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不良君との決闘


 隠し通路の戦闘、ザフト達の手助けを借りてからはや数日が経過した。


 あれから、手に入れたアイテムをギルドホームで鑑定してもらったところ、瞬間的な肉体強化を施すアイテムだということが発覚、だが、効果が切れた後は体力低下などという問題が起きるデメリットの危険度が高い代物だった。


 あんなものに命を懸けたと思うと自分がバカらしく思える。けれど、俺はどこか満足していた。


 強くなれることに近道は無い。


 それを教えてもらった。


 俺は近道なんて安易なものを選ばない。


 その中で俺は懲りずに塔攻略に乗り出している。


 ただし、


「ナオヤぁ!ラストいけぇ!」


「了解!」


 地面を蹴り、骸骨騎士の前に立つ。


 ザフトの曲刀で剣が振り上げられ、がら空きになっている胴体に突貫攻撃型のアクティブスキル【インパクト・ドレッド】が鎧を貫通して、相手の命を刈り取った。


 派手な光を放ちながら骸骨騎士のエネミー、スケルトン・ナイトは消滅する。


「よし!」


「やったな!」


 俺とザフトは両手をぶつけ、ハイタッチをする。


「大分、僕達の動きに合わせられるようになりましたね」


「短い期間だというのに、な」


「ナイスタイミングだったぞ!ナオヤ!」


「ザフトの指示が最適だっただけだよ」


「そっかぁ!照れるなぁ」


「リーダー、まだまだエネミーいるんだからそのニヤケ面やめて」


「ニヤケ面ってなんだよ!?」


「そうだな、確かにニヤケている」


「おいぃ!?ナオヤまでいうのか!さっきまでの友情は消えたのかぁ」


「友情関係ないだろ」


 騒がしいところは多いが、楽しいメンバーで、いい人達だ。


 あの後、俺は彼らへ塔攻略を続けることを宣言した。


 普通なら廃墟や周辺でもっと経験を積む必要があるんだろうけれど、少しでも強くなる為には塔で実戦が必要だと考えたうえだ。


 そうしたらザフトが、俺達と塔攻略しようと提案してくれた。ソロでは限界があることを知っている彼らからの提案に飛びつくかどうか悩んだが、彼ら曰く、早く一人前になって欲しい善意ということで押し切られてしまった。


