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赤の世界

新連載スタートしました。



 人はどこかで理解している。幸福とは平等に与えられないものだと、均等に与えられることなど決して無い。


 ならば、幸福を求めるものはどうすればいいのか。


 他者から奪い、自分に取り込む。


 仕方の無いことだと諦め、与えられる幸福で満足する。


 与えられる幸福に満足せず、自身で、幸福を掴むのみ。
















「はぁ・・・・はぁ、何なんだよ。一体!?」


 廃墟の街中を全力で走る。


 少し色素が薄いと思っている黒髪は汗まみれで、中のシャツもぴったりと張り付いていて気持ち悪い。


 それだけみれば、時間に遅れそうで全力で走っている学生、何かから逃走している学生ということでやりすごせるだろう。


 だが、俺がいる場所は廃墟、しかもただの廃墟ではない。


「何で、空が真っ赤なんだよ!」


 雲ひとつ無い血のように赤い空が広がり、足元は瓦礫や何かの残骸が散らばり、真っ直ぐ走ることは難しい。


 ジャリなどに躓きそうになりながら走り続ける。


 着ている制服はところどころ裂けて、ずきずきと痛む。


 少し前まで、普通の毎日だった。


 好きじゃない授業を眠気と戦いながら拝聴、学食に向かって全力疾走して四位のいちごサンドを手に入れた。放課後、友達の誘いを断り、駐輪場で自転車に乗ろうとしたときに起こった。


 壊れた建物、空に太陽が無く血のように赤い世界が広がった不思議なところ


 そして、


「来た!」


 届いた音に振り返った。


 赤い空の下、ズリュズリュと引きずるような音をだしながら赤いゼリー状の物体が複数、追いかけてきている。


 姿を見せた物体達は体の一部を変化させて襲い掛かってきた。


 致命傷になるようなものはもらっていない。


 殺されると思って逃げ出した。



 襲われたことによるショックとペース配分の考えない走りによって疲労がどんどん蓄積されて、喉が水分を求めている。


「ハァ・・・・ハァ・・・・だぁ!」


 物体から逃げようと足に力を入れた時、大きな石でバランスを崩して、顔から地面へ倒れた。


「くそっ」


 悪態をついて体を起こす。


 ポタポタと地面に血が落ちる。


 転んだ拍子にどこか切ってしまった。


 ジンジンとやってくる痛みに涙を流しそうになりながら顔を上げる。


「ひっ!」


 すぐ傍に赤い物体が、いた。


 目も鼻も、顔すらない物体は体をぶるぶる震わせながらこちらを向いている、いや、向いているのかすらわからない。


 死ぬ?


 そんな考えが頭を過ぎったところで銀色の光がスライムを過ぎる。


 胴体?を真っ二つにされてスライムは地面にドロドロと落ちた。


 俺の顔に赤い液体が付着するけれど、そんなことはどうでもいい。


 スライムの後ろ、そこに一人の少女が立っていた。


 血のような赤い瞳、銀色の髪、整った顔、雪の大地のような白い肌、それだけで美人だ。けれど、それを異色だと思わせるのは体を覆う銀色の騎士甲冑、そして身の丈を超える光り輝く剣、


 光り輝く剣、言い方を変えると光剣を携えて、周りのスライムたちを一振りで倒してしまう。


 べちゃべちゃした液体が地面に広がる。


 俺は呆然とその光景を見ていた。


 しばらくして光線剣を持ったまま、少女がゆっくりとやってくる。


「・・・・」


 赤色の瞳が真っ直ぐに向けられて、戸惑う。


「貴方・・・・飛ばされてきたのね」


「とばされた?」


 少女の言葉に俺は口をあける。


 別に喉とかをみせたいわけじゃなく、何を言っているのか理解できなかった。


「貴方の名前は」


「俺?俺は・・・・赤城、赤城ナオヤ」


「そう、大丈夫」


 答えると少女はニコリ、と微笑んで手を差し伸べた。


 俺はその手を見つめる。


 傷一つない綺麗な手を見てから、彼女の顔を見る。


「貴方を守るわ。私は希望だから」







差し出される白い手を見つつ、俺の中で言葉が浮かぶ。



“どうして、こんなことになったのだろう”と。
























 だるい授業を終えた放課後、長年愛用している財布を開ける。


「あぁ~、小遣いが残り少ないなぁ」

 財布の中を覗きこんでふかーいため息を零す。


 俺はここのところ財政困難、正確に言うと金に困っていた。


 別に家が貧乏、与えられる小遣いが少ないとかそんな理由じゃない。


 理由を挙げるなら。


「赤城~、合コンいっくぞぉ」


「またかよぉ、片隅ぃ」


「仕方ないだろ、人数が足りないんだ」


 友人の片隅が他校との合コンに誘ってくる。片隅の奴を簡単に紹介するとモテる!


