巣は千切れ、刃は折れ、牙は砕ける
「ヤード!ヤード!返事しろ!!」
頭に主からの通信が響く。
(うるせいよぉ、そんな何度も名前呼ばなくても聞こえてるよ)
そういつものように答えたかったのだが、口からは血が出てくるだけでうまく言葉を紡ぐ事ができない。
(油断しているつもりなんて無かったんだがな)
もとから狂信者相手に油断などしているつもりは無かった。
アラーネアの糸から自身の体を千切り脱出した狂信者を見ても、墓の二人は動きを止めたが、自分だけは動きを止めることなく攻撃を仕掛けていた。
腕が無い今なら仕留めることができる。
そう思い首を狙った愛刀の一撃は狂信者の顔にめり込み防がれてしまう。
めり込んだ先から力任せに愛刀を押し進ませようとしたが、刃は肉を切り裂き進むことなく、逆に回復され治っていく肉に取り込まれて動かなくなってしまう。
そのわずかな隙に、腹を抉られてしまった。
何度も何度も抉られた腹は内臓をズタズタにされ、体を動かせなくなる。
普段ならば魔族の回復力の高さで傷口が治って行くのだが、今は狂信者の加護のせいで回復もしない。
(クソッ、何か手を打たねぇと本気でやばいぞ)
自身の回復力の高さを利用される事を考えると、余計に狂信者の危険度が増す。
地面に血を流しながら倒れ伏しながらも、ヤードは懸命に頭を働かせて打開策を考える。
「ほら!ほら!ほらーっ!
どうしたんですかこの化け物蜘蛛、さっき私を縛って得意げになっていた元気はどこ行ったんですか?
まさかあんなつまらない糸で偉大なる私を封じられるとでも本気で思っていたのですか!!」
「うるさい奴じゃのう。
まったく育ちが知れるぞ?このマヌケが!」
長く伸びた爪を振るいアラーネアを攻撃しようする狂信者、その攻撃を軽々といなしつつ脚で狂信者の体を何度も穿つがその傷は脚を抜いた瞬間には何事もなかったように回復していく。
「まったく忌々しい加護じゃ」
「それはこっちのセリフだよクソ化け蜘蛛が!!
いいから大人しく殺されろよーーーーー!!!」
攻撃しても効果が無い事に嘆息しながら呟いたアラーネアの言葉に、激高した狂信者が上段から爪を振り下ろそうとする。
「戦闘技術が低いからどうにでもなるが、確かにこれは厄介だな」
がら空きになった胴体をクロコディルが噛み千切る。
半月状にがら空きになった胴体、だがそれも一瞬の事すぐに傷口はふさがる。
傷口は治るそれでも痛みはあるのだろう、狂信者は痛みに絶叫する。
「ぎゃがぁーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
「しかもかなりまずい肉だ」
「まさしく毒にも薬にもならん奴じゃな。
いや害悪と考えれば毒にはなれるかのう」
痛みに悲鳴を上げる狂信者を見ながらこれからどうするか考える。
致命傷は与えられない。
こちらは傷を負ってはいけない。
負けないにしても勝つ事ができない戦いだ。
「さっき心臓を貫いたが、それでも生きておったからのう」
「なら狙うは頭か?」
「そうじゃろうな。
じゃが奴も頭だけはしっかり守っておるからのう」
戦闘技術がつたない狂信者でも頭えの攻撃だけは身を犠牲にしてでも守ろうとする。
「しかも腕を千切って脱出して以来、技術はともかく肉体に関してはどんどん強くなってきておるぞ」
驚異成長が爪しか効果が無いとしても、肉体には超回復という機能が元から備わっている。
痛めた筋肉はその痛みを乗り越えて前までもさらに頑丈に強くなろうとする。
狂信者の肉体は驚異成長がなくても驚異的な速さで肉体を超回復させ強くなっていた。
そのため鋼にも匹敵するアラーネアの脚にはいくつもの切傷が生まれていた。
「時間をかければさらに危なくなるか……」
「それにヤードの命も危ないしのう」
回復しない傷を負ったヤードに残された時間は少ないだろう。
「ならさっさとケリを付けるとするか」
「そうじゃな」
そういうと同時にアラーネアが狂信者に向かって糸を飛ばす。
「そんなもん喰らうはずないだろうが!!!」