 そして、俺達は塔の五階のフロアに到着する。


「この塔は何階で構成されているんだ?」


「だいだい、期限が設けられたのと同じ階数ですね。今回が七日間なら」


「もうすぐでボスのフロアにたどり着くわけだな!」


 ボスか。


 俺は石造りの天井を見る。


 ここのエネミーはザフト達の力を借りて倒すことが出来るほどに成長した。この調子ならボスも難なく倒せるんじゃないだろうか。


 そんなことを考えているとザフトに背中を叩かれる。


「ボーっとしてんだ?そろそろ帰るぞ」


「あ、あぁ」


「今日はゆっくり休め。多分、明日から他の連中も攻略速度を上げていくはずだ。装備も整えないといけない」


「ボスのフロアに近づいているからか?」


「それもあるけれど、期限が近いからだよ」


 俺はあぁと言葉を漏らす。


 塔には期限が設けられている。


 ギルドホームの受付口にカウントダウンが表示されている。


「期限が設けられているわけだけど、過ぎたらどうなるんだ?」


「崩壊する」


「何が?」


「ここが」


 ドリフトが指差したのは塔の床。言葉通りを指すのだとしたら、ここが崩壊するということなら。

 気になったことを尋ねようとしたらザフトが大きな声で叫ぶ。


「さて、戻るぞ!」


「「おう!」」


 そくささと先を急ぐ三人を俺は慌てて階段へ向かう。


 ギルドホームに戻るまで、彼らに追いつけなかった。












「てめぇ、舐めた態度とりやがって!表でろやぁ!」


 この日、ギルドホームに戻らなければ良かったと心底、思う。


 ザフト達がどうすればいいかと離れたところで様子を伺っている。


 俺は目で放っておいてくれと送る。


 どうして、こんなことになったのだろうと叫びたい。


 目の前では黄色い槍を背中に装備して、今にも殴りかかりそうな不良君。

こうなるのが何回目だろう。


 数十分前、俺とザフト達がギルドホームに戻りアイテムの鑑定の結果を待っていた頃、扉を開けて、あの不良君がやってきた。


 目を合わせなければ問題ないだろうと思っていたのだが、厄介ごとというのは俺の方によってくるらしい。


 少し遅れて、アテナがやってくる。


 アテナの姿を見つけると不良君が近づいて、ぺらぺらと何かを話し始めた。


 しかし、彼女は一言も返すことなく、受付へ足を運ぶ。


 あー、また振られたよ。


 なんて、考えていたら不良君と目が合う。あ、ヤバイと思っていたらいきなり絡まれて現在の展開に至った。


 はっきりって面倒すぎる。


「オラ!何かいったらどうだ」


「別に、舐めた態度とかをとった覚えは無いんだけど」


「あぁ?寝言抜かしてんじゃねえぞぉ」


 どうすればコイツは引き下がってくれるんだろう。


「おいおーい、何が気に入らないのかわかんねぇけど、騒ぐのもほどほどにしとけよ。ここはギルドホームだぞ」


「あぁ?黙ってろよ。NPCが」


「は?えぬ・・・・よくわかんねぇけど、これ以上暴れるならギルドホームの方に報告するぞ」


 みていられないと思ったザフトが俺と不良君の間に割り込む。


 ギルドホームでの争いは御法度、やりすぎれば探求者の資格を剥奪されることになる。だから――。


「チッ、だったらこれならいいだろ!」


 声高らかに不良君が叫び、俺に向かってデュエルカードを投げつける。


――神原タカトがデュエルを申し込んでいます。


――YesorNo?


 表示された内容をみて、俺はため息を吐きたくなる。隣に居るザフトも驚きを通り越して呆れた表情をしている。


「決闘だ!俺が勝ったらこれ以上アテナに近づくな」


「・・・・はぁ?」


 表示された内容に目を通す前に不良君が俺を指差す。


 いや、決闘云々以前に俺はアイツと関わるのやめたというか、アイツも話しかけてこないんだけどという言葉を飲み込む。


「一応、聞くけれど、俺が負けたら?」


「そんなこと万に一つもねぇだろうが・・・・そうだな、勝ったらアテナに近づくのをやめてやる」


「なるほど」


 頷いたところで俺はNoを押す。


 デュエルと表示されていたスクリーンが消える。


「なっ!?てめぇ、どういうつもりだ」


「俺にメリットがない」


 彼は俺がデュエルを受けると思ったのだろう。


 動揺を隠しきれず叫ぶ。対して、俺は冷たく返す。


「キミにとってはメリットがあるかもしれないけれど、俺の得になるようなことが一つも無い。受ける価値が無いって事だよ」


 表示が消えたデュエルカードを投げ返して背を向ける。


 ザフトに行こうと促す。


 塔攻略に時間を費やさないといけない状況でコイツと遊んでなんていられるか。


――神原タカトがデュエルを申し込んでいます。


――YesorNo?


 ギルドホームを出ようとしたところで俺の前に文字が表示される。


 今度もNoを押す。


――神原タカトがデュエルを申し込んでいます。


――YesorNo?


 Noを押す。


――神原タカトがデュエルを申し込んでいます。


――YesorNo?


――神原タカトがデュエルを申し込んでいます。


――YesorNo?


――神原タカトがデュエルを申し込んでいます。


――YesorNo?


――神原タカトがデュエルを申し込んでいます。


――YesorNo?


