お、おい?」


「許して欲しいなら、しばらくこのままにさせて」


「お、おう」


 小さな重みを肩に感じつつ、どうすればいいのかわからないから舞い散る花びらを見上げる。


「ねぇ」


「なんだ?」


「ボス攻略に貴方も参加するの」


「そのつもりだ」


「出来るなら・・・・貴方には参加して欲しくない」


「それは」


 俺が弱いからか?と尋ねるよりも早く首を横に振る。


「貴方が弱いという理由じゃない。ボスは今までのエネミーと桁違いの強さを持っているの。数多くの探求者が戦いを挑み、命を失った。貴方には死んで欲しくない」


「俺が命を落とすこと確定みたいに言うなよ」


 アテナの不安はボスと対峙した、何度も戦ったからくる経験から出るのだろう。


 でも、俺としてはその経験に当てはめられて欲しくない。


 はっきりいうと。


「俺は死ぬつもりなんて毛頭ない。ヤバくなったら逃げる。それぐらい、生きることに執着している」


「でも」


「逆に俺はお前が死ぬんじゃないかと心配だ」


「私は死なない。希望だから」


「じゃあ、誰かが死ぬかもなんていう不安を抱くな」


「あう」


 ペチンとアテナの額を指で弾く。ちょこっとの力を入れただけなのに、彼女の額がうっすらと赤くなる。


 肌が白すぎるってことだなとどうでもいいことを思っていると、アテナがこちらを睨む。


「痛い」


「そうか、それは良かった」


「意地悪だ」


「当たり前だ。誰かが死ぬなんていうのは考えるな。考えていたら、嫌になる」


「う、ん」


「だから、今日は楽しもうぜ。とことん楽しんで明日、頑張ろう!」


「うん」


 アテナが小さく笑い、俺達は樹の下で話しに花を咲かせようとした。


「いやぁ~~~~、何か桃色空間が形成されておりますなぁ」


「っ!?」


「てめぇは」


 聞こえた声に俺達は身構える。


 出店や人が行き交う中、ソイツにたにたと笑っていた。


「よう数日振りかなぁ?前よりも強くなったみたいじゃない」


「どうして、貴方が此処に」


「おぉっと、落ち着け落ち着け~、俺っちは戦いに来たわけじゃないから」


 アイテムカードを取り出そうとしたアテナをみて、ローブは慌てて手を振る。


 信用できないという目を向ける彼女を習うように俺もアイテムカードを取り出す。


「だから落ち着けって、こんなところで七徳姫とやりあうつもりなんざねぇんだからよぉ、何より――」


 大事なボス戦前なのに消耗しちゃっていいのかなぁ、というローブの言葉にアテナは無闇に動かない。いや、動けないんだ。


 アテナはボスと戦うことの危険性というものを誰よりも知っている。だからローブの言葉を無視できない。


「何のようだ?」


「ナオヤ・・!」


「おっ、そっちの兄ちゃんは話がわかるみたいだねぇ。安心したよ。そっちとはもっとやりあいたくないからさぁ」


「世間話しかしないのなら、失せて欲しいんだけど」


 こっちとしては殺されかけた過去があるだけに一緒にいたくない。


 そのことをわかっているのか相手はニタニタと笑みを浮かべる。


「まぁ、そうだよなぁ、決闘の最中に横槍いれられたら誰だって腹立たしいだろうし」


「・・・・は?」


「あれ、気づいていなかったん?兄ちゃんの足に魔力の塊を撃ち込んだん、俺っちなんだけど」


 その一言で俺の中であることが蘇る。不良との戦いで勝てたかもしれないというところで急にバランスを崩したこと、あれは俺のミスではなく、こいつが仕組んだことだった。


「お~、怖い怖い、まぁあのまま、あの不良君に勝たれると少し困るところだったのよ」


「・・・・それだけをいいにきたの?」


「おっと、話が脱線しますたなぁ。本題はこっからだぜぇ」


 ニタニタ笑みを絶やさずローブはある方向を指差す。


 ホワイトスノウで隠れて見えない塔。


「ボスのフロアが見つかるぜ。お待ちかねの全てを賭けた戦いがはじまる。今回こそ、人間は戦争に勝てるといいねぇ」


 それだけいいたかったのかイケメン野郎は転移してその場から消える。


 なんともいえない空気が漂う。


 楽しむという気持ちはこの場から消え去っていた。









塔攻略期限:残り1日。




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