爪を振るい飛んできた糸を斬り落とす。
もとから簡略的に作った糸だ、簡単に斬られてしまう。
だか一瞬の時間稼ぎにはなる。
「なら、これならどうじゃ?」
糸に気を盗られたいたすきに、アラーネアは地面をけり飛びあがると八本の脚を同時に狂信者に向けて飛びかかった。
「チッ」
舌打ちをしながら向かってくる脚を爪で弾く、それでもどうしても二本の腕では弾ける量は決まって来る。
一本、二本と弾いていたが、三本目をどうにか弾いた時点で残りの五本の脚が狂信者の体に突き刺さる。
四肢にそれぞれ一本ずつ、そして胴体に一本脚を突き刺したアラーネアは背後にいたクロコディルに叫ぶ。
「今じゃ!!」
四肢を突き刺され封じられた今なら頭を噛み千切る事ができる。
アラーネアの叫びに背後からクロコディルが勢いよく頭めがけて飛びかかる。
「だ、か、ら、甘いんだよこのクソ化け物どもがーーーーーーー!!!!!!」
封じられた四肢を無理やり動かして、自身の腕を千切り解くと、自由になった腕で飛びかかって来るクロコディルの頭めがけて拳を叩き付ける。
飛びかかる勢いおいがあり、硬い岩のような皮膚があるクロコディルに殴りかかっても普通なら拳が砕けるだけ。
実際にグシャという音と共に拳が砕ける。
だが、それでも狂信者の拳は止まらない。
砕かれた拳がすぐに元に戻りそのまま殴り続ける。
砕けて、治り、砕けて、治り、砕けて、治り、砕けて、治り。
迫りくるクロコディルに何度も拳をぶつけることで弱い拳でも、飛びかかってくるのを防ぎきった。
「このクソワニが!私を食べようなんて一億年は早いんだよ!!!」
そう叫び上下から爪を口に突き刺し、クロコディルの口を塞ぐ。
「~~~~~~~ッ」
閉じられたせいで悲鳴も出せない。
「クロコディル!」
アラーネアは急いで口を塞ぐ爪を抜こうとするが、狂信者の腹を突き刺した脚が回復に巻き込まれて抜く事ができず、その場を動く事ができない。
「脚がそんなに多くあると斬り落としがいがあるな~」
ニヤニヤとした笑みを浮かべ、狂信者が動けないアラーネアの一本の脚の付け根に爪を指し込むとそのまま抉り取るようにして、脚を斬り落とす。
「ガッ」
走る激痛に涙が出てくる。
このままここにいてはいけない。
何とか脚を抜こうとするが、脚は胴体からピクリとも動かない。
その間にも次の脚が抉り切り落とされる。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
失っていく脚の激痛で気が変になりそうだった。
必死に脚を抜こうし、暴れ、狂信者に殴りかかるが狂信者は全く気にする様子も見せずに脚をどんどん抉り切り落としていく。
そうしてすべての脚を抉り落とされたときには、アラーネアは痛みで白目を剥き気を失ってしまった。
「あとはこのクソワニの皮でも鞣としますかね」
そう言って口が開けないクロコディルを再び殴り続ける。
何度も何度も拳が折れるのを気にしないで何度も殴り続ける。
もちろん口が塞がれているとは言えクロコディルには他にも攻撃手段はある。尻尾による勢いを付けた打撃もそうだし、人型になったおかげで両手も使える。
だがクロコディルが尻尾でブン殴り、両手で押さえつけようとしても狂信者の動きは止まらない。
殴って殴って殴り続ける。
アラーネアもクロコディルも見甘っていた。
狂信者の脅威はその回復力でも、増していく力でもなかったのだ。
ただ狂ったように行動をし続ける、そのイカレタ信念による行動力こそが狂信者の本当の脅威だったのだ。
やがて狂信者の拳の勢いに押され、クロコディルの体はボロボロになっていく。
顔は腫れあがり、体中どこもかしこも青痣だらけとなったクロコディルはついに抵抗もできなくなりその場に倒れ伏す。
ヤード、アラーネア、クロコディル。
ウワバミが誇る最強の戦力が一人の狂信者に敗れ去った。
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