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閑話 ムースの独白

美人メイドムースの独白

 魔族の住んでいる土地に魔王様―、いえ現在はアクノマ商会代表と肩書が変わったクラウン様が全ての魔族に一つのプロジェクトを発表しました。

 『デビルズ・ダンジョン』、そう名付けられたプロジェクトの内容が発表されたその瞬間から、それまであった空気がガラリと変わりました。

 それまでどこか冷たい空気の入った破裂寸前の風船のようなだった雰囲気が、その日からは今にも噴火しそうな火山の熱気を持った雰囲気に変わったのです。

 

 どちらも危ないだろうと思うかもしれませんが、私達魔族の感覚からすると風船の爆発はくしゃみで死んでしまったぐらいつまらない感覚で、火山の方は花火のように煌びやかに輝きながら死んでいくという感覚です。

 華々しく輝いて死ぬ。

 そこに魔族はある種の美学を持っているのです。

 

 プロジェクトの内容が発表された次の日から、多くの魔族達が説明のあったプロジェクトへ参加する資格を得るために万魔事典に登録しに行きました。

 老いも若きも、男も女も、見上げるような大きな体格を持ったサイクロプスの一族から、羽の生えたハーピー族、火を纏ったサラマンダー一族に食獣植物の一族まで魔族のありとあらゆる種族が登録していました。

 登録に来た者は皆種族は違いますが一様にその表情は同じで、期待や希望で輝いています。

 

 そんなありとあらゆる種族が登録する中、私達ホムンクルス一族は万魔事典に登録をせずに、ただじっと登録する他の種族を羨ましそうに見ていました。

 魔族の血が流れているこの体は、間違いなく戦いを求めています。

 ですが騒ぎ出す血を、理知的な頭と冷静な心がブレーキをかけるのです。

 

 戦う力が無いものが登録してどうするのだと……。

 

 強いものに従う魔族の中には戦う力を持っていない私達一族のものを馬鹿にする者が多いです。

 もちろん全員が全員そう言うわけではありません。

 私達を馬鹿にするのは、腕力だけに頼ったまだまだ下っ端に近いものが多く、本当に力がある人物達ほど、私達のことを重宝し立派な戦力だと言って下さいます。

 

 「お前達がいるから安心して後ろを任せられる」

 「君たちのおかげで私の体調はいつも万全だ」

 「私が輝けるのも常に影で力を貸してくれたあなたのおかげよ」

 

 そうしてかけられる言葉の数々が、戦えないホムンクルス一族に魔族としての誇りと自負をもたらしてくれます。

 

 

 

 プロジェクトが発表されてから数日経ったある日、私達ホムンクルス一族は一族の当主が住む屋敷に全員集められました。

 こんなこと年始の挨拶の時以外無かった事です。

 広い屋敷の一角に集まった一族の者は、みな口々に話しあいます。

 話題はもちろんプロジェクトの事、そしてこれからの私たちの身の振り方について。

 そんな話をしていると、やがて当主様が皆の前に姿を表します。

 当主様は一族で始めて造られ生まれた私達の始祖たる方、かなりの年月を生きているはずなのにその姿は若々しく、一族の象徴ともいえる銀色の髪は今も光り輝いています。

 当主様が姿を現した事で、集まった一族の者は話すのを止め静かに当主様の言葉を待ちます。

 集められた一族の視線が全て集まったのを確認した当主様はゆっくりとした口調で語り出します。

 

 「昨日、この屋敷にクラウン様が訪ねてまいりました」

 

 その言葉に口を閉じていた一族全員がざわつきます。

 メイドとしてその態度は大変失礼に値する態度なのですが、クラウン様がわざわざ自身から訪ねるなんて、それは一大事な出来事だったので仕方ないでしょう。

 当主様もそれがわかっているので、口に出して注意することは無く、ただ気配を強め一睨みします。

 それだけで私達は口を閉じ、ざわめきは収まります。

 

 「訪ねられた理由ですが、ひとつ私達一族にお願いがあるそうです」

 

 クラウン様からのお願い。

 再びざわつきそうになりますが、先ほどのことがあるので皆懸命に口を引き締めしゃべることを我慢します。

 

 「お願いの内容は『異世界から来たものたちのサポートをして欲しい』とのことです。

 詳しいことはまた後ほど話しますが、つまりは戦闘面以外でプロジェクトの手伝いが出来る場を用意していただいたということです。

 どうやらクラウン様は私達の心情を理解していたようですね」

 

 当主様の言っている事が最初理解できませんでした。

 

 サポートをして欲しい?

 誰を?どこで?