 自校、他校問わず本当に女子にモテる。


 顔だけならそこまでモテない。


 コイツは性格も行動もピュアなのだ。


 どれだけ、相手が変な性格の持ち主だろうととことん受け入れ、気づけば片隅ハーレムなんていう集団が形成されはじめている。


 こいつはそんなことお構いなしに合コンに参加する。


「あのさ、思うんだけど、お前の周りにいる子で誰か選んでもいいんじゃね?というか俺を巻き込むのはやめて欲しいんだ」


「は?」


 俺がいうと何言ってんの、コイツみたいな顔される。


 あぁ、まただよ。


「あいつらは友達なの、俺は衝撃的な出会いが欲しいんだよ。なんていうの?こう、頭にビビビ!と電撃がくるような出会いが欲しいわけ!今まで出会った女の子はなし崩し的に巻き込まれて助けたみたいな感じじゃん、そんなので付き合うなんて、アクション映画じゃないんだからさ。俺が求めているのは運命の出会い!なわけよ」


 心の中で何度目かになるため息が零れる。

 何の影響かわからないか、片隅は運命的な出会いをして、恋をすることを望んでいる。

 俺からすれば、今まで知り合った女の子との出会いが運命の出会い染みたものばかりなんだが、どうも、アイツの中では違う。


「お前って、本当に幸せものだよ」


「そうか?とにかくさ~、赤城、お前も付き合ってくれよ。人数足りないし、お前がいないと楽しくないんだ。彼女については俺が説得するからさ」


「金が厳しい」


「俺が奢るからさ」


「そういって、奢らなかった回数がそろそろ二桁突入なんですけどぉ?」


「うぐっ」


 片隅は何かと合コンに誘う。

 俺がいれば、運命の出会いがしやすいそうだ。こっちとしては願い下げだ、お金は減るし、厄介ごとに巻き込まれる。最終的に女の子は片隅を好きになる。


 さらにいえば、奢る奢るといったのに、厄介ごとの為に最終的に俺の財布からお金が飛んでいくことは当たり前、友達として付き合うのもどうかと思う。


 もし、コイツに好意を寄せている女達に利用されようものなら絶交している。今のところそういったものはない。


「今回も払わないっていうんなら、俺は参加しない。お前は一人で相手を見つけな、アディオーース!」


「あ、待てよ!」


 振り返らずに俺は帰路へ向かう。


 合コンへ行けば高確率で女の子と遭遇、厄介ごとに巻き込まれる。俺が苦労して、金銭がなくなる


 こんな不公平に巻き込まれて堪るか。


 後ろで何か言っている片隅の言葉を聞き流して帰路に向かう。



それが、日常いつもの終わりになるなんて思ってなかった。



「金が少ないと本当に不便だよなぁ」


 財布をポケットに押し込んで、駐輪場で自転車に乗り込む。


 来週には定期の更新がある。


 喫茶店でやっているバイトの金も定期代で消える。


「はぁ、金欠って、嫌だな」


 合コン、生活費、その他、もろもろで金が飛ぶ。


 金は天下の周りもの。


 溜めようと思っていてもすぐに飛んでいく。


「はぁ、どこにでもいいからお金落ちてないかなぁ」


「お金が欲しいの?」


 後ろから声がかけられる。


 振り返ると小さな女の子がいた。


 白いゴシック調のロングドレス、頭にはウサギ耳を模したカチューシャ。


 流れるような銀髪、黒い瞳は真っ直ぐにこちらへ向けられている。


「なんだ?」


「お金が欲しいの?」


「まぁ、欲しいといえば、欲しいかな。あ、でも、お金をあげるというのは無しで」


「どうして?」


「家の方針で、お金を稼ぐなら自分でやれ、他人の力を宛てにするなっていわれてんだ」


「どうして?」


「どうしてって、自分で金を稼ぐことの大事さを知れってことだと思うよ?」


 両親は色々な苦労の末に結婚した。その時に金の大事さというものを知ったらしく、家訓として俺に残すように言っている。

 まぁ、他人から奪うなんて絶対にしないけどな。


「そう」


「話はそれでいいか?てか、変な格好・・・・あら?」


 今更ながらの指摘をしようとしたところで、女の子は影も形も無かった。

 はてな?


 俺は自転車に乗ろうとする。


「あれ?」


 自転車が無い!?


 さらに、驚いたのは周りが廃墟になっていることだ。


 コンクリートのいたるところが砕け、コケや雑草が伸び放題、何よりも、空だ。


「なんだよ・・・・この空?」


 夕焼け空だったことをさておいて、目の前に広がるのは血のように赤い。

 真っ赤な空に蒼い月という組み合わせ。

 一体、これはなんなんだ!?



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