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絶対に守る

 「このダンジョン『ウワバミ』の主、神無月黒だ」


 倒れ伏して動けない俺の耳にそんな言葉が入ってきた。


 (な、なに…、来てるんだよ……)


 怒鳴りつけたかったが、すでに言葉を口にすることすらできない。

 必死に動こうとしているのに、意識に反して体が動かないのだ。


 (こっちに来るんじゃねぇよ……。

 お前は…、俺等の主だろう)


 黒を知っている自分にはわかる。

 狂信者に自身の名を名乗った時、僅かにその声が震えた事を。

 仲間に対して度が過ぎるぐらい甘く、侵入者に対しては冷徹。

 でも亡くなった侵入者に、あとで一人こっそりと冥福を祈るような優しさを持つ。

 本当は殺す殺されるような今の状況はあまり望んでいなかったのだろう。

 でも俺の、仲間のために、大切なものを守るために黒は戦ってきた。


 (甘い男だよ……)


 きっと今だって、狂信者と相対して怖いくせに、それでも戦ってくれた俺達のためにここまで来たのだろう。


 (お前が主でよかった)


 他の主がどんなのか知らないが、きっと黒以上にそう思える主はいなかっただろう。


 (だから……、そんなお前だから、俺は守ろうと思ったんだ)


 動けない体に最後の力を振り絞って力を入れる。


 (何もできずに、お前を殺されるのを見るなんて……、ご免だ!!)


 命を燃やし、震える足に力を込めて立ち上がる。

 周りを見れば、脚を失い白目を剥いて気絶していたアラーネアも歯を食いしばりながら、地面に手をつき這ってでも駆け寄ろうとしており、クロコディルも歯を塞いでいた爪を力任せに無理やり抜きとり、口がズタズタになりながらもそれでも闘志の光が消えない目を狂信者に向ける。


 皆気持ちは同じだ。


 (黒……、お前は絶対に守るぜ)


 そう心で誓ったとき頭に声が聞こえてきた。






 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 狂信者ナティコスは突然現れ自らをダンジョンの主と言ってきた男を殺そうとしていた。

 ダンジョンの主が人間であるということに対して特に疑問を持たず、ただ敬愛する自身の神に対して供物が増えた程度にしか思わなかった。

 そして、殺そうと一歩足を踏み出した瞬間背後から殺しそこなった化け物が起き上がる気配を感じた。

 化け物どもはしぶといな~、イライラとした気持ちで死に損ないの化け物と目の前の男どっちから殺そうか迷った時、背後の化け物の一体の気配が急に変わった。


 その気配は狂信者にしても無視できるものでは無かった。


 加護を授かってから、感じた事のない危機感を背中に感じた。


 迷っている場合では無かった。

 一刻も早く殺さなくてはいけない。

 殺さなければ殺される。

 狂信者は背後の気配にそんな思いを感じ、すぐに背後の気配に向かって振り向きざまに爪を斬り付けた。





 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆



 黒の足は震えていた。

 それは狂信者の目の前に来るまで全力で走ってきただけのせいでは無い。

 モニターとは違い、直接目で見て肌で感じる狂信者の気配に押されたのだ。

 それでも黒は狂信者から目を逸らす事だけはしなかった。

 なぜなら狂信者に目を向けながらも、その視界の隅に血だらけで横たわる仲間達の姿が見えたからだ。

 大切な仲間がいる前で、主として、仲間としてカッコ悪い姿を見せるわけにはいかない。

 だから堂々と胸を張って、狂信者の問いに答える。


 「このダンジョン『ウワバミ』の主、神無月黒だ」


 黒が答えた瞬間、狂信者の目が鋭くなり先程までとは段違いな気配が黒を襲う。

 少しでも気を緩めば、気を失いそうになる。

 だがそれを拳握り、歯を強く噛みしめてこらえる。

 気を失うことはできない。

 今狂信者の獲物は俺になっている。気を失ったら俺は獲物から外れるかもしれない、そうしたら狂信者がどう動くかまったく予想ができない。

 少なくても、ここで俺が死ねば戦わなかった仲間達は助かる。

 ムースに辛い思いをさせてまで万魔事典を託した。


 手が無く、策も無い以上仲間として、そして主として俺に出来ることはここで死ぬ事だけだ。

 だから、必死に我慢して気を失わないようにする。



 狂信者の方はどうやら俺を殺す気になったのか、ゆっくりと俺の方に近寄ろうと体を動かそうとする。

 だが狂信者が動こうとした瞬間、背後から狂信者に負けず劣らない気配が伝わってきた。


 その気配は狂信者の者とは違い、温かくまるで俺は守るように包み込んでくれる。


 気配の持ち主が誰かなんて見なくてもわかる。

 なぜならこの守るように包み込んだ気配からは心に直接響くように、そいつの思いも伝わってきたのだから。


 「…………だ」


 モニターで倒れた瞬間、気持ちにぽっかり穴が開いた気がした。


 「………んだ」


 狂信者と相対して、その背後に仲間が血だらけで倒れているのを見て死を意識した。


 「……のんだ」


 今まで我慢していた涙が次から次に溢れてくる。

 その涙をぬぐうことなく、俺は力の限り、いつもの様にあいつに声を、誓いの一文を口にする。


 「頼んだぞ!ヤード!!!!!!!」

 「ウォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!」


 俺の言葉にヤードは咆哮を持って答える。






 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆




 ≪一定数の戦闘をこなしました。

 一定数の獲物を捕食しました。

 一定数の知恵を身につけました。

 加護【義の心】により掛けられていた制限を突破しました。

 全ての一定数が上限に達しました。


 新しい加護【盃を交わした誓い】を任侠の神ブライから授かりました。

 新しい加護【誓いを守りしとき】を契約の神オウスから授かりました。


 魂は安定しています。


 次の段階への向上意思を確認しました。


 次の段階へと進化します。


 新しい加護を授かったことによる急激な体の変化があります。

 新しい加護を授かったことによる制限が新たに設けられます。


 ゴブリンから新たな種族に変わります。


 あなたの未来に幸あらんことを≫





 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 頭に声が聞こえたと思ったら、次の瞬間には体中に急激に力が溢れてきた。


 (これが、進化ってやつか)


 頭に聞こえてきたのが進化する際に聞こえる声で、俺が今進化できたのはどうやら制限を超えたことによるらしい。

 新しい加護を授かったことで制限を超えられたのか、それとも制限を超えたから新しい加護を授かったのかはわからないが、力を振り絞っても立ち上がるのがやっとだったのが、今では力がみなぎって仕方が無い。

 筋肉はミチミチと音を立て、骨も音を立てながら成長していく。

 あいにく狂信者につけられた腹の傷は進化したからと言って治る事は無かったが、成長した筋肉を引き締めることで強制的に傷口を塞ぎ出血を止める。


 (あぁ、これなら守れる)


 この力さえあれば主を、仲間を守ることができる。

 そう感じたとき、力強い声が俺を突き動かした。


 「頼んだぞ!ヤード!!!!!!!」

 「ウォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!」


 俺は咆哮を上げ、爪を振ってきた狂信者に向かって拳を打ち付けた。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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