「しつけぇよ!!」


 次々と表示される文字に我慢できず叫ぶ。


 さすがの俺もこれは腹が立つ。


 振り返ると嫌な笑みを浮かべた不良がこっちをみている。


「だったら決闘だ」


 決闘することが当然みたいな態度に怒りのボルテージがさらに上昇する。コイツの頭は沸いている。そうに決まっている。


 呆れている俺の前に変わらずデュエルの文字が映っていた。


 鬱陶しい。


 一定の範囲内から抜け出せれば消えるだろうけれど、それまでコイツがつきまとうというのは迷惑だ。


「受ける必要は無い」


 Yesへ手を伸ばしたところで別の声が響く。


 先ほどまで傍観をしていたアテナが俺と不良君の間に立っている。


 俺と目を合わせず、不良へ視線を向けていた。


「今は塔攻略に全力を注がないといけない。こんないざこざをしている時間は無い」


「あ?これは男の問題だ。しゃしゃりでるな」


 不良君がギョロっとした目で彼女を睨む。


 どうやら邪魔されることを嫌うタイプのようだ。


「男、女、関係ない、今は」


「あぁもう、うっせぇええ!」


 尚も止めようとするアテナを突き飛ばす。


 後ろへよろめいた彼女を俺は慌てて支える。


「あう」


「大丈夫か?」


「・・・・うん」


 彼女の怪我が無いことを確認してから不良君を睨む。


「なんだ?俺が悪いって言いたいのか、そもそも口を挟んでくるのが」


「うるさい、黙れ」


 いつもより低い声が俺の口から出る。


 我慢の、限界だ。


 未だに表示されているYesの項目を俺は乱暴に叩く。


――赤城ナオヤが決闘を受諾しました。


――決闘モードの項目を選んでください。


 次々と表示される内容を俺は淡々と選ぶ。


「そんなに決闘がしたいんなら、してやるよ。ただし――」


 フルボっこは覚悟しろ。


 ギルドホームの中から裏口の広場へ移動する。


 決闘という言葉に多くの探求者や野次馬が集まってきていた。この世界に娯楽の類が少ないことと、息抜きもしたいという気持ちから突然、話題に上った決闘という観戦にきたのだろう。


「見世物じゃないんだけど」


「諦めろ」


「ばっさりだ」


 ザフトの言葉に俺はなんともいえない。


「そもそも簡単に決闘なんて受けるんじゃねぇよ!只でさえ、塔攻略期限が近づいているんだぞ」


「・・・・少し、我を忘れておりまして」


「気持ちはわかる、だが、何事に於いても冷静でアレ、でないとお前の身が危険だ」


 アイラントの言葉に俺は小さく頷く。


「ま、まぁまぁ、ナオヤも反省しているのですから、程ほどにしておいてあげましょう」


「ったく、これで攻略が遠のいたらお前の体で返してもらうからな」


「「「・・・・」」」


「無言で距離を置く!?」


「いや・・・・」


「それは、そのぉ」


「変態だったのか、お前は」


「・・・・ちげぇよぉぉぉぉぉおお!」


 言葉の意味を理解したザフトが叫ぶ。


 とまぁ、ある程度ふざけたところでアイラントが俺を見る。


「ナオヤ、デュエルは一対一の勝負。滅多なことがない限り妨害などは入らない。そこはわかるな?」


「あぁ」


「つまり、自分の実力で勝敗の全てが決まるということだ」


 だから、常に冷静でいろというアイラントの言葉に俺は頷く。


 ドリフトは離れたところにいる不良君を見てから俺へアドバイスする。


「彼は槍を使うようです。槍の間合いは通常の武器よりも広い。彼の実力がどの程度のものかわからない以上、無闇に近づくのは控えることです」


「オーケー」


 頑張ってください、とドリフトに背中を押される。


「えっと、まぁ・・・・あいつらがいいたいこといっちまったから、俺の言えることはねぇ」


「そっか」


「でもまぁ・・・・あれだ」


 ぽりぽりと頬をかきながらザフトが俺の背中を叩く。


「ムカつく事やったヤツはぶっ飛ばして来い!」


「おう!」


 広場の中央で槍を支えにしてもたれている不良君の前に立つ。


「遅かったじゃねぇか」


「あー、悪い悪い」


「ま、いいけどな。さぁ、はじめようぜ!」


 不良君がデュエルカードを空中に投げる。


 カードから文字が浮かび上がり、カウントが始まった。10、9、8、と減少していく数字、これが0になるまで攻撃は出来ない仕組み。それを破ってしまえばデュエルカードが壊れて、試合は無効。


 カウントが始まる中で、不良君は笑みを絶やさない。


 あの目は絶対に勝てるという自信に溢れていた。


 体勢を低くして拳を構える。


 エネミー戦闘とはどこか違う空気がビシビシと体に伝わってきた。


 塔攻略中、エネミーは元からそこにいたり、不意打ちという形で突然の襲撃をしてくる。けれど、この決闘は違う。


 相手は人間、何かの拍子で命を貫いたら?


「っ!」


 乱暴に首を振る。


 行き着いた考えを打ち消そうとしたところでカウントが0になった。


「おらぁ!乱撃ィィィ」


 開始と同時に槍を構えて、不良君が突撃してくる。


 連続で繰り出される矛の攻撃を俺はぎりぎりのところで躱す。


 この技が終われば相手は硬直する。


 そこを突けばいい!


「うぉらぁ」


「あめぇよ!」


 攻め込もうとしたところで不良が地面を足で突く。


 衝撃で体が地面から離れる。


「吹っ飛べやぁ!」


 防御する間もなく槍の柄が腹部を打つ。


 衝撃が体にダイレクトに伝わり、胃の中身が喉までくる。


 無理やり押し戻して、迫りくる攻撃を籠手で弾く。


――重たい。


 見た目に対して、使われている槍はかなりの重量だ。


 こんなものをほいほい振り回しているのかよ!


「でもなぁ」


 伊達に塔攻略でザフト達に鍛えられていない。


 相手がアクティブスキルを放つ体勢になっていたところでさらに深く間合いをつめる。


 アイラントから教えられた注意点、スキルを放つ態勢中は何があろうと止めることはできない。


 スキルなしの一撃を不良の顎に叩き込む。


 脳を揺らされたことで動きが鈍った。そこを渾身の一撃を放つ。


「てめっ、そんなので俺をたおしえぇると」


 呂律の回っていないようだが、何を言っているのかわかっている。


 どうやら、コイツは誰かに教わっていないようだ。ならば、勝てるぞ。


ドリフトから教わったのはスキルを放てば相手を一撃で倒せるだろうがどんなことがおきても良いように相手の動きを把握してから使えという。


 そして、ザフトからは――。


「徹底的に叩き潰す」


 自分のペースになったら相手の反撃を許すな。


 つまり、


「こっから先は俺のターンだ!」


 スキルなしの攻撃を次々と不良の体に叩き込んでいく。


 胸部や腹、躱すのが難しいところを的確に突いた。相手の体が頑丈なら同じ箇所を続けて殴る。


 不良君がふらふらと覚束なくなったところで籠手がライトエフェクトを放つ。


 これで、終わる。


 といったところで俺の体に衝撃がやってきた。


「ぐっ!?」


 激痛で体のバランスが崩れる。同時に放つスキルがキャンセルされてしまう。


 何が?


 突然の事に戸惑っているとダメージから回復した不良の矛が輝きに包まれる。


――マズイ。


 防御の体勢に入る前に槍が体を捕らえる。


「よくも、やってくれやがったな、許さねぇ、許さないぞぉ、ぶっ殺してやる!」


 殴られて怒りに染まった表情で槍の奔流が俺を飲み込む。


 なすすべも無く、纏っている衣服がずたずたになり、血が地面に飛び散る。


「俺の」


 不良の槍がさらに煌く。


 満身創痍の俺はもう動けない。


「勝ちだぁああああああ!」


 ずぶりと俺の腹部を貫かれる。
















 その瞬間、Win――神原タカトという表示が出された。












 俺は、負けた。


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