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01. 例えばこの声が届かないとしても

例えば、私は子供で、あなたは少しだけ年をとった子供で。

だからそれが理由になるだなんて、わたしにはわからないまま。


 兄にくっついて出会った兄と同じ年の男の子は、背だけがひょろっと高い、それでも身近な「男の子」だった。

年は離れていたけれど、ずっと幼い私とむきになってゲームで対戦したり、本気になって漫画の続きを予想したり、同級生の男の子たちより、ずっとずっと私にとっては気安い男の子のはずだった。

だけど、気安く、なんてなくなったのはいつごろからだったのかは覚えていない

いつの間にか勝手にどきどきして、同じ部屋にいるってだけで緊張して。そんな自分がおかしいんじゃないかって思って。

ぐるぐる回って、それでもどきどきして。顔を見なければいい、って思っても、見なければ寂しと思う。

時間がたてば変な私じゃなくなると思っていたのに、ちっとも治まらなくて。

いつのまにか足は彼の家のほうに向いて、いつごろからか兄も訪れなくなった彼の家の前をうろうろしたりしていた。

私のこの症状が、あれだ、と断言してくれた友達のおかげで、私は図々しくもまたこの部屋に入り浸るようになっていた。

今日もまた、本を口実に彼、夏樹の部屋に入り込む。


「あのなぁ」


少しだけ嫌そうな顔、だけれども完全に嫌だけじゃなくって。

そう思うのは、私がそう思いたいだけなのかもしれない。

物が多い部屋は、それなりに整頓されていて、私は目的の本を取り出す。

無造作に床の上に座り、続きを読み始める。

本当は、どきどきして、それどころじゃない。

でも、そんなことはないってふりをして、ページを必死に目で追っていく。

夏樹も同じように本を読んでいる。

難しそうなタイトルのそれは、私には理解できない。

それが、私と夏樹の距離のような気がして、ちくちくと痛む。

私は、子供で。

だけれども、夏樹も同じだけ子供で。

いや、違う。

偶然外でみかけた夏樹は、私が知っている夏樹とは全然違って、それが嬉しくて悲しかった。

私が知っているのは、この部屋にいる夏樹。

あの時、彼の近くにいた女の子たちが知っているのは、私が知らない夏樹。

私は知っていて、私は知らなくて。

でも。


「大好き」


本から顔を上げ、横顔の夏樹に告白をする。

滑り落ちるように零れ落ちた言葉は、内容とは裏腹にとても落ち着いた声で響いた。

それは突然で、夏樹はそれを理解できない、っていう風な顔をする。

それでもこちらをびっくりしたような顔をして見つめる彼がおもしろくて、私はできるだけ大げさに笑顔を作る。

そう、これが私の中でずっとずっとうずくまっていた気持ち。

私は、夏樹が好き。

何も言わないまま、ただおどろいたままの夏樹を眺める。

心のどこかがちりり、と痛む。

きっと、夏樹は本気にはしないだろう。

私は子供だから。

でも、声にだした言葉は、ゆっくりと私の中に入り込んで、しっくりと馴染んでいった。

誰かに言われたからじゃない。

私は、夏樹のことが好き。

届かなくても、口に出した告白は、私を少しだけ満足させた。

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