 

 理解できなかった言葉はやがて胸に沁み、頭がその言葉の意味を理解し始めます。

 そうして理解出来てくると知らず知らずに気分が高揚し笑みが浮びます。

 

 私達ホムンクルス一族は表情が顔に出にくいのですが、今は屋敷に集まった全員がそれその顔にはっきりと笑みと分かる表情になっています。

 それほど嬉しい事なのです。

 嬉しさのあまり漏れる歓喜の声は、しだいに高まり同族達と嬉しさの涙を流し合いながら互いに喜びあいます。

 ざわつきを通り越して賑やかになったの見ても当主様は止めることは無く、ただ黙って喜びをあらわにする私達を優しい瞳で見ていました。

 

 

 

 それから私達は戦闘をしない者専用に作られた従者契約の万魔事典に登録しました。

 私達ホムンクルス一族以外にも戦闘能力に自信のない少数の一族や個人がここに登録します。

 

 万魔事典に登録した日から、私は無表情の下に高揚するこの気持ちをしまい日々マスターとなる方に呼ばれるのを待っていました。

 

 

 

 

 

 そして召喚されたあの日、私はマスターと呼ぶにふさわしい人と出会いました。

 黒髪に黒眼をしたマスターは私を呼んだことで疲労されたのでしょう。

 倒れそうになるのを見て、慌てて後ろに回り込み背中に手を添え支えました。

 

 背中から感じる体温に、私の体温も上がっていく気がしました。

 

 その後私の言葉通り大きく深呼吸をされ落ち着いたマスターは、振り返り私の目を見て感謝の言葉を述べて下さいました。

 魔族の中には力の強いものには奉仕されて当たり前と考えるものが多くいますので、こうやって感謝の言葉を、それも目を真っ直ぐに見て述べられただけで嬉しくなります。

 

 それからマスターに私の事を話し、私の名前が無いことを知るとマスターは私に名前を下さいました。

 

 『ムース』、今からそれが私の名前。

 

 名前を貰った瞬間、心の中にマスターとの見えない絆が出来たのがわかります。

 その絆から伝わって来るマスターの思いは、とても温かく心地よいもので思わず頬が緩んでしまいました。

 

 …………緩んだと思ったのですが、マスターの表情を見る限りどうも表情は変わらなかったようです。

 これはもっと私の事を知ってもらう必要があるかもしれません。

 

 マスターはその後、ダンジョンについていくつか質問されてきました。

 私はダンジョンを造ることはできませんが、ダンジョン事については事前にクラウン様から情報をいただき、何も見ずに説明できるほど覚えていたのでマスターの質問に戸惑うことなくスラスラ答えていきます。

 

 質問に答えるたびに、ありがとうと感謝の言葉を述べ小さく頭を下げるマスターの姿に私の心は高鳴っていきます。

 

 そしてマスターは最後の質問で、自分の死んだあとのことについて聞いてきました。

 聞かれたくない質問でしたが、聞かれたからにはメイドとして素直にその質問に答えます。

 

 「マスターが亡くなった場合、契約解除となり私は元いた場所に送還されます」

 

 そして、その後私の気持ちも素直に伝えます。

 

 「ですが私はマスターのことを信じていますので、そんなことは無いと考えております」

 

 マスターと会って、まだそれほど時間は経っていません。

 ですがすでに私はマスターには死んでほしくないと心の底から思っています。

 

 私のそんな気持ちが通じたのか、マスターは笑顔で答えてくれます。

 

 「ならその信じる心に答えないとね」

 

 その答えがどれほど嬉しいことか。

 

 「ありがとうございますマスター」

 

 私は心から感謝の気持ちを込めて頭を下げます。

 

 

 

 

 

 マスターは知らないでしょう。私達のホムンクルス一族の生まれた理由。

 

 それは病で先行く場の無いある一人の女性の魔族が、家事の一切できない愛する夫のために少しでも助けになるようにという思いと、死んでしまっても私を忘れないで欲しいという願いを込めて、知識を振り絞り、失敗の可能性の方が高かったというのに、わずかな希望に全てを賭け、自らの体と魂を使い造り上げ、新しく生まれ変わったということを……。

 造り変え新しくなった体はそれまでの種族とは違う別の種族となっていました。

 それまであった戦闘能力を完全に失い戦うことが一切できなくなっていましたが、それでも彼女は悲嘆することはありませんでした。

 

 その理由は、またこうして夫にそばにいることができるのだから。

 

 姿や種族は変わっても、夫への愛はかわりませんでした。

 新しい体で懸命に影から夫を支えました。

 疲れて帰ってくる夫を少しでも癒そうと心のこもった料理を作り、少しでも負担にならないように部屋を綺麗にして心地よく過ごしてもらい、戦闘以外で手伝えることは何だってやりました。

 

 そしてその愛は夫が無くなっても消えることはありません。

 夫が人間との戦い人魔戦争で亡くなってもしまっても、夫との思い出の詰まった屋敷はいつも綺麗に保っています。

 

 それは、いつでも愛する夫が帰ってきていいようにという失せぬ愛の現れ。

 

 

 

 私達は大切な人を愛する気持ちから生み出された一族なのです。

 

 ですのでマスター、私はこれから先私の胸の高鳴りが止むその日まで、私はあなたの傍でずっと支えていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本人達ホムンクルス一族は知らないが、他の魔族達からは彼女達は『重い』一族と認識されている。

 


最後までお読みいただきありがとうございます